ナマハゲと濁り湯と郷土料理を堪能 秋田・男鹿で五感を揺さぶる非日常の旅 「男鹿温泉郷 元湯 雄山閣」 【コラム:おんせん! オンセン! 温泉!】
2030年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録候補に、「温泉文化」が選定されましたね。温泉を愛する人間の一人として、とても喜ばしいニュースです。今後、温泉文化が国内外からさらに注目されることになるでしょう。
日本国内には、無形文化遺産に登録されているものが多数あります。昨年登録が決まった「伝統的酒造り」も話題に上がりましたが、秋田県の「ナマハゲ」も「来訪神 仮面・仮装の神々」の一つとして、2018年に登録されています。各家を「怠け者はいねがー」「泣く子はいねがー」と練り歩き、厄災を祓(はら)い、豊作・豊漁・吉事をもたらす「ナマハゲ」。大みそかの晩に、男鹿半島全域で行われる伝統行事です。
今回ご紹介するのは、そんな「ナマハゲ」文化が根付く男鹿市の「男鹿温泉郷 元湯 雄山閣(ゆうざんかく)」。温泉とナマハゲ、二つの伝統文化を同時に体感できる温泉宿です。

「男鹿温泉郷 元湯 雄山閣」の外観
日本海に突き出した男鹿半島の高台に湧く男鹿温泉郷は、現在数軒の宿が点在する風光明媚(めいび)な温泉地です。古くは日本書紀にも登場したとされ、戦後になってから温泉郷としての開発が始まった歴史があります。アクセスは、秋田市街から車で1時間ほど。JR男鹿駅からは、温泉郷へつながるバスも運行しています。
「元湯 雄山閣」は、そんな温泉街の入り口に立つ正統和風旅館。玄関をくぐると、まず目に飛び込んでくるのは迫力あるナマハゲのお面です。旅人を威嚇するようでありながら、どこか温かみも感じさせます。館内は、落ち着いた和の雰囲気。宿泊した部屋の窓からは、男鹿半島の広大な緑と、遠くの日本海を望みます。景色を眺めているうちに、自然と心が旅モードへと切り替わっていきますね。

玄関で出迎えてくれる「ナマハゲのお面」

宿泊した客室から男鹿の風景を一望
男女別の大浴場は、それぞれ内湯と露天風呂を完備。どちらのお風呂も10人以上は入れそうな広々としたつくりです。湯船付近は温泉成分が析出し、千枚田のようなコテコテな造形美が広がり、思わず見入ってしまいます。

男女別「内湯」

男女別「露天風呂」
泉質は、ナトリウム-塩化物温泉。黄・茶・緑・白が織りなすウグイス色を呈した濁り湯は、荒磯のようなミネラルの香りが漂います。そっと舐(な)めると、ほどよい塩ダシ味で、海鮮あら汁のような味わいでした。やや熱めの湯に身を沈めると、濃厚な成分が体にからみつき、ツルツル感とキシキシ感の同居する肌触り。温泉がジンワリと肌に染み込み、体の芯まで温まっていく感覚が極上です。日々の疲れや悩みもお湯に溶け出していくような、癒やしの湯浴みを堪能しました。温泉成分のベール効果で、湯上りはいつまでもポカポカ。お肌もずっとしっとりしていて、保湿効果も感じることができました。

内湯の「ナマハゲ湯口」
そんな良質な温泉を供給する内湯の「湯口」は、なんと「ナマハゲ」のお面。ナマハゲの口から伸びるパイプから、ジュバジュバとリズミカルなバズーカのように源泉を掛け流しています。こちらの源泉は55度と高温ですが、コンプレッサーで不規則に出すことで効果的に湯温を下げ、加水せず濃厚な源泉のまま、湯船を満たす工夫がされています。浴室の中でナマハゲと向き合いながら湯につかれる体験は、ここでしか味わえない特別なものですね。

カンパチ・イカそうめんなどのお造り

あんぷら餅
雄山閣は、食事でも男鹿半島の文化を味わうことができます。
この日の夕食は、カンパチ・イカそうめん・タイ・甘エビのお造り、アカウオの西京焼き、豚肉とキノコのすき煮などのほか、男鹿の田舎料理「あんぷら餅」も食卓に並びました。
「あんぷら餅」とは、雄山閣でしか味わいえないオリジナルメニュー。“あんぷら”とはじゃがいもの方言で、すりおろしたイモに片栗粉を混ぜて餅状にした伝統料理です。ホクホクもちもちの食感のコンビネーションが楽しい、ここに来なければ出会えない素朴ながらも記憶に残る味わいでした。

男鹿名物「石焼料理」

男鹿の海の旨味を閉じ込めたおいしさ
食事の終盤には、名物の「石焼料理」が登場します。真っ赤に焼いた男鹿の溶結凝灰岩を、秋田杉の器に入ったみそ仕立ての汁に投入すると、瞬間で沸騰し、湯気と音が豪快に立ち昇ります。そこにカワハギ、渡りガニ、エビを入れ、一気に煮え切り完成。海の旨味(うまみ)と香りが凝縮され、魚介の身はプリプリで、五臓六腑(ろっぷ)に染み渡る力強いおいしさです。目の前で調理される演出も含め、五感で味わう食のエンターテインメントでした。

五風なまはげ太鼓ライブ
温泉街の中心にある交流会館「五風(ごふう)」では、迫力の「五風なまはげ太鼓ライブ」を観覧することができます(不定期開催)。開演は20時半からのため、食後の観光におすすめです。鳴り響く重低音の太鼓ライブは、ロックドラマーさながらのサウンドと迫力。エネルギーに満ちあふれた圧巻の30分でした。
温泉とナマハゲという2つの伝統文化を体感できる男鹿温泉郷。芯まで温まる濃厚な温泉と、男鹿の海と大地が育んだ郷土料理、そして間近で観覧するナマハゲの迫力と、アグレッシブな非日常を味わいに行ってみませんか。きっと、五感と記憶に刻まれる旅になることでしょう。
【男鹿温泉郷 元湯 雄山閣】
住所 秋田県男鹿市北浦湯本草木原52
電話番号 0185-33-3121
【泉質】
ナトリウム-塩化物温泉(低張性 中性 高温泉)/泉温55.3度/pH:6.5/湧出状況:-/湧出量:-/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,800以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)
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