地域の困窮度と膵臓がん死亡率の関連を日本全国で検討(2015~2022)
特に75歳未満の男性で、地域の困窮度が高いほど膵臓がん死亡率が高い
2026年10月28日
国立大学法人神戸大学
大阪医科薬科大学
神戸大学大学院医学系研究科の伊藤ゆり教授、西尾麻里沙研究員、片岡葵特命助教、大阪医科薬科大学の須藤靖弘大学院生、太田将仁非常勤講師、関西医科大学の小村慶和助教、国立がん研究センターの平林万葉研究員、聖路加国際大学の井上真奈美研究科長・教授、東北大学の中谷友樹教授らの共同研究チームは、地域の困窮度と、2015~2022年の膵臓がん死亡との関連を検討しました。日本全国の1,884市区町村について、人口動態統計や国勢調査などのデータを使って分析しました。
地域の困窮度は、国勢調査から求められる、社会経済状況を表す地理的剥奪指標(Area Deprivation Index: ADI)を用いて評価しました。男性では困窮度が高い地域ほど膵臓がん死亡率が高く、特に75歳未満で関連が強くみられました。解析では、市区町村ごとの違いに加え、同じ二次医療圏に含まれる市区町村に共通する地域の特性も考慮しました。地域の喫煙率、へき地度(Rurality Index for Japan: RIJ)、がん診療連携拠点病院の有無を考慮しても、男性における困窮度との関連の大きさはほとんど変わりませんでした。75歳未満の女性でも、困窮度が高いほど膵臓がん死亡率が高いという関連がみられましたが、その関連は男性より弱いものでした。
この研究は、2026年9月19日に科学・医学分野の国際誌『Scientific Reports』(Nature Portfolio)にオンライン掲載されました。
ポイント
男性では、地域の困窮度が高いほど膵臓がん死亡率が高いというこれまでの研究と同様の傾向が、2015~2022年にも認められた。
地域の喫煙状況や医療アクセスに関連する要因を考慮しても、結果はほとんど変わらなかった。
75歳未満の男性では、困窮度と膵臓がん死亡率との関連がより強かった。
© 須藤靖弘(CC BY 4.0)
研究の背景
膵臓がんは予後が悪いがんの一つであり、日本でも膵臓がんによる死亡数は増加しています。膵臓がんの罹患や死亡には、喫煙、肥満、長期にわたる糖尿病、過度な飲酒などの個人レベルの要因に加え、住んでいる地域の社会経済的な環境も関連する可能性があります。
日本では、1995~2014年のデータを用いた以前の研究で、地域の困窮度が高いほど膵臓がん死亡率が高いことが示されています。しかし、こうした関連がその後の2015~2022年にも認められるのか、また、市区町村が含まれる二次医療圏や、地域の喫煙状況、医療アクセスに関連する要因を考慮した場合にも関連がみられるのかについては、十分に検討されていませんでした。
そこで今回の研究では、2015~2022年の日本全国のデータを用いて、市区町村レベルの困窮度と膵臓がん死亡との関連を検討しました。市区町村が含まれる二次医療圏※1も考慮した解析を行い、地域の喫煙状況や医療アクセスに関連する要因を考慮するとともに、関連の大きさが年齢によって異なるかについても検討しました。
研究の内容
日本全国の1,884市区町村について、人口動態統計や国勢調査などのデータを使って分析しました。地域の困窮度は、国勢調査から求められる、社会経済状況を表す地理的剥奪指標(Area Deprivation Index: ADI)※2を用いて評価しました。
解析では、市区町村ごとの違いに加え、同じ二次医療圏に含まれる市区町村に共通する地域の特性も考慮しました。
男性では困窮度が高い地域ほど膵臓がん死亡率が高く、特に75歳未満で関連が強くみられました。
地域の喫煙率、へき地度(Rurality Index for Japan: RIJ)※3、がん診療連携拠点病院※4の有無を考慮しても、男性における困窮度との関連の大きさはほとんど変わりませんでした。75歳未満の女性でも、困窮度が高いほど膵臓がん死亡率が高いという関連がみられましたが、その関連は男性より弱いものでした。
今後の展開
今回の研究は、市区町村単位で地域の困窮度と膵臓がん死亡率との関連を把握し、地域単位のがん対策を検討するための資料となるものです。今後は、全国がん登録を用いて、地域の困窮度や医療機関への所要時間と、膵臓がんの罹患、診断時の進行度、治療内容、生存率との関連を検討することで、今回の研究で認められた死亡率の格差が、膵臓がんの罹患の格差や診断後の生存の格差とどのように関係しているのかを明らかにし、「誰一人取り残さないがん対策」の実現につながることが期待されます。
用語解説
※1 二次医療圏:
都道府県が設定する医療提供体制の地域単位で、複数の市区町村から構成される。
※2 地理的剥奪指標(Area Deprivation Index: ADI):
その地域に居住する集団の社会経済的な困窮度を示す指標。国勢調査による世帯・職業・住居に関する8項目を用いて算出され、値が高いほど困窮度が高いことを示す。
※3 へき地度(Rurality Index for Japan: RIJ):
日本の市区町村における医療機関への地理的なアクセスのしにくさを評価する指標。人口密度、最寄りの病院までの直線距離、離島であること、天候が病院へのアクセスに及ぼす影響の4要素から構成され、値が高いほどへき地性が高いことを示す。
※4 がん診療連携拠点病院:
全国で質の高いがん医療を受けられる体制の整備を目的として国が指定する医療機関。本研究では、各二次医療圏にがん診療連携拠点病院が少なくとも1施設あるかどうかを、医療アクセスに関連する地域指標の一つとして用いた。
謝辞
本研究は、厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業(23EA1034)および日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)(JP25K00554)の支援を受けて実施されました。
論文情報
・タイトル:Area-level socioeconomic inequalities in pancreatic cancer mortality in Japan: a multilevel analysis
・著者:Sudo Y, Komura Y, Ota M, Kataoka A, Nishio M, Hirabayashi M, Inoue M, Nakaya T, Ito Y.
・掲載誌:Scientific Reports(2026年9月19日オンライン掲載)
・DOI:10.1038/s41598-026-71547-6
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