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【はばたけラボ】投資を社会の教養に、金融を学ぶと自分の未来も企業も日本も見えてくる

 「投資」と聞くと、株価の上げ下げを追いかけてお金を増やす―そんなイメージを持つ人は少なくない。だが、金融を学ぶ意味は本当にそれだけなのだろうか。8月23日、日本取引所グループと大阪取引所、学生投資連合USICが「JPX投資カレッジ2026 Summer」を共催した。講演や施設見学、四季報クイズに参加した学生たちは何を学んだのか。講演者や学生へのインタビューから、若者にとって金融を学ぶ意味を探った。

「JPX投資カレッジ2026 Summer」に参加し、会場となった大阪取引所の施設を見学中の学生たち

▽20歳の方がお金持ち?

 最初の講演「日本株式市場の現状と新しい投資のカタチ」では、東京証券取引所金融リテラシーサポート部の猪瀬登志夫さんが登壇した。

 学生たちに最初に投げかけたのは、株価やNISAの話ではない。

 「50代の私と20歳の皆さんでは、ファイナンス的に考えると圧倒的に皆さんの方がお金持ちなのです。“時間”を持っているからです」

 お金に限らず、時間や労働力といった有限の資源を今どこに振り向け、将来どれだけ大きな価値として戻すか。その考え方自体が「投資」だという。

 とりわけ時間は、一度使えば取り戻せない。20歳の学生には、50代にはない30年以上の時間がある。その時間を語学や資格、ファイナンスの勉強に使えば、自分の能力を高め、将来の働き方や選択肢を広げる「自己投資」になる。

 株式投資も基本的な考え方は同じだ。猪瀬さんは投資を「成長するものにお金を託して、その成長の分け前を受け取ること」と説明した。成長が期待できる企業の株主となり、企業価値が高まれば、株価の上昇や配当という形でその成果を受け取る。これが「株式投資」の基本的な仕組みだ。

 さらに、興味のある会社や将来働いてみたい会社に少額でも投資すると、それまで読み流していたニュースが急に目に留まるようになると話した。投資対象として企業を見ることで、社会の出来事が「自分とは関係のないニュース」ではなくなっていく。講演後半では、PBR(株価純資産倍率)やROE(自己資本利益率)、資本効率を意識した日本企業の経営改革にも触れた。

学生を前に説明する東京証券取引所金融リテラシーサポート部の猪瀬登志夫さん(中央のモニター前)

▽株価は景気より先に動く

 次に、株式アナリストでストックボイス「東京マーケットワイド」のキャスターを務める鈴木一之さんが登壇し、「20代までに知っておきたい投資の話」と題して講演した。

 鈴木さんは、40年以上にわたって株式市場を見てきた経験をもとに、金利や企業業績、成長株・割安株・景気敏感株の違いなど、株式投資を考える上での基本的な見方を紹介した。

 「43年間この世界を見てきていますが、いまだに分からないことだらけです」

 そう前置きしながらも、時間をかけて説明したのが、景気と株価の関係だ。鈴木さんが学生たちに「二つだけ覚えてほしい」と挙げたのは、「株価は景気の鏡」であることと、「株価は景気より先に動く」ことだ。

 「好景気なのに株価が下がる。不景気なのに株価が上がる。これが株式投資で一番難しいところです」

 景気は単に「良い」「悪い」で見るのではなく、今どちらへ向かっているのかを見る必要がある。まだ不景気でも回復へ向かっていることがあり、逆に好景気の最中でも悪化が始まっていることがある。株価は、その変化を実際の景気より先に織り込んで動くという。景気の変化を見る手掛かりとして、在庫や価格にも触れ、景気敏感株は景気の波に応じて繰り返し動くという特徴も紹介した。

景気の仕組みを分かりやすく説明していく株式アナリストの鈴木一之さん

▽四季報で企業を「読む」

 二つの講演の後、参加者は大阪取引所の施設を見学。続く懇親会の会場では、共催する学生投資連合USICが企画した「四季報クイズ」が行われた。

 USICは2008年に設立された学生団体で、学生の金融リテラシー向上を目的に、金融機関などと連携した勉強会、金融情報誌「SPOCK」の発行、IRプレゼンコンテストなどに取り組んでいる。

 クイズでは、参加者がグループに分かれ、『会社四季報』の「特色」に書かれた短い文章から企業名を当てた。「冷菓や中華まん中心。大豆製品や調味料等と多角化――」。答えは井村屋グループだ。他にも小林製薬、住友商事、三菱UFJフィナンシャル・グループなど、大阪とゆかりの深い企業が登場した。

 単に会社名を知っているかではなく、何を作り、どこに強みがあり、どんな事業で収益を上げているのかを読み取る。講演で聞いた企業の見方を、学生自身が使ってみる時間になった。

グループに分かれ、USICの進行で進められた四季報クイズ

▽金融を学ぶとニュースの見え方が変わる

 USICの幹部である横田雄生さんが株式に関心を持ったきっかけは、高校時代に参加した株式投資コンテストだった。明治大学へ進学後は、投資関連サークルに入り、勉強会や他大学の学生との交流を通じて知識を深めてきた。

