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重水素MRIを用いたがん治療効果の早期予測法を開発

がん治療における治療効果の早期診断法として期待

2023年9月21日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

重水素MRIを用いたがん治療効果の早期予測法を開発 がん治療における治療効果の早期診断法として期待

【本研究のポイント】
・臨床で汎用されているMRIの磁場強度(1.5T)にて重水素MRI法を開発
・重水素イメージングにより重水のMRI信号ががん治療に早期に応答することを発見
・がんの形態的変化に依存しない早期の治療効果の診断法として期待

【研究概要】
 東海国立大学機構 岐阜大学高等研究院/One Medicine創薬シーズ開発・育成研究教育拠点(COMIT)先端医療機器開発部門の兵藤文紀准教授(JST創発研究者 水島パネル)、同大医学系研究科放射線医学分野の松尾政之教授、Abdelazim Elhelaly博士研究員、同大応用生物科学部共同獣医学科の森崇教授、岩崎遼太助教らのグループは、臨床で汎用されているMRI※1磁場(1.5T※2)での重水素MRI法を開発し、膵がん移植マウスモデルにおいて、放射線治療や、抗がん剤治療効果を早期に検出できることを明らかにしました。本研究により、重水※3をMRIの造影剤として活用することで、がん治療効果の超早期診断への応用が期待できます。
 放射線治療※4や抗がん剤を用いた化学療法※5後の治療効果は、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)を用いた形態学的評価などを基に判別しています。しかしながら、がんの大きさは治療後数週間から数ヵ月間変化しない場合もあり、その判別には時間を要していました。また治療効果が得られない場合には、時間的な損失が大きいためがん治療の効果を早期に予測する方法が求められています。
 本研究では、臨床で汎用されているMRIの磁場強度(1.5T)を用いた重水素MRI法を確立し、水に近い性質を持つ重水を造影剤とすることで、膵がんモデルマウスでの重水の蓄積による変化の可視化に成功し、特にがん組織では、①重水が蓄積すること、②重水の蓄積が、放射線治療や抗がん剤による治療に対して早期かつ鋭敏に変化することを発見しました。これらの研究成果は、がんの大きさが変化する前に、治療効果を評価できる新たなイメージングバイオマーカー※6として期待されます。
 本研究は主に、日本学術振興会科学研究費補助金「小径膵癌の検出および超早期治療効果判定を可能とする重水素代謝MRI法の開発」(22K07768)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業「電子伝達体をプローブとする多重超偏極イメージング法の創成」(JPMJFR2168)、文部科学省の光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)「量子生命技術の創成と医学・生命科学の革新」(JPMXS0120330644)の支援を受けて行った研究です。
 本研究成果は、the American Association for Cancer Researchの学術雑誌「Clinical Cancer Research」に掲載されました(2023年9月21日)。

【研究背景】
 放射線療法や抗がん剤を用いた化学療法後の治療効果は、主にCTやMRIなどの画像診断技術が用いられています。CTやMRIによる形態学的評価は、がんなどの疾患を正確に診断し治療効果を確認するために必要不可欠な診断法です。しかしながら、がんの大きさは治療後数週間から数ヵ月間変化しないことがあるため、治療効果の判別には時間がかかるという問題があります。また治療効果が得られない場合には、時間的な損失が大きいためがん治療の効果を早期に予測する方法が求められています。重水素は、核スピン(陽子と中性子を各1つ保有)を持つために、MRIで信号を得ることができます。重水素MRI法は、重水素化した様々な分子も可視化できる可能性があり、MRIを用いた機能・代謝イメージングへの展開も期待されます。これまでの研究では、ヒトへの応用が困難な超高磁場MRI(7Tなど)を用いた重水素MRIによる研究が報告されていました。臨床で用いられているMRIの磁場(1.5T)で重水素MRI法が開発されれば迅速な医療応用が期待されます。

【研究成果】
 本研究では、現在臨床で汎用されている1.5Tの磁場強度を持つ重水素MRI法を開発しました。まず1.5Tの磁場に適合する検出器(9.8MHz)を用いて、重水と水を含む疑似試料を重水素イメージングにより解析し本技術の精度を評価しました。膵がん移植モデルマウスを作製し、重水を30%含む水を自由飲水にてマウスに与え、経日的に重水素イメージングを実施したところ、マウスの重水素のMRI信号は経日的に増強し、特にがん組織では顕著に蓄積することがわかりました。次に、放射線治療もしくは、抗がん剤治療(ゲミスタビン、アバスチン)などを行い、1日目、3日目および7日目に重水素イメージングおよび通常のプロトン(1H)イメージング(解剖学的情報)を取得したところ、MRIで描写されるがんの大きさは、治療10日後においても変化はありませんでしたが、重水素イメージングでの重水の蓄積(正常肝組織のミトコンドリア機能エネルギー代謝には影響なし)は、いずれの治療においても治療1日後、3日後に明確に変化することを発見しました。これらの研究成果は、がん治療後のがんの大きさが変化する前に、治療効果を評価できる新たなイメージングバイオマーカーとして期待されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202309209872-O7-36VmnJ1z

【今後の展開】
 本研究では、臨床適合するMRI磁場での重水素イメージングにより、種々のがん治療において、重水のMRI画像強度をイメージングバイオマーカーとする方法を示すことができました。本研究の成果は、がん治療の早期治療効果の判別への臨床展開に加え、様々な重水素含有分子を用いた機能・代謝イメージングへの応用など、広範な応用が期待されます。

【用語解説】
※1 MRI(磁気共鳴画像化法)
   主に体内の水分子の水素原子(1H)由来の核スピン情報を元に体内の臓器の解剖学的情報を可視化する画像診断装置。
※2 T(テスラ)
   磁石の強さを表す単位。
※3 重水
   重水素原子(2HもしくはDと表記)と酸素原子で構成された水(D2O)。
※4 放射線治療
   X線などの放射線をがん組織に照射して治療法。外科療法や化学療法と共にがん治療を支える3本柱の1つ。
※5 化学療法
   抗がん剤を用いてがんを治療すること。
※6 イメージングバイオマーカー
   病気の情報を画像化し治療効果や治療戦略の指標とすること。

【論文情報】
雑誌名:Clinical Cancer Research
論文タイトル:Deuterium Magnetic Resonance Imaging Using Deuterated Water-Induced 2H-Tissue Labeling Allows Monitoring Cancer Treatment at Clinical Field Strength
著者: Hirofumi Asano, Abdelazim Elsayed Elhelaly, Fuminori Hyodo*, Ryota Iwasaki, Yoshifumi Noda, Hiroki Kato, Koki Ichihashi, Hiroyuki Tomita, Masaharu Murata, Takashi Mori, Masayuki Matsuo
DOI: 10.1158/1078-0432.CCR-23-1635

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