KK KYODO NEWS SITE

ニュースサイト
コーポレートサイト
search icon
search icon

【事業承継はいま】<上> チャレンジする中小企業を後押し 中企庁、高齢事業者の承継も課題

2024年7月に秋田県で開催された日本政策金融公庫の事業承継マッチングイベント(日本政策金融公庫提供)

 中小企業(小規模事業者を含む、以下同じ)の廃業などを抑える目的で、1990年代から高齢化する経営者に早期の事業承継を促してきた国の政策がいま、中小企業の成長支援策として、あらためて注目を集めている。70歳以上の高齢経営者の割合は依然3割台と高く、その事業承継が「引き続き喫緊の課題」(中小企業庁)である一方、経営者の代替わりが生産性や経営力の向上に結び付く施策効果も表れてきた。こうした成果を日本経済全体の成長につなげていくため、中企庁は事業承継やM&A(企業の合併・買収)を契機にした「チャレンジする中小企業」への成長支援を強化していく方針だ。最近の中企庁の施策を中心に上・中・下の3回にわたりリポートする。

▽休廃業・解散が急増

 帝国データバンクの全国企業「休廃業・解散」動向調査によると、23年に全国で休廃業・解散した企業(個人事業主を含む)は前年比10.6%増の5万9105件と4年ぶりに前年を上回った。1年間に全国の企業の4%が市場から退出・消滅し、合計2兆8424億円の売上高が失われた計算になる。このうち「資産超過」かつ「黒字」にもかかわらず休廃業した企業は全体の16.1%と、16年以降で最も高かったコロナ禍直後の20年(17.0%)に次ぐ水準だった。

 休廃業時の経営者を年代別で見ると「70代」が4割を超え、最多だった。さらに中企庁の「中小企業実態基本調査」によれば、経営者が70代の企業(21年度時点)のうち売上高10億円超の事業者は11.3%だが、同1千万円以下の小規模事業者は35.6%を占め、高齢・小規模事業者対策が焦点になっている。

 企業の休廃業はコロナ禍で増加が見込まれたが、これまでは政府による実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資、持続化給付金や雇用調整助成金などによる手厚い資金繰り支援により、厳しい経営環境下でも抑制されてきた。しかし23年に入り支援策は徐々に縮小。これに電気代などの物価高、人手不足・人件費増が重なり、「これまで事業を継続するか否かの決断を先送りしてきた中小企業が、さらなる経営悪化に陥る前にやむなく会社を畳む『あきらめ廃業』などが増えている」(帝国データバンク)とみられ、こうした流れの中で、高齢・小規模事業者も「後継者へバトンタッチができないまま高齢化が進み、休廃業・解散を余儀なくされている可能性がある」という。

 後継者難を原因とする倒産も依然として続いている。帝国データバンクによると、代表者の病気や死亡のほか、後継者を育成できずに単独の事業継続を断念するケースのほか、「現経営者が能力・素質面を理由に後継者候補への事業承継に消極的になったり、後継者候補側から断ったり、またはその双方が起きたりする、当事者間の認識の差=ミスマッチング問題も顕在化しつつある」という。また、後継者問題は地域差が大きく、後継者不在率と代表者年齢がそれぞれ全国平均より高く、過疎化も進んでいる地方などでは「地域経済の衰退が著しく、十分な事業承継支援の経験やノウハウを持った支援機関が育ちにくい」状況にある。

▽支援の裾野拡大

 全国の高齢・小規模事業者は「商店街や中心市街地の衰退」「生活必需品・サービスを扱う店舗の減少」などの地域課題に対処していく上で重要な役割を担っている。このため、その支援策が重要な政策課題になっている。

 各地の事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者不在の小規模事業者と起業家をマッチングする「後継者人材バンク事業」を実施。支援センター間で情報共有し、遠隔地間のマッチングにも対応している。23年度には後継者候補として1500件余りの新規登録があり(累計の登録者数は8500人超)、94件が成約した。

 日本政策金融公庫も支援センターと連携し、「後継者不在の小規模事業者」の第三者への事業承継を支援する事業を展開している。20年度から全国規模で開始し、23年度の実績は、引き合わせが前年度に比べ1.8倍の666件、成約が2.4倍の103件あった。同公庫は増加の原因について「申し込み登録者が累計で1万3千件に増えていることに加え、外部機関と積極的に連携したため」と話している。このほか23年度には、全国15カ所で、オープンネーム(実名)で後継者を公募するマッチングイベントをオンラインで開催。事業譲渡を希望する61社の事業者が、延べ1974人の参加者に向け自社の事業内容を紹介し、後継者を公募した。24年度も鳥取、山梨など13県で開く予定。

 さらに中企庁は事業承継支援の網の目を広げるため、関係機関との連携・協力関係を強化し、「支援プレーヤー」の裾野を拡大している。

 独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)は主に親族承継、支援センターは主に第三者承継について、地域の民間支援機関を対象に、OJT(職場内訓練)形式を含めた研修や勉強会を連携して実施し、対象者に基礎的な支援ノウハウや専門スキルを習得させている。サプライチェーン(供給網)上の「連鎖廃業」を防ぐため、取引先などが円滑に事業承継できるよう、新たに各種の業界団体とも連携を図る。

 また、事業承継支援を積極展開している地方自治体と協力し、きめ細かく「自走可能な地域単位の支援ネットワーク」を構築することで、いまだに支援が行き届いていない層の掘り起こしにつなげていく。中小事業者が適切なタイミングで事業承継のほか、廃業の判断もできるよう、支援センター、中小企業活性化協議会、よろず支援拠点の公的3機関の連携も強化している。

 こうした政策展開の中で、高齢・小規模事業者について、中企庁は「必要な事業者を廃業させずに事業承継を積極的に推進」しながら、事業者が廃業を検討している場合には「適切なタイミングで事業者に廃業・再チャレンジを促す」ことも選択肢として、個別の事業者や地域ごとの実情に即した対策を柔軟に進めていく方針だ。

編集部からのお知らせ

新着情報

あわせて読みたい