自動車リサイクル法施行20年(下) 国内資源循環の高度化へ 「勝ち筋見いだす制度設計必要」と経済産業省
経済産業省の産業構造審議会と環境省の中央環境審議会による合同作業部会が取りまとめた「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書」は、これまでの20年間で確立された「適正処理の確保」を基盤としながらも「国内資源循環の推進」の重要性が高まったことが大きな特長です。
従来の自動車リサイクル法は、不法投棄の防止やシュレッダーダストの埋め立て量削減、フロン類によるオゾン層破壊の防止などといった「廃棄物処理の適正化」に主眼が置かれていました。しかし、カーボンニュートラル実現や国内の資源循環の重要性が高まる中、今後はどのような資源を、どのような品質で回収し、どのように自動車や他産業の製品・素材として再び循環させていくかといった「質の高い資源循環」にも対応していくことが求められています。
今回の報告書の主な論点は(1)使用済み自動車の海外流出(2)不適正な解体・処理への対応(3)使用済み車載用リチウムイオン電池(LiB)の適正処理・リサイクル体制の構築などが挙げられています。
経済産業省自動車課の井上英輝係長は「これまでの制度運用について一定の成果が得られてきたからこそ、次の5年・10年を見据えながら制度の在り方を検討していく必要がある」と話します。
「知識・技能要件」の導入
資源循環の「入口」となる解体現場に様々な環境変化への対応が求められています。
現在、日本国内の自動車解体許可業者は4000社超。業界全体では日本人事業者が大半を占めるものの、地域によっては外国籍事業者も増えています。

解体業者・粉砕業者の許可の状況=経済産業省・環境省審議会資料から抜粋

左】解体業者4,067者の国籍(令和7年3月末時点)【中央】令和4から6年度に新規許可を取得した解体業者426者の国籍【右】被指導・助言対象者の国籍(令和6年度)=経済産業省・環境省審議会資料から抜粋
近年、自治体による立ち入り検査時に、意思疎通が十分に図れないといった課題が指摘されている中で、報告書が打ち出した方針の一つが、すべての解体業者を対象とした「知識・技能要件」の導入です。
井上氏は「廃棄物処理法ではもともと知識・技能要件が許可申請時に確認されていますが、自動車リサイクル法では明記されていませんでした。そこで、講習制度を設けて最近の自動車リサイクル制度を取り巻く課題も含めて知識を習得してもらい、修了テストなどを通じて知識・技能の習得状況を確認できる制度を構築しようとしています」と説明します。具体的なスケジュールについて、井上氏は「2026年度中に関係者間での検討を開始し、目標としては2028年度から講習制度を開始、2029年度には実際の許可要件として自治体が判断する材料の一つにできるよう動いています」と明かした上で「これは特定の事業者を排除するためのものではない」と強調します。
「外国籍事業者かどうかにかかわらず、すべての解体業者に適正な制度運営をお願いしたいと考えています。知識・技能要件の導入も、日本人を含めた解体業界全体の規律強化と資質向上に資する取り組みとして行います。日本語を中心とした設計を検討するなど言語能力も考慮しながら、結果として健全な事業者が正当に評価され、制度に則った適正な運営が行われる環境を整えていくことが目的です」
さらに、自動車リサイクル情報システム(JARS)の大幅な改修が進められ、ビッグデータ解析によって不自然な移動報告や処理の遅延などがみられる事業者を抽出できる仕組みを整備するなど、自治体による立入検査の強化も進めていきます。
使用済みLiB2040年度には約40万個
自動車産業が電動化(EVシフト)へ向かう中、リサイクル現場にはこれまで扱う機会が少なかった新たな資源・部品が持ち込まれています。その筆頭が、使用済み車載用リチウムイオン電池(LiB)です。
環境省の推計によると、使用済み電動車由来のLiBの排出量は2030年度には約13万個、2040年度には約40万個へと増加する見通しです。今後、EVの普及とともに、使用済みLiBへの対応は自動車リサイクルにおける重要な課題になることが予想されます。
井上氏は、「EVの廃車が増えることで、リチウムイオンバッテリーをはじめとする新しい部品の適切な処理が必要になってきます。発火リスクなども指摘されているので、適切に処理できる業者に回さなければいけません。不法投棄につながらないよう、リユース・リサイクルの高度化も含めて総合的に検討する必要があります」と説明します。

