生産量を増やしたい林業家はいない 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
林業を主業として生計を立てている林家(りんか)を「専業林家」と呼ぶ。稼ぎは所有林の木を販売して得ることになるので、木材価格が上がれば収入が増えるし、値下がりすれば収入が減る。木材価格は長期的に右肩下がりで推移しているから、林家の収入は減り続けていることになる。
では、専業林家は日々の費えをどうやって確保しているのか。
例えば木材価格が前年より1割値下がりした場合、前年と同じ額の年収を得るためには生産量を1割増やさなければならない。あるいは、高値で売れる良材の生産を増やすことで帳尻を合わせるという選択肢もある。
現実問題として、以前より生産量を増やしたり、良材を多く伐(き)ったりせざるを得なくなったと、何人もの林家から聞いた。そして、それは林業家としての経営危機なのだと彼らは続ける。林業家とは、専業林家の中でも特に熱心な人のことだ。篤林家とも呼ばれる。
林業経営を継続するには所有林の資源を目減りさせないことが必要だ。価格が高ければ生産量が少なくても暮らしが成り立つので、木を伐っていても資源量が増え続けている安心感が得られる。
かつて木材価格が高かった時代は、多くの林業家が山が豊かになる将来を楽しみに木を育て、その合間に暮らしのために木を伐って売るという日々を過ごしていた。
ところが今は逆で、育てるよりも伐る方に注力しなければ暮らしていけなくなっている。山を増やしながら暮らすことが難しくなっているのである。
だが、それでは将来が先細りになってしまう。だから、実は林業家の多くは、やむなく生産量を増やしつつも、所有林を目減りさせないために他の手段も講じて収入を確保しようと努めている。具体的には、特用林産物と呼ばれるシイタケや山菜の生産に力を入れたり、他の所有者の山の整備や木材生産を引き受けたりして収入を得ている。
先日、林業家が集まるイベントに参加した時、木を育てるための収入をどうやって確保しているかについて彼らが熱心に話し合っている姿を見て「林業家はやはりこうでなければ」と得心した。育林は売り上げにつながらず、費用の持ち出しになる。だが、その費用を工面することに力を注がなければ、林業は継続できない。
生産だけに力を入れる林業は成り立たない。だから生産量を増やしたい林業家はいない―と、この世界を取材していてしばしば実感する。林業とは木を育て続ける営みなのである。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.23からの転載】