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「特集」 ライドシェア 担い手不足に効果?タクシー離れ進行 〝足の確保〟困難も

牧村 和彦
計量計画研究所 理事

〝国家総動員〟の日本版

 「タクシー不足」を補完するために、今年4月からスタートした自家用車を活用したタクシー事業(通称・日本版ライドシェア)。まずは、東京や京都、横浜、名古屋など大都市からの船出となった。多くの国民は移動の課題が深刻となっている地方都市からスタートするものと捉えていた人も多かったのではないだろうか? 実はライドシェアにはもう一つ、運行エリアや運賃の規制緩和が行われた通称「自治体ライドシェア」があり、3月から石川県の加賀市と小松市、4月には京都府舞鶴市と富山県南砺市、神奈川県三浦市で開始したサービスだ。いずれも二種免許を運転手の必要要件としない配車サービスであり、現行の法制度の範囲の中で、2種類のライドシェアが同時並行して始まった。

 前者の大都市部から始まった日本版ライドシェアは、国がタクシーが不足しているエリアを指定し、限られた時間帯にタクシーの指定供給量の上限まで営業が可能となる仕組みである。ライドシェアの運賃はタクシーと原則同じだ。5月10日の斉藤鉄夫・国土交通相の記者会見では、4月8日から5月5日までに約1万2千回の運行回数があったと報告されている。1日に換算すれば、わずか400回前後であり、東京エリアのタクシーだけで月に250万回を超える運行回数の規模からすると、その効果を判断するのは時期尚早だろう。

 東京エリアでは複数のアプリから配車できる。ただし、Uber(ウーバー)はタクシー、自家用車いずれかを選択できるものの、GO(ゴー)では一般会員が自家用車を選択できない仕掛けとなっている。例えば平日の日中は、7〜11時までがライドシェアを利用できる時間帯だ。台数がかなり限られているからだろうか、Uberからは配車を依頼しても成立することは非常に難しかった(Uber Japanによると4月末で東京では25台が稼働)。GOのアプリはタクシーかライドシェアかを利用者が直接選択できないため、タクシー会社の裁量で当面はライドシェアが優先的に配車される可能性がある。ふたを開けてみれば、4月からスタートした岸田文雄政権肝いりの新事業は、タクシー不足からライドシェア不足という皮肉な結果になっているようだ。

 ここで重要なのは、斉藤国交相が5月10日の会見で、「担い手や移動の足不足」の対策として一定の効果があったのではないか、と発言している点だ。コロナ禍で多くの高齢者の運転手が退職し、同業他社への転職もあり、車両はあるものの運転手が急減し、大都市においても時間帯やエリアによっては需給のバランスをタクシー業界自体がうまく調整できなくなった。この4月からスタートした日本版ライドシェアは、まさに〝国家総動員によるタクシー会社のインターンシップ大実験〟と捉えると理解しやすいのではないだろうか?

自治体ライドシェア

 一方、先述の「自治体ライドシェア」。配車アプリは、同じ石川県であっても加賀市がUber、小松市は「いれトク!(愛称iーChan(あいちゃん))」と異なり、神奈川県三浦市ではGOだ。運行時間帯も地域ごとに異なり、加賀市では日中の7~19時は加賀温泉駅と主要施設間のみ、19~23時は市内全域で運行が可能で、小松市は木・金・土曜日の17~24時のみ市内全域で運行できる。三浦市は19〜25時と、地域の実情に応じて設定されている。

 ではどの程度の利用がされたであろうか? 三浦市はスタートした4月17日から5月6日まで、大型連休期間を含めた利用実績が報告されており、1カ月弱で利用回数はわずか16件にとどまったようだ。大型連休期間の4月27日から5月6日までに限っても6件しか利用がなかった。そもそもの移動ニーズが存在していたのか、地域が抱える移動の課題にライドシェアが最善の選択なのか、実証実験が終了する12月16日まで注視していく必要がありそうだ。

 いずれにしても、日本版ライドシェア導入により、担い手不足が改善されたのか、ライドシェア導入前後での移動手段がどう変化したのか、単にタクシーからライドシェアに転換しただけなのか、鉄道やバスからの転換により公共交通機関同士の取り合いになってはいないのかなど、ライドシェアの有効性について丁寧な検証が求められる。京都市のように日常的に渋滞している地域では、供給量の緩和による渋滞への影響の有無、指定場所まで配車される予想時間と実績時間の乖離(かいり)やその実態など、都市機能への影響もモニタリングしていくことが大切だろう。

