日本最北、北緯44度に酒蔵完成へ 上川大雪酒造と網走市が連携 刑務所の木桶から始まった地域再生

オホーツク海を望む北海道網走市の天都山(てんとざん)で、日本最北となる酒蔵の完成が近づいている。上川大雪酒造(北海道上川町)が建設中の新蔵で、その名は所在地の緯度にちなみ「北緯44度」。11月に関係者向けのお披露目会を開く。網走市に酒蔵が復活するのは約45年ぶりだ。
同社が手がける酒蔵としては、上川町の「緑丘蔵(りょっきゅうぐら)」、帯広市の帯広畜産大構内にある「碧雲蔵(へきうんぐら)」、函館市の「五稜乃蔵(ごりょうのくら)」(現在は別会社が製造)に続き、4カ所目となる。
新しい酒蔵は、単なる企業誘致から生まれたわけではなかった。網走市が土地を整え、民間企業が酒蔵を建て、隣接する大空町が酒米づくりなどで加わる。さらに、まちを象徴する網走刑務所では、受刑者が日本酒を仕込む木桶(きおけ)を作ってきた。一つ一つは別々に存在していた地域資源が、酒蔵を軸につながろうとしている。

◆網走刑務所がきっかけに
酒蔵誘致の話が動き出したころ、網走市の水谷洋一市長は上川大雪酒造の塚原敏夫社長に、網走の地域資源を説明した。塚原社長から返ってきたのは「ほかに網走の特徴はないんですか」という問いだった。
そこで浮上したのが、網走刑務所だった。
網走市は刑務所を地域から切り離された施設としてではなく、地域資源の一つとして生かす「リエントリー事業」に取り組んでいた。受刑者の再犯防止や社会復帰と、地域活性化を結びつけようという試みだ。そこから、さらに意外なものが見つかった。
木桶だった。
市の担当職員が博物館網走監獄などを調べる中で、かつて監獄で木桶が作られていた歴史を探り当てた。これを現在の酒造りに復活させられないか。職員は香川県の小豆島で製作技術を受け継ぐ職人にもたどり着いた。
◆木桶で醸す網走の酒

構想は実際の事業へ発展した。
2022年に始まった「時代と共に消えゆく木桶文化を北海道で復活させるプロジェクト」では、小豆島の職人の指導を受けながら、網走刑務所の受刑者が日本酒醸造用の木桶を製作した。受刑者が仮組みし、地域住民らが仕上げに加わる仕組みもつくられた。
法務省も、再犯防止と地方創生を組み合わせる取り組みとして紹介している。
酒蔵が網走にできる前から、木桶を使った酒造りは一足先に始まっていた。上川大雪酒造は帯広市の碧雲蔵などで、刑務所製の桶を使った「網走 木桶仕込み」を醸造。2025年には3期目の酒が完成し、法相らに報告した。
そして新蔵「北緯44度」にも、網走刑務所との連携で作られた木桶が据えられる。今年7月には新たな木桶の完成お披露目会も開かれた。これまで別の地域の蔵で続けてきた網走の木桶仕込みが、初めて地元の酒蔵で行われることになる。同社は、木桶仕込みならではの豊かな香りと、まろやかな口当たりを生かした酒を目指すとしている。
◆市が土地造成、企業が酒蔵建設
官民の役割分担も明確だ。
上川大雪酒造、網走市、大空町は2024年8月7日、観光や産業振興、再犯防止、地方創生などを進めるための連携協定を締結した。建設場所として選ばれたのが、標高207メートルの天都山。オホーツク海や知床連山を一望できる国指定名勝で、観光施設「オホーツク流氷館」に隣接する市有地だった。
網走市が建設用地を造成し、その土地を上川大雪酒造が利用して酒蔵を建設する。市議会で市側は、造成は市、酒蔵の建設費は同社が負担するとの役割分担を説明している。市は2025年度当初予算で土地造成に1億840万円を計上した。造成した土地は同社に有償で貸す。
お隣の大空町も加わる。町の議会資料では、大空町の酒米と網走市の水を使った酒造りを目指す構想が示されている。酒蔵を網走市だけの施設にせず、農業地帯を抱える周辺地域まで含めたオホーツクの産業へ広げようという構図だ。

◆約45年ぶりの地酒、観光と食へ
酒蔵の完成はゴールではない。
網走市は2026年度の市政執行方針で、上川大雪酒造の酒蔵建設を契機として、観光事業者などと連携した地酒のプロモーションに取り組む方針を明記した。酒かすを使った食文化の創出、地酒ブランドの確立、観光客の誘致まで視野に入れている。
酒を造る。地元の米や水を使う。酒かすを料理に生かす。観光客を呼び込み、地域で消費してもらう。
酒蔵一棟を核に、1次産業、製造業、飲食、観光を結びつけようとしている。
上川大雪酒造が網走に酒蔵をつくると正式に発表したのは昨年10月。建設予定地では同12月に地鎮祭が行われた。雪に覆われた天都山で工事が進み、今春には鉄骨が組み上がった。7月、新蔵の名前が「北緯44度」と発表され、同社は完成に向けた準備が最終段階に入ったと明らかにした。
それからさかのぼること2年。まだ酒蔵が構想段階だった2024年8月、水谷市長はこう語っている。
「世界中に(お酒が)提供できるようになるとうれしい」

日本最北、北緯44度。
刑務所で作られた一つの木桶から始まった物語は、網走に約45年ぶりとなる酒蔵を生み出すところまできた。11月のお披露目を経て、12月中には、この場所で仕込まれた最初の酒が届けられる予定だ。(株式会社共同通信社 垂見和磨)



















