水中座禅にアートな境内歴史ある四万十町で出合う、新しい「お寺と町のカタチ」
▼カレーから広がる町おこし
地域を発展させていくために、町おこしにも前向きに取り組む窪さん。代表的なイベントは定期的に開催される「しまんとマルシェ」だ。各飲食店が自慢のカレーを提供する。きっかけは地元のブランド米「仁井田米」を食べてもらいたい、古書販売を通じて街の活性化を図りたいという思いから始まった。お米をおいしく食べてもらう手段としてカレーに着目し、地域の飲食店に声をかけたところ、その思いに賛同する店舗が次々と集まった。最初は、水中座禅の企画も手がける鈴木さんのアイデアにより、「リトル神保町」として古書とカレーを融合したイベントから始まった。今では町内外の多様な出展者が集まり、年に3回ほど開催しているという。

東京から高知へ移住し、四万十町で“アウトドア系クリエイターシェアカフェ”『sotoffice』を立ち上げ、地域と人をつなぐ拠点を育んできた鈴木弘平さん
四万十町を訪れたら、岩本寺の他にも立ち寄りたい場所が数多くあるが、今回は2カ所を紹介する。
▼200年受け継がれる糀文化「井上糀店」
四万十町で200年以上の歴史を誇る「井上糀(こうじ)店」。現在は6代目の井上征子さんと7代目の雅恵さん親子が二人三脚で店を営む。薪や釜戸を使用する昔ながらの製法で、無添加の糀やおみそを手造りしている糀店。
大きな木桶で米を蒸し、手作業で冷ましてから糀菌を混ぜ込む。その後、25〜30度に保たれた「糀室(こうじむろ)」で2~3日かけて発酵させることで米糀が出来上がる。この生糀を用いた米みそや麦みそ、甘糀といった多彩な商品を製造している。
井上糀店では生糀を使ったみそづくり体験を行っている。仕上がった米糀に塩を混ぜ合わせ、釜戸で茹でた大豆と混ぜ合わせる。行程自体はとてもシンプルだが、ここから半年以上の時間をかけてゆっくりと熟成させる。仕上がりまでの時間経過も楽しみの一つで、1〜2カ月目のフレッシュで香りが強い状態を好む人もいれば、半年後の熟成した深い味わいを好む人もいて、さらには2〜3年寝かせたコクのある黒味噌へと育てる楽しみもある。時間を惜しまない手造りだからこそ、熟成段階ごとに異なる味わいが楽しめるのが醍醐味だ。

(左から)1年半寝かせたみそ、1カ月寝かせたみそ、9カ月寝かせたみそ
7代目の雅恵さんは、家庭でみそを造る文化が薄れつつある今、手造りの魅力を伝えるべく体験会を続けている。「みそは日本の食文化に欠かせない調味料。時間はかかるが、みそは簡単に造れる。体験会を通じて気軽にみそ造りに触れ、造ってみたら意外と簡単!と思ってくれたらうれしい」と思いを語った。

井上糀店の7代目、井上雅恵さん
▼伝統を受け継ぎ新しい酒蔵文化をつくる「文本酒造」
四万十町の街中に佇む小さな酒蔵「文本酒造」。四万十川の清流と特産の仁井田米で日本酒を仕込む醸造元だ。
酒造りの司令塔である杜氏(とうじ)を務めるのは石川博之さん。2022年10月のリニューアルオープンに合わせて着任し、今年で4年目を迎える。120年以上の歴史を誇る文本酒造だがコロナ禍の影響もあり休業を余儀なくされていた。しかし、この地域に根付く酒蔵文化をなくすわけにはいかない、と再建に立ち上がった文本酒造の社長から声がかかったという石川さん。「最初は酒蔵の衛生環境もままならず、こんな状態では無理だとお断りした。ただ、ゼロから話し合い一緒に酒造りを模索できることが魅力的だった。こんな酒蔵は他にないだろうと。改装も約束してくれたので、お世話になることを決めた」と当初の心境を振り返る。また、この地域の魅力も決め手となったという。「酒蔵といえば山奥が多いが、ここは小さいとはいえ街中にあって生活もしやすい。あとは、ここの人たちがすごくいい人で、居酒屋で気さくに話しかけてくる地元住民の人柄に引かれた」と茨城県の酒蔵から四万十町へ移住した経緯を語る。

(右から)杜氏の石川博之さん、番頭の十代幸栄さん、店長の立石紗衣さん
文本酒造の日本酒は地元のブランド米「仁井田米」を使用している。食べてもおいしい地元の米を、酒にしてもおいしいと思ってもらえるような一本にしたいという思いがある。製造面では、人が丁寧に手をかけられる小型のタンクを使用し少しずつ仕込んでいる。搾った酒を長期間タンクで熟成させるのではなく、なるべく早く瓶詰めし、搾りたてに近いフレッシュな状態で届けることも方針のひとつ。また、ラベルデザインはグリーン、ピンク、イエローなど色分けし、それぞれ香りでイメージを表現している。海外のお客さんにもイメージで選びやすいような工夫を凝らしている。
店頭には文本酒造で製造する日本酒や甘酒などが並び、隣には「酒蔵食堂」を併設している。四万十ポークや地元産の野菜等の食材を使った食事メニューや、蔵で醸した日本酒の飲み比べを堪能できる。

文本酒造の日本酒飲み比べ(酒蔵見学時の飲み比べメニュー)
決して派手ではないけれど、おいしいご飯があって、親しみやすい地域の人がいる四万十町。伝統や根付いた文化を大切にしながら、変化することを恐れない。それは、地域の支え合いがあるからではないか。岩本寺の住職・窪さんは「四万十町に来れば必ずみんな好きになってくれる。コアなファンを増やしたい」という。“ただいま”と言いたくなるような温かさがここにはある。まずはふらっと立ち寄るくらいの気持ちで、四万十町を訪れてみてほしい。













