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「特集」天気晴朗なれども波高し 高市政権1年 下がらぬ支持率 参院対応、ハト派動向が鍵

本田雅俊
政治行政アナリスト・金城大学客員教授

自民1強、野党体たらく

 高市早苗政権は、10月21日で発足から満1年を迎える。これまでの政権の多くはご祝儀相場が追い風となって勢いよく船出しても、わずか数カ月で人気に陰りが見え始めた。だが、高市政権は大きく崩れることなく、ほぼ一貫して高い内閣支持率を保っている。「発足以来最低を更新」などと報じられても、おおむね50%以上を維持してきたのだ。もっとも、今回の内閣改造後には数ポイントしか増えず、1年前の勢いは感じられない。
 支持率が高いのは、初の女性首相であることや、高市政権のタカ派的な政策が日本全体の右傾化傾向と合致していることなどが背景にある。しかし、最大の理由は、自民党が抜きん出た「1強」になっているからだ。言い換えれば、中道改革連合の自滅に象徴される野党の体たらくが、自民党の「民主的な一党独裁」、そして高市政権の高支持率をもたらしている。
 「1強」は自民党の中にも見られる。高市首相の性格や政策を毛嫌いする者もいるが、「代わりうる人がいない」のが実情だ。昨年、総裁の椅子を争ったライバルたちは軒並み政権に取り込まれ、「ポストをエサに、うまく手なづけられてきた」(閣僚経験者)。自民党内の「1強多弱」は高市首相の巧みな人事とライバルたちの不甲斐なさによるものだといってもよい。

「ラスボス」麻生氏が政権の重し役

 一時期は町村派(清和会)に籍を置いたものの、高市首相は基本的に無派閥であったし、仲間づくりを苦手としてきた。同僚議員との会食回数の少なさからも、高市首相の人嫌いはよく伝わってくる。そうした政権基盤の弱さをうまく補うために重宝されてきたのが、麻生太郎・自民党副総裁に他ならない。
 「令和の道長」「麻市政権」などと囁かれるが、麻生氏ほどナンバー2に収まりのいい政治家は少ない。数とポストが権力の源泉であることも知悉している。だから麻生派だけがあえて存続の道を選んだし、副総裁や幹事長ポストにもこだわってきた。世間の評判は必ずしも芳しくないものの、政治の酸いも甘いもかみ分けた「永田町のラスボス」が副総裁として政権の重し役を果たしていなければ、党内の不満はとっくに噴出していた。高市首相と麻生副総裁の思惑は見事に一致してきたわけだ。
 早くも高市政権が長期政権になると予想する者もいる。確かに現時点では、支持率の安定度合いは小泉純一郎政権や安倍晋三政権を上回る。高市首相も両政権における官邸主導を参考にしているようだ。その一方、支持率が高いだけで、意外に脆いとの見方もある。高市首相にとって高支持率こそが生命線であり、失速すれば瞬く間に遠心力が働くという意味だ。政治家は実に現金なものだ。

禍根を残した人事イエスマンばかり目立つ

 英国のサッチャー元首相を鑑とする高市首相は、上意下達の意思決定を好む。そのためか、政権にはイエスマンばかりが目立つ。今回の内閣改造は新味に欠けるが、それでも役職希望アンケートという名の「踏み絵」が実施され、来年の総裁選に有利に働くよう人員が配置された。のみならず、首相本人と直接やり取りできるのは官邸の中でもほんの一握りのお気に入りだけだというから、「雲の上の女王様」(自民ベテラン秘書)の比喩は、あながち間違いではないかもしれない。
 内閣改造で最も注目されたのが、林芳正総務相(当時)の処遇だった。林氏はアンケートに白紙回答し、対応を高市首相に任せたという。来年の総裁選を無難に乗り切りたいのであれば、三顧の礼を尽くして林氏を留任させるべきだったが、「自信満々のマダムは、(林氏を)簡単に凌駕できると踏んだ」(前出・閣僚経験者)のだろう。
 かねがね高市首相は、何かにつけて盾突く参院自民党の石井準一幹事長を苦々しく思っていたといわれ、今回の人事で実質的に更迭した。参院自民党には伝統的に強い独立意識と矜持があり、歴代首相も最大限に気を使ってきたが、高市首相はその聖域に踏み込んでしまった。「参院審議はこれまで以上に難航するかもしれない」(自民国対)と危惧されて当然だ。
 高市首相の国会軽視は、国対委員長人事からも透けて見える。前任の梶山弘志氏や坂本哲志氏、さらに遡れば森山裕氏や大島理森氏など、歴代の委員長は閣僚も経験した重量級であった。
 だが、今回の村井英樹氏は当選6回の閣僚未経験者だ。審議の効率化を目指す点で高市首相のお眼鏡にかなったようだが、果たして「手間暇による合意形成」(衆院事務局OB)が重んじられる国会に許容されるかどうかは意見が分かれる。

