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平和な暮らしの希求自治体の非核宣言 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よんななエコノミー」 

 広島県府中町は、株式会社マツダの本社を有する自動車産業の町である。隣接する町村が1975年までに相次いで広島市に編入合併したことで、現在は四方を広島市に囲まれた特徴的な自治体となっている。町内にはイオンモールが立地し、広島市中心部にも近く利便性も高いことから、人口は5万人を超え、全国で最も人口の多い町として知られている。

 先日、この町の「非核町宣言」について話を聞いた。

 1945年8月6日の原爆投下は、爆心地から約5キロに位置する府中町にも大きな被害をもたらした。町内では爆風による被害が発生し、多くの町民が広島市内で被爆した。また、その後は市内から被爆した避難者が次々と流入し、学校などの施設が救護所となった。しかし、医師も薬も不足するなかで十分な救護を行うことは難しく、多くの命が失われたという。

 町ではこの経験から、平和の大切さを伝える取り組みが続けられてきた。こうしたなか、1980年に英国マンチェスター市が非核宣言を行い、その運動が広がるなかで、1982年に「非核町宣言」を行ったという。

 当時の山田機平町長は、「戦争は国が行うが、犠牲を負うのは住民である」と述べ、平和や核の問題を国の専管事項として捉えるのではなく、自治体の政策課題として考える必要性を訴えた。

 その後、府中町は全国の自治体に呼びかけ、他の自治体とともに「非核都市宣言自治体連絡協議会」の設立に中心的な役割を果たした。今日では全国の9割を超える自治体が非核宣言を行っている。

町民から募集した短歌が刻まれた府中町の原爆慰霊碑

 自治体の役割と聞くと、多くの人は福祉、教育、子育て支援、防災、まちづくりなどを思い浮かべる。また、経済的な暮らしの安心に向けて、雇用創出や産業振興への期待も高まる。

 政府は、強い経済、豊かな生活環境、選ばれる地方の実現を目標とする「地方創生に関する総合戦略」を掲げ、さらに稼ぐ地域づくりに軸足を置いた「地域未来戦略」の策定に取り組む。

 だが、地方自治法が掲げる「住民の福祉の増進」という理念に立ち返るとき、平和はあらゆる福祉政策や経済活動の前提条件であり、住民の生命と安全を守り、平和な暮らしを支えることが自治体の重要な使命であることに気づかされる。

 近年、安全保障政策や非核三原則のあり方をめぐる議論が続いている。自治体の非核宣言には法的拘束力はない。しかし、府中町のように、自治体が住民に最も身近な政府として、また住民の生命と安全を守る立場から、核兵器のない世界を求める意思を発信し、平和について学び、語り合う機会を持つこともできる。

 豊かな地域づくりについて考えるなかで、平和がその前提にあることを改めて意識させられた。
(東洋大学教授 沼尾波子)

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.24からの転載】

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