難しい野生動物との付き合い方 藤波匠 日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」
先日、多摩川の河口から5キロほど上流の河川敷で、水辺を歩く野生のキツネを見かけました。都心でも、同じイヌ科のタヌキはよく見かけますが、キツネはとても珍しいと思います。
元来、生息域が近いとされるキツネとタヌキは、どちらも昔は都心でも目撃例が多かったようですが、タヌキがわずかな緑地などで細々と生命をつないできた一方、キツネは、都心はおろか郊外の農耕エリアや林地においても、人の目に触れることすら稀な存在となっています。
東京都のレッドデータブックによれば、タヌキは記載がなく、区部(東京23区内)でも絶滅のリスクは低いようです。一方、キツネ(アカギツネ)は、区部では2010年の段階で「絶滅」とされています。元々の生息密度や食性の違い、また毛皮の採れるキツネの方が捕獲や狩猟の対象となりやすかったことなどが、都市域における両種の明暗を分けたようです。
おそらく今回見かけたキツネは、多摩川沿いに上流から少しずつ下ってきながら、繁殖を繰り返してきたものと考えられます。都市化によって排除された野生動物が、近年、市街地に回帰しているという話を聞きますが、筆者が見た個体も、そうした例なのかもしれません。
一度は山間部に追いやられ、生息域が限定されていた野生動物が、里山の衰退や都市における緑地の増加、さらには人間社会への適応によって、都市部に再進出している例は、キツネばかりではありません。一時は全国で絶滅が危惧されたオオタカも、都心での目撃例が増えています。東京都のレッドデータブックによれば、2000年ごろからは区部でも繁殖が見られるようになり、営巣地数は徐々に増えているようです。
キツネやオオタカの都市部再進出は、動物が人間社会に適応したためと考えられ、特段人間に悪影響を与えるわけではないため、保護の対象としていくべきかもしれません。
ただ、近年は、人の生命を脅かしかねないクマやイノシシも都市部に頻繁に出没し、目撃情報や被害が報道されない日はないほどです。クマが人にとって脅威であることは当然ですが、イノシシもばかにできません。150キロにも達する成獣の巨体に体当たりされたり牙を突き立てられたりするようなことがあれば、骨折程度では済まない大けがに至る可能性があります。
クマやイノシシが都市部に頻繁に出没するのは、個体数増加のほか、山林の荒廃や生態系の破壊によりエサを求めて移動する範囲が拡大し、それが人の居住エリアと重なっていることが一因と考えられます。また、野生動物の生息域である山林と都市との間に広がる緩衝地帯であるはずの里山や農地が放棄され、適切に管理されていない影響もあるでしょう。
今後、里山地域において人口減少が進めば、今以上に山林や農地に手が入れられなくなり、野生動物と人間の軋轢も一層増していくものと考えられます。現状、クマやイノシシを排除するための決定打となる対策は見いだせていませんが、農山村地域の環境が健全に維持され続けることが重要であることだけは間違いありません。
(日本総合研究所 調査部 主席研究員 藤波匠)
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.25からの転載】
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