 学び始めて変わったのは、「数値を見ても以前は分からなかった」ニュースの見え方だという。最近の出来事で印象に残っているのは、半導体メーカーであるキオクシアの株価高騰だ。高校時代から同社のメモリーカードを使っており、親近感のある企業だった。

 「私の母親も『キオクシアすごいね』と言っていたのですが、上がり方がすごかった分、自分は慎重派なので『これはちょっと危険なんじゃないか』と思っていました」

 その後、株価は大きく下落した。

 「『靴磨きの少年』の例えもありますけれど、やはり確実な知識に基づいて投資するのが一番だなと感じました」

 「靴磨きの少年」とは、普段は株に関心のない人まで株の話をするようになった時は、相場の過熱を疑えという有名な例えだ。

 現在は大学2年生。これから実際に投資を始める予定だ。だが、専業トレーダーを目指して金融を学んでいるわけではない。

 「(就職活動で)自分に合った企業を分析する上で、ひとつの重要な知識になると思っています。投資を通じて社会を勉強している点は、若干のアドバンテージになるのかなと。それに、今後いろいろうまくいかなかったとしても、人生を立て直すひとつの選択肢として残しておきたいなと思っています」

USICの幹部を務める明治大学政治経済学部2年生の横田雄生さん

▽企業を見る力が、日本を見る力に

 猪瀬さんは講演で、海外に比べて日本では家計のお金が株式などの投資に回りにくいことに触れた。そのため、企業側ではこの十数年、コーポレートガバナンス改革が進められてきた。東京証券取引所は市場再編を進め、上場企業に「企業が持つ資本をどのように使い、成長につなげるのか」を意識した経営を求めている。

 投資される側の企業が変わろうとしている一方、投資する側はどうだろうか。

 金融知識は学校の授業にも組み込まれるようになったが、教科書の多くがリスクの説明に割かれている。もちろんリスクを知ることは必要だ。しかし、猪瀬さんが学生に伝えたかった金融の意味は、それだけではない。

 「金融を知ることによって、ビジネスモデルだったり、会計だったり、業界の中のサプライチェーンだったり、いろいろなものを俯瞰して見ることができるようになります」

 猪瀬さんは、金融を学ぶことには日本企業の価値を見つける意味もあると話す。

 「日本企業にはすごく良いところがあるのに、なかなか評価されてこなかったところがあります。金融の知識をみんなが知ることによって、より世界に知ってもらえる。それが巡り巡って、日本の価値として高まってくるといいのかなと思っています」

 企業を見極める人が増えれば、評価されるべき企業に資金が向かう。金融を学ぶことは、個人のためだけでなく、社会のお金の流れにも関わっている。

学生グループに混じって談話する東京証券取引所金融リテラシーサポート部の猪瀬さん(中央)

▽株の向こうに人がいる

 講演後、鈴木さんは「あれも言えばよかった、これも言えばよかった」と笑った。その一つが、株式とは何かという根本的な話だ。

 「株式投資って、人類が編み出した中で『最も難しいゲーム』なんですよ」

 一方で、株式は金や為替など、単に値動きするものとは違うとも話す。

 「例えばソニーの向こう側には社員がいて、その先にはご家族がいて、世の中に向けて製品を届けている。常に『人』がいるんですよね」

 人が働き、商品やサービスをつくり、それを誰かが使う。その積み重ねが企業の業績となり、株価にも表れる。

 「株というのは、僕たちの『暮らしそのもの』なんですよ」

 株式市場を見ることで、普段は見えない社会の姿も見えてくるという。学生が就職先として思い浮かべやすいのは、飲食や小売りなど身近なBtoC企業だ。しかし、その裏側には素材、機械、電子部品など、社会を支える多くのBtoB企業がある。

 「株式市場を通じることで、『実はこういう会社が裏側を支えているんだ』と見えてくる。それが社会のベースなんです」

 さらに鈴木さんは、株を持つことを「二つ目、三つ目の人生を生きるためのツール」と表現した。入りたかった会社に就職できなかったとしても、株主としてその企業の成長を見守ることはできる。鈴木さんが最後に教えてくれたのは、株式投資を資産運用だけでなく、自分とは別の人生や企業とつながる手段として見る視点だった。

懇親会で乾杯の音頭を取る鈴木さん

▽金融を学ぶ、その先にあるもの

 参加した学生からは「景気の見方が勉強になった」「堅苦しいものだと思っていたけれど、やってみたくなった」といった声が聞かれた。一方、経験のある学生からは、景気敏感株の難しさを指摘する声もあった。

 猪瀬さんが語ったのは、金融を通じて企業や社会を俯瞰し、自分の人生を考える力。そして鈴木さんが語ったのは、株価の向こうには企業があり、そこで働く人と暮らしがあるということだった。

 金融は「もうかるか、損をするか」だけの話ではない。社会を知り、企業を見て、自分の働き方やお金について考えるための知識でもある。学生たちが持ち帰ったのは、自分で社会を読み、選ぶための視点だったのかもしれない。


#はばたけラボは、未来世代が思い切りはばたける環境づくりに取り組む共創プラットフォームです。企業・学校・地域とともに多様な取り組みを未来へつなげ、そのはばたきを支えるためにパートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。

  • 「JPX投資カレッジ2026 Summer」に参加し、会場となった大阪取引所の施設を見学中の学生たち

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