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「特集」 日本共産党 初の女性委員長退潮打破へ 鍵は自己改革

中北浩爾
中央大学教授

 共産党は1月15~18日に静岡県熱海市で行われた第29回党大会で、志位和夫委員長(69)が退任し、後任に田村智子政策委員長(58)を充てる人事を決定した。党員数や機関紙「しんぶん赤旗」の部数が減少を続ける一方で、党首公選制を提言した党員を除名するなど閉鎖的体質が続く。退潮傾向が著しい中、23年ぶりの委員長交代で初の女性を迎えた共産党に展望はあるのか。同月29日、中央大学の中北浩爾教授の研究室を訪れた。(聞き手・編集制作部 松村 圭)

先祖返り

 現在の共産党は、三重苦の状態だ。第一は、組織の衰退。党員数は1990年のピークの約50万人から半分の約25万人に減少し、高齢化も進む。機関紙「しんぶん赤旗」の部数も353万部だった80年のピークから、3分の1以下に落ち込んでいる。こうした事態は財政を直撃しており、党の財務・業務委員会責任者は昨年、「運用資金が底をつきかねず、党の機構も『しんぶん赤旗』も守れなくなる事態に直面している」と危機的状況を訴えた。第二は、議員数の減少傾向。現状は、国政は衆議院、参議院とも10議席程度。地方議員は、市町村合併の影響もあるが、97年の4千人台が2300人程度になっている。最後は、2015年の安全保障法制反対運動から始まった野党共闘の行き詰まりだ。共産党は一方的に候補者を取り下げるなど「野党連合政権」を目指して積極的に動いた。しかし、21年の衆院選の前に志位委員長と野党第1党の立憲民主党の枝野幸男代表が「限定的な閣外からの協力」で合意したところがピークで、その選挙で両党とも議席を減らすと一気に機運が後退した。

 こうした中で起きたのが、昨年の2党員の除名問題だ。かつて党本部の政策委員会で安保外交部長を務めた松竹伸幸氏と、元京都府委員会常任委員の鈴木元氏が、それぞれ「シン・日本共産党宣言」、「志位和夫委員長への手紙」を出版し、党首公選制の導入などを訴えた。いずれも、党勢衰退という課題を乗り越えるための建設的な提言という趣旨だったが、党は2人を除名した。処分理由は分派活動などによる党規約違反であったが、党首公選制を導入しない理由として、民主集中制が禁止する分派を生み出すことを挙げ、革命政党であることを強調した。「市民と野党の共闘」で進めてきたソフト化路線をかなぐり捨て、「先祖返り」してしまった。

 これまで「外」向けには柔軟性を見せてきたが、「内」に向けては革命政党としての教条性が変わらないことがあらわになった。マルクス・レーニン主義の別名である科学的社会主義、すなわち共産主義を維持し、民主集中制の組織原則に固執している。日本共産党は、1922年にコミンテルン日本支部として結成された。コミンテルンは21カ条の加入原則で「民主主義的中央集権(、、、、)制」(傍点原文)の採用を求めた。その後、民主集中制が実質的に緩和されてきたことは確かだが、現在も放棄されていない。

一刀両断

 2党員の除名問題が端緒となり浮上してきたのが、第29回党大会での「パワハラ問題」だ。党大会中の16日に大山奈々子神奈川県議が松竹氏らの除名処分について「何人もの方から『やっぱり共産党は怖いわね。除名なんかやっちゃダメだよ。志位さんに言っといてね』って言われました」と苦言を呈したところ、委員長に選出される直前の田村氏が18日の大会の「結語」のなかで「発言者の姿勢に根本的な問題がある」と非難。「あまりにも党員としての主体性、誠実性を欠く」など、数分にわたって大山県議の姿勢を叱責(しっせき)した。

 この田村演説に対して、複数の地方議員らがインターネットの交流サイト(SNS)で「ハラスメントだ。市民の理解は得られない」「気分が悪くなった」などと問題視する声を上げた。それでも、小池晃書記局長は翌日の記者会見で「発言内容の批判であり、人格を傷つけるものではない。パワハラとは違う」と弁明した。大山県議は「共産党が権力に関わると怖いという不安を抱いている」と周囲の状況を紹介したが、そうした懸念を裏付けてしまった。共産党は現在、国会での多数派形成による平和革命を目指しており、そうした観点からみて大山発言は重要な問題提起であったはずだ。しかし、一刀両断に切り捨ててしまった。

ラストチャンス

 その後、ネット上では、大山県議を擁護する党員らと党中央に追随する党員らが論争を展開している。共産党は民主集中制に基づいて規約で「党の内部問題は、党内で解決する」とうたっているが、ネット上ではすっかり形骸化している。注目すべきは、論争のレベルの高さだ。党中央に忠実な党員は大本営発表のような主張を繰り返しているが、党の現状に危機感を抱く党員は、一人一人が自分の頭で考え、自らの言葉で意見を表明している。これをみる限り、内部の風通しを良くし、外部に対しても自由な意見の表明を認めれば、共産党は活力ある組織に生まれ変わるはずだ。

