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賑わう札幌で考える 都市のあるべき姿 藤波匠 日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」

 11月後半、北海道に行ってきました。以前はたびたび訪れていましたが、コロナ禍以降では初めてで、札幌市内はもとより、郊外地域へも公共交通を乗り継いで足を延ばしてみました。

 札幌の街を歩いてまず思ったのは、人の多さです。地下街を歩いていても、地下鉄に乗っていても、東京と変わらない人の多さに驚かされます。体感的には、都道府県庁所在地でも、これほど多くの人で賑(にぎ)わっている都市は、三大都市圏以外では福岡、広島など、数えるほどです。

 これだけの賑わいがあれば、例えば路線バスなどの地域の公共交通を維持することもある程度可能となるでしょう。実際、札幌市内で路線バスにも乗ってみましたが、観光客の多さも手伝って、そこそこの乗車率でした。人手不足の折、札幌でも路線バスを維持するには多くの困難があることは想像に難くありませんが、少なくとも地方都市でよく見かける、「空気を運ぶ1日数本の路線バス」ではありませんでした。

 札幌市の人口は、2020年まで増加傾向にあり、その後は横ばいで推移しています。減り続けている北海道全体とは対照的です。2000年以降人口減少が続く全道に対する札幌市の人口比率は近年急速に高まっており、4割に届こうとしています。全道の人口が急速に減りゆく中、札幌の吸引力が高まる構図が見えてきます。

 当然のことながら、札幌以外の地域で、公共交通手段を維持することは難しくなっています。コロナ禍以降だけでも、留萌線、根室線、日高線の各一部、また札幌と郊外の都市をつないでいた札沼(さっしょう)線の一部が廃止されています。日常的な市民の足である公共交通の維持や新設を考えると、一定の人口規模が必要不可欠です。札幌への人口集中が進む中で、交通インフラが整理統合される北海道は、まるで人口減少を踏まえた都市のあり方を探る社会実験の真っ最中というような印象を受けました。

 日本全体の人口が先細りとなることが不可避である状況下、当然効率的に都市インフラを運営できる大都市周辺に集住を促すコンパクトシティー政策を推進することが合理的であると考えられますが、事はそう簡単ではありません。大都市以外の地域でも、過疎地とはいえ、農林水産物の生産の場であるだけではなく、製造業の拠点が点在している場合があります。薄く広くとはいえ、人々の暮らしの場になっているため、その人たちを支えるサービス業の維持が図られている場合もあるでしょう。最近では、インバウンドの増加で、そうした地域にある無名観光地がいきなり脚光を浴びる場合も珍しくありません。

 コンパクトシティー論争は長きにわたり議論され、未だ決着は見られていません。どのような環境でも、生業(なりわい)をもって人々が住み続けている以上、暮らしの場として尊重されるべきだと考えます。一方で、過疎地域における公共交通やインフラ整備などを、行政が支え続けることにも限界があることは自明です。人口減少の日本は、将来どのように国土保全や土地利用を図っていくのか。真剣に議論を深めなければいけない時期に来ているのではないでしょうか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.49からの転載】

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