消費税減税と定数削減国会最大の焦点

 今国会の最大の焦点は、消費税減税と議員定数削減だ。来年4月からの食料品の消費税減税はすでに自民党で党議決定されているが、まだまだ対立の火種が残る。日本維新の会との約束である衆院の議員定数削減も待ったなしだ。先の内閣改造で中司宏氏が入閣したが、「一丁目一番地」の公約が今回も反故にされれば、維新の連立からの離脱は十分にあり得る。もしも「下駄の雪」になり下がったならば、維新は間違いなく消滅に向かう。
 衆院選で大勝したこともあって、高市政権には驕慢と傲慢が散見されるが、維新と組んでも、参院では依然として少数だ。いざとなれば衆院だけで決められるといった甘い皮算用があるのかもしれないが、「3分の2条項(法案を衆院で可決後、参院で否決されても衆院の3分の2以上の多数で再可決すれば成立させられる)は、それこそ伝家の宝刀で、やすやすと使えるはずがない」(前出・自民国対)のが現実だ。
 骨格を維持した小幅改造だったとはいえ、今回の人事でいくつもの試練に直面することは避けられない。すでに今国会は冒頭から、簗和生農相の過去の発言などに対する野党の厳しい追及が繰り広げられている。
 麻生副総裁や鈴木俊一自民党幹事長、主要閣僚の続投は、来年の総裁選を多分に意識したものだ。高市首相としては安定飛行で来秋を迎え、総裁選に圧勝したい目論見が見て取れる。そして願わくば、その余勢を駆って憲法改正にまでたどり着きたいようだ。

楽観できない総裁再選 野党、不満代弁できるか

 しかし、少なからぬ政界関係者は「そう簡単ではない」と口をそろえる。確かに高市政権は「1強」だが、一皮むくと、脆弱性を孕んでいる。まだはっきりと見えないだけで、すでに不満のガスは国民の中にも、また自民党の中にも溜まりつつある。政策や政治姿勢、政権運営で躓けば、いつでも政局になりかねない。
 野党はバラバラだし、国民の信を失っていることは明らかだ。だが、それでも合わせれば参院では多数だ。遅ればせながら、高市政権は来年4月から食料品の消費税減税を実施しようとしているが、この数年でそれを大きく上回る物価高騰を記録してきた。財源の見通しも立っていない。国民の不満や不安、怒りを野党がうまく代弁できれば、政権にとって凄まじいボディーブローとなる。
 自民党内でも火種は燻る。高市首相の強い思い入れで、外交や防衛、経済、財政の各政策で舵は大きく右に切られてきた。その結果、かつてハト派と称された勢力を中心に、まさに臥薪嘗胆の思いを抱く。「同じ党でよく一緒にやっていられる」(野党中堅)と皮肉交じりに感心されるほどだ。これまでそうした不満の受け皿はなかったが、林氏や石井氏が政権中枢から遠ざけられたことで、反高市勢力は結集しやすくなる。

年内に支持率5割切れば続投に黄信号か

 高市首相の力が直接及ばないことでも、政権に大きなダメージをもたらしかねない。高市首相はトランプ米大統領と親密な関係を築いてきたが、米国の中間選挙後、逆にそれが政権の大きな足かせになる可能性は否めない。
 日銀の政策金利引き上げは、サナエノミクスに水を差すと見られる。さらに、高市首相をめぐっては根強い健康不安説があるし、後見人の麻生副総裁は御年すでに86歳だ。
 第2次高市改造内閣は発足してまだ間もないし、臨時国会も始まったばかりだ。だが、この2、3カ月のうちに、来年の政治の行方がおぼろげながら見えてくるのではないか。
 年内に支持率が5割を下回れば、高市首相の続投に黄信号が点るだろうし、引き続き高水準を維持していれば、再選は濃厚となる。12月12日までの短い会期だが、潮目が変わる要素を多分に含んだ臨時国会から目が離せない。

政治行政アナリスト・金城大学客員教授 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に『総理の辞め方』『元総理の晩節』『現代日本の政治と行政』など。

(Kyodo Weekly 2026年10月19日号より転載)

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