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人口減社会の企業誘致は“伴走支援型”へ。 CEATECの自治体ブースに学ぶ「企業から選ばれる地域」の条件とは?

出生率が上振れても人口は減っていく。ほとんどの自治体が向き合わなければいけない共通の課題背景だ

 人口減少と高齢化が進む中、自治体の税収基盤は長期的に先細る構造にある。総務省の人口推計によれば、日本の総人口は2024年10月時点で1億2380万人余りと前年から55万人減り、人口は2008年の1億2809万9千人をピークに、減少局面が続く。

 人口移動の偏りは都市部の過密と地方の空洞化を同時に進め、地域間の差を固定化しやすい。国の将来推計でも、人口減少は長期にわたる前提として描かれている。

 だからこそ今、自治体は「待つ」のではなく、企業に選ばれる理由を作りにいく局面に入った。

 ■「誘致」は、制度や条件を並べる競争ではない

 デジタルイノベーションの総合展「CEATEC2025」の自治体ブースを取材し、はっきり感じたことがある。

 企業誘致は、「補助金の手厚さ」だけで競うフェーズではなくなっている。

 もちろん企業立地を支援する制度は重要だ。だが、各自治体の出展担当者が現場で語っていたのは、補助金の額面の話ではない。進出後に「どう事業活動を持続していくか」の視点だ。

北陸新幹線の延伸により、東京・大阪・名古屋からのアクセスが大幅に向上。主要都市との移動時間短縮は、企業活動や人材交流の面でも大きな強みとなる

 電力、用地、人材、都市機能、実証フィールド。誘致の成否を左右するボトルネックが、企業側の投資判断の前後に散らばっている。自治体側はそこを理解し、ボトルネックをひもといていく姿勢で企業誘致施策を組み直し、試行している。

 第一弾で見た「AI・DXは構想から運用へ」という社会の変化は、自治体の企業誘致においても、同じ方向で起きている。

■自治体の企業誘致提案は4つの型に分かれた

図:企業誘致は事業運営上の論点(電力・用地・人材など)を先回りして整える“提案型”へ重心を移しつつある

 今回取材した、CEATECに出展した自治体のアプローチは、大きく4つの型に整理できる。

1つ目は、都市型オフィス誘致

 賃料・雇用・都市開発をセットで設計し、企業に「都市拠点を作らせる」型だ。

2つ目は、制度の明快さで投資判断を早める型

 工場・研究・オフィスなど用途別に制度を整備し、判断コストを下げる。

3つ目は、エネルギー×デジタルで産業の器を先に作る型

 再エネや港湾など、地域資産を起点に、企業が新たに入り、持続的に操業できる構造を先に用意する。

4つ目は、人材・共創・BCPで差し込む地方拠点型

 首都圏近接や災害リスクの低さ、移住定住支援などで、企業の現実的な課題に合わせて提案する。

 例外として、誘致ではなく地元企業の出展を支援する型もあった。自治体が前に出て広報する形ではなく、地場企業の商談機会そのものを後押しするアプローチだ。

 以下、各自治体の“提案力”を、企業の事業運営基盤を設計する視点で見ていく。

■都市型オフィス誘致:福岡市は「賃料×雇用×再開発」で拠点を作らせる

 福岡市が提示していたのは、都市の機能と制度を束ねた、分かりやすい「拠点化の絵」だった。

 研究開発用オフィス、外資企業の拠点、本社機能。狙う企業タイプを明確に切り分けた上で、賃料や雇用への支援を設計し、さらに天神・博多の都心再開発(天神ビッグバン/博多コネクティッド)という受け皿拡張をセットで語っていた。

 重要なのは、制度が“単発の補助”ではなく、都市のアップデートと連動している点だ。

 企業にとっては「入る箱の選択肢が増える」「採用の勝ち筋が立つ」という見通しにつながる。自治体側のメッセージも、「来てください」ではなく、「ここなら円滑に事業運営ができますよ」という提案になっていた。

■制度の明快さ:北陸3県は「投資判断の摩擦」を減らす

 北陸3県(富山・石川・福井)は、制度の説明がとにかく具体的だった。

 工場、研究所、本社機能、オフィス、データセンター。用途ごとに支援メニューが整理され、要件や上限が提示されている。企業側にとっては、社内稟議(りんぎ)で最も時間がかかる「条件の確認」と「比較」を短縮できる。

