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未来