経済産業省自動車課の井上英輝係長
2026年度中に作業部会開催
現在、使用済みLiBは自動車メーカーなどによる自主的な回収スキームを通じて無償で回収されていますが、今後の排出量増加等も見据え、持続可能な回収・処理体制について検討していく必要があります。
さらに中国メーカーを中心に普及が進むコバルトやニッケルを含まないリン酸鉄リチウムバッテリーは、コバルト・ニッケルを含むLiBと比べて回収できる資源の価値が低く、リサイクル事業の採算性が課題となる可能性もあります。
「そのため、2026年度中に専門の作業部会を開催する方向です。まずは国内外の発生予測や資源循環をめぐる動向をしっかりデータ分析した上で、将来のリスクも見込みながら、メーカーによる先進的な取り組みやリサイクラーの技術開発動向も含め、電池エコシステムとしての将来像を検討していきます」と井上氏は話します。
単に使用済みLiBを廃棄するのではなく、ブラックマスからコバルトやニッケル、リチウムなどの有価金属を回収・精錬して再び車載電池の材料として循環させる。LiBのリユース・リサイクル高度化は、資源循環の促進にとどまらず、重要資源の安定確保にもつながる重要な取り組みとなっています。
欧州ELV規則への主張
現在、世界の自動車産業に大きなインパクトを与えているのが、欧州委員会が提示した「ELV(End of Life Vehicle)規則」です。規制施行10年後には、新型車に使用するプラスチックの25%を再生材にし、そのうち一定割合を使用済み自動車由来の再生材(Car to Car)とすることが求められています。
欧州のルール変更に日本はどう対応していくのか。欧州のルールをそのまま追従すべきなのでしょうか。井上氏の回答は冷静かつ力強いものでした。
「欧州ELV規則については、その制度動向を注視しながら、国内の自動車メーカーをはじめとする関係者とも連携して対応していく必要があります」
その上で井上氏は欧州の制度をそのまま国内に取り入れるのではなく、日本の実情や強みを踏まえた“勝ち筋”を見極める重要性を訴えます。「海外の制度動向は重要ですが、一律に国内で再生材の含有割合を定めたとしても、対応するリサイクル技術が伴わなかったり、母体となるELVが少なかったりすれば、実効的な運用が難しくなり、場合によっては日本市場の停滞を招きかねません。また、国内で再生材を十分に確保できなければ、海外からの輸入に依存する可能性もあります」
日本には、長年にわたって培われてきた自動車の解体・選別技術と全国に広がるリサイクル・資源回収のネットワークがあります。
「日本の経済市場全体がしっかりと資源を循環できる制度設計が今後も求められています。欧州をはじめとする海外の制度動向も踏まえつつ、日本の強みを生かした循環体制の構築が重要と考えます」(井上氏)
勝ち筋見いだす制度設計
「車は使い終わったら捨てるもの」。そんな従来の常識は、もう過去のものです。私たちが乗っている愛車は、15年後、20年後の日本を支える「貴重な資源」です。
欧州をはじめとする世界的なルール変更の波に対し、受け身で従従するのではなく、日本が長年培ってきた解体・選別技術や高度なデジタル管理の仕組みを生かし、日本の実情に合った新たな資源循環の形を創り出していく。
経済産業省・環境省が取りまとめた法施行20年目のレビュー。それは、日本の自動車産業の競争力を維持しながら、次の世代へ資源とモノづくりの基盤をつないでいくための、新たな挑戦の始まりともいえます。
「制度設計を行う上で、最も大切にしていることは何か」との問いに、井上氏はこう答えます。「制度設計において何を一番気にするかは、省庁や関連業者の立場によっても変わってきます。その中で、経済産業省としては自動車産業が日本の国内資源循環の取り組みの中で、海外にもしっかり勝ち筋を見いだしていけるような制度設計が必要だと考えています」
適性処理を確保するだけでなく、資源を国内で循環させ、自動車産業の競争力にもつなげる。自動車リサイクル制度は今、大きな転換点を迎えています。
オートオークションとELV制度の両立も
「今回のワーキンググループで最も印象的だったのも、オートオークション市場における車両の取り扱いと自動車リサイクル制度との両立をどう図っていくかという議論でした。オークション業界としての事業を維持・発展促進させながらも、資源循環につなげていくための仕組みが構築できないか、検討を重ねてきた経緯があります。まだ具体的なアイデアが固まっているわけではありませんが、今後も重要なプレーヤーであるオークション業界を含め、両立できる体制づくりを検討していきます」(井上氏)
自動車リサイクル制度を取り巻く環境や今後の取り組みの方向性は、極めて広範囲にわたります。井上氏は「一つの政策だけで解決できるものではなく、中古車リユース、部品・素材リサイクル、そして多岐にわたる関連事業者が一体となって資源をより高いレベルで循環させる制度設計が求められていることを理解いただければ幸いです。国内外の制度動向も踏まえながら、日本の実情や強みを踏まえ、総合的に対応を進めていきます」と力強く話します。
次回の制度評価は5年後の2031年頃に予定されています。この5年間こそが、今後の国内資源循環の方向性を検討・具体化していく重要な期間となります。自動車リサイクル制度は今、適正処理を確保する仕組みから、国内の資源循環と産業競争力を支える仕組みへと、大きな転換点を迎えています。
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