 さらに象徴的だったのは、北陸3県と北陸電力が連携し、企業誘致を“エネルギー運用”まで含めて支援する姿勢だ。

 投資判断は、設備投資額だけでは決まらない。電力コスト、供給の安定、脱炭素対応、省エネ運用。そこまで含めた「伴走」の輪郭が見えると、誘致は制度説明から一歩進む。

 北陸は、自治体が「投資の入口」を整えるだけでなく、電力会社が「事業運営のインフラ」を補完する構造を提示していた。

■エネルギー×デジタル:石狩市は「ワット・ビット連携」で産業を設計している

 石狩市のメッセージは明確だ。

 再エネの地産地活を前提に、データセンターを集積させる。電力と通信を同時に最適化する「ワット・ビット連携」の発想で、産業の器を先に作る。

 ここで重要なのは、再エネを“作る”だけで終わらない。需要(データセンター)を組み込むことで、地域の成長につなげようとしている点だ。

 さらに、実証フィールドとしてスタートアップの取り組みにも触れていた。データセンター集積を“地域DXの好機”として捉え、需要側の産業も育てる——この思想は、誘致を「場所の提供」から「産業の育成基盤」へ押し上げるものだ。

■都心2kmの再定義:新潟市は「集積と共創」の舞台を作る

 新潟市は、新潟駅リニューアルを起点に、駅-万代-古町を結ぶ「にいがた2km」を都心軸として再定義していた。

 狙いは、デジタル関連企業の集積を増やし、その集積を企業と地場も含めた“共創の舞台”に変えることだ。

 誘致のポイントは2つある。

 1つは、アクセスやコスト、人材といった「進出理由」を言語化していること。

 もう1つは、進出後に企業が孤立しないよう、コミュニティや共創の仕掛け(例:食×デジタルの共創)を用意し、「交流→アイデア→事業」の循環を描いていることだ。

 制度の話が入口だとしても、企業が本当に欲しいのは、進出後、現実的に事業を継続して営むことができる環境だ。新潟市はそれを都市単位で設計している。

■BCPと従業員の定住:沼田市は「首都圏近接×災害の少なさ」で勝負する

 

 群馬県沼田市の提案は、企業の現実に寄り添っていた。

 首都圏からのアクセス、災害リスクの低さ、団地という従業員の受け皿。BCPを意識する企業にとっては、投資判断における意思決定の根拠が立つ条件を揃える。

 さらに、制度が「雇う」の後、「住む・通う」までカバーする点が特徴的だ。

 新幹線通勤補助やトライアルステイ支援など、人材確保と定着まで見据えた設計は、地方拠点企業の成功確率を上げる。

 誘致は「場所」ではなく「継続」。その前提を押さえた、企業目線に立った誘致だ。

■誘致ではなく支援:千葉県は「地元企業の商談機会」を支える

 千葉県は他の自治体ブースの中でも、少し特殊なコンセプトだ。自治体が企業誘致を前面に出すのではなく、CEATECの県ブースで県内中小企業の出展を支援し、PRとマッチングの機会を作る。

 つまり、県がやっているのは「誘致」ではなく、「販路と提携の入口」だ。

 ホログラフィ、ロボティクス、ドローン、生成AI映像、材料・成膜装置など、出展企業の領域は幅広い。

 県は前に出ず、地場の技術を前面に押し出す。自治体の役割を“裏方の営業支援”に寄せたこの型は、今後増える可能性がある。

■次に地方進出企業が見るべき「3つの条件」

 CEATECの自治体ブースが示していたのは、企業誘致の取り組みが「制度設計」から「事業運営の支援」に移り変わっているという事実だ。

 企業側が次に見るべきポイントは、少なくとも3つある。

  1. 要件:投資額・雇用・賃金・対象業種。自社が“活用できる制度”はどれか。
  2. 受け皿:団地、都心、港湾、再エネ100%エリア、共創の拠点。自社に適合する場所があるか。
  3. 伴走:電力・省エネ、採用、実証、視察、マッチング。進出後に誰が面倒を見るか

 企業誘致は、制度を用意し呼び込む局面から、事業運営上の論点(電力・用地・人材など)を先回りして整え、進出後に事業を回していける環境を示す“提案型”へと変わりつつある。

 自治体の提案力が、企業の意思決定そのものを左右する。

 次回以降は、自治体と地域に根ざす企業の事例を手がかりに、「なぜその地域が選ばれるのか」、そこでAIやDXがどう実装されていくのかを、構造として追っていく。

文:金光成珠/b-dot編集部、取材協力:福岡市、北陸地域企業誘致連絡会(富山県・石川県・福井県)、石狩市、新潟市、沼田市、千葉県※順不同

  • 出生率が上振れても人口は減っていく。ほとんどの自治体が向き合わなければいけない共通の課題背景だ

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