 この「パワハラ問題」が興味深いのは、一般の党員の反応が大きいことである。松竹氏も鈴木氏も元専従活動家であり、党エリートといえる。したがって、除名問題は、党エリート間の対立という性格を持っていた。それに対して「パワハラ問題」は、閉鎖的でトップダウンの民主集中制が引き起こした事件であり、党組織の至るところで同種の被害が発生しているという訴えが相次いでいる。一種の#MeToo(ミートゥー)運動だ。実は、党大会の直前の1月11日、7名の党員・元党員が匿名で記者会見を開き、そのうちの一人の女性が、セクハラなどが党内で続発していると明らかにし、「『ジェンダー平等』『ハラスメント根絶』を掲げた党に期待している多くの市民への欺瞞(ぎまん)、裏切りだ」と訴えていた。

 共産党のリソース(資源)で最大のものは、党員の質の高さだ。赤旗を配達したり、党費やカンパで党財政を支えたりと、実に献身的だ。民主集中制の下、実質的に共産党を支配しているのは、専従活動家である。党官僚制によるトップダウンを弱めて、ボトムアップの党内民主主義を活性化させ、党員中心に作り直せば、党の再生は可能だ。「しんぶん赤旗」の配達や集金を70~80代の高齢者が支えている現状をみれば、組織としての体力が残っている今が、自己改革のラストチャンスであろう。

二つの選択肢

 共産党は非合法とされた戦前はもちろん、戦後も波瀾(はらん)万丈の歴史を刻んできた。党の平和革命路線が否定されたコミンフォルム批判とそれによる分裂、武装闘争路線の失敗などだ。しかし、平和革命路線に転じた上、分裂時には少数派だった宮本顕治氏が最高指導者の座をつかみ、中ソ両国からの「自主独立路線」を確立する一方、大衆的な党建設を進め、議席も大きく増やした。共産党は今もその成功体験に拘束されすぎている。宮本氏の後継の委員長となった不破哲三氏、志位氏も、宮本路線の枠を出られなかった。今、共産党が宮本氏から学ぶべきは、その路線の維持ではなく、新しいチャレンジを行うことではないか。

 しかし、共産党の自己改革は容易ではない。近年、共産党はジェンダー平等に取り組んでおり、今回の田村委員長の選出は、その文脈で大いに評価できる。しかし、表紙を変えただけという印象が強いことも否めない。共産党の党首は自由で公正な選挙で選ばれるのではない。前任者が選び、承認を受けるにすぎない。したがって、自分を選んでくれた前任者の路線を変えることが難しい。共産党は分派が生まれるという理由で党首公選を採用しないが、その結果、変化に対応するダイナミズムが乏しい。それどころか、田村委員長の仕事は国会周りなど外向きの部分にすぎず、より重要な党内の組織運営は引き続き志位議長が担うということのようである。

 共産党が共産主義のイデオロギーと民主集中制の組織原則を維持し続けるならば、今後も党勢の衰退が進み、「諸派」の一つに転落しかねない。ヨーロッパでも、共産党のままで党勢を拡張している例はみられない。

 ジリ貧を避けようとするならば、二つの選択肢がある。第一は、イタリア共産党のような「社会民主主義」政党への脱皮だ。ただし、これは野党連合政権の樹立を目標にするならば、という条件付きである。その場合、日米安保条約の廃棄や自衛隊の解消ではなく、それらの容認に転じなければならないし、大企業・財界への敵視もやめなければならない。そうしない限り、立憲民主党は共産党と政権を一緒に作るつもりがないからだ。もちろん、日米同盟の枠内でも地位協定の改定であるとか、辺野古の新基地建設反対を唱えることはできるし、資本主義の枠内でも格差是正や福祉の拡充は可能である。

 もう一つの選択肢は「民主的社会主義」政党に変わることだ。この場合は、政権に関わる可能性は低くなるが、日米安保条約の廃棄や自衛隊の解消、大企業・財界に対する批判などの主張はそのままでいい。ジェンダー平等や環境といった政策を重視すれば、若年層への浸透も図りやすくなる。ドイツやスウェーデンの左翼党、メランションの「不服従のフランス」、ギリシャのシリザ(急進左派連合)、スペインのポデモスなどのような、開かれた党組織を持つ急進左派政党だ。れいわ新選組も、この一つとして位置づけられる。

 日本共産党は旧ソ連や中国を社会主義とは認めず、先進国の日本で革命を起こすことを目指している。しかし、歴史上、先進国では共産党が主導する革命が起きたことがない。そうした事実を直視して大胆な自己改革に乗り出すのか、否か。決めるのは共産党自身だ。

 なお、共産党の指導部に異論や反論がある場合は、いつでも雑誌での対談などに応じる用意があることを申し添えておく。(談)

中央大学教授 中北浩爾(なかきた・こうじ) 1968年三重県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程中退。大阪市立大学助教授、立教大学教授、一橋大学大学院教授などを経て2023年4月から現職。専門は日本政治外交史、現代日本政治論。「自民党政治の変容」「自公政権とは何か―『連立』にみる強さの正体」「日本共産党 『革命』を夢見た100年」など著書多数。

(Kyodo Weekly 2024年3月4日号より転載)

 

 

 

 

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