タクシー1本足打法

 こうして日本版ライドシェアの船出をみていると、担い手の不足と移動の不足の二つの課題に対して、「二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず」にならないか、とても心配だ。担い手不足はタクシーだけではなく、鉄道や路線バスも同様の課題を抱えている。移動の不足もタクシーだけで解決する話ではなく、〝タクシー1本足打法〟による規制改革はすでに限界が見えつつある。今後も日本版ライドシェアは、都市部、地方部ともに導入地域が広がるといわれており、現在の制度下でライドシェアのみ導入地域が広がっていった場合、日本各地、特に地方都市での移動の課題がさらに深刻化していくのではないかと筆者は考えている。

 課題の一つは、募集した運転手が数年後にはゼロになる可能性だ。10年前からライドシェアを本格導入している米国では、運転手は長続きしていないことが明らかとなっている。マサチューセッツ州では、2022~23年の間にライドシェアを担った運転手のうち、2年以上継続している人の割合は37・5%で、36・4%は半年も続かなかった。また、ライドシェア運転手の高賃金が取り上げられることがあるものの、運転手の5人に3人が1時間あたりで15ドル以下というのが知られざる米国の現実だ。

 ライドシェアは副業で働けることが一つのメリットとしてアピールされることがあり、確かにマサチューセッツ州では週に35時間以上運転する人が12・7%、10~35時間未満が36・6%、10時間未満が50・7%となっている。しかしこの10時間未満を占めている半数の人たちは、移動量全体でみるとわずか16・6%しかなく、副業での厳しい現実も明らかになっている。加えて米国では、ライドシェアが移民雇用の受け皿になっている点も忘れてはならないだろう。

 もう一つの課題は、市区町村ごとにバラバラのサービス、バラバラの運用になっていく恐れがあることだ。既に石川県内では隣接する加賀市と小松市で、開始早々に異なるアプリとなった。また、加賀市は地域の公共交通や乗り合いタクシーのお得なチケットが買える加賀MaaSアプリ、乗り合いタクシーのみが利用できる専用アプリも存在しており、アプリの乱立に拍車がかかっている。運賃は事前確定によるキャッシュレスがライドシェアのメリットであるものの、運賃の支払い方法も地域により異なり、例えば小松市では5月現在でPayPay(ペイペイ)限定となっている。

地域に合うサービスを

 地域の生活圏は広域化しており、市区町村ごとに異なるサービスの乱立を避けるためには、国や都道府県レベルで一層の役割が求められるだろう。大都市では、ピーク需要の対応で配車グループごとの需給調整に限界があり、また営業区域による営業ルールも繁忙期などで緩和は必須だ。静岡市のタクシー会社では、複数事業者と連携し、一つの会社で配車が困難な際には自動で協力企業によって調整されるデジタル共創社会に取り組んでいるところもある(例えば、静岡TaaSの取り組み)。福井県の鯖江エリアでは、地域の大規模イベント開催時には鯖江市、越前市、越前町の営業区域を緩和し、地域全体でイベントの足確保に取り組んでいると聞く(オープンファクトリーの「イベントRENEW(リニュー)」)。兵庫県豊岡市の城崎温泉では、個別の旅館の送迎をやめ、特急の到着に合わせて旅館などを循環する送迎サービスを地域全体で運営している。

 1990年からこの30年間、タクシー利用は3分の1に減少し、売り上げも同じく3分の1となった日本。タクシー不足ではなく、国民のタクシー離れが実態であり、短期的な状況に一喜一憂することなく、中期的な目線での対応が急務だ。2030年にはバスもタクシーも運転手が2~3割減少するとの報告もある。移動の足の確保が困難な市民や来訪者を想定し、地域に合った移動手段の組み合わせ、サービスの設計が今こそ求められている。ライドシェア1本足打法だけでは、国民の移動の自由、その確保への道のりは遠い。

計量計画研究所 理事 牧村 和彦(まきむら・かずひこ) 1966年生まれ。愛知県出身。モビリティーデザイナー。都市・交通のシンクタンク「一般財団法人計量計画研究所」に90年入所、現在は理事兼研究本部企画戦略部長。東京大学博士(工学)。筑波大学客員教授、神戸大学客員教授。内閣官房をはじめ政府の委員を歴任。代表的な著書「MaaSが都市を変える 移動×都市DXの最前線」(学芸出版社)で22年不動産協会賞受賞。

(Kyodo Weekly 2024年6月10日号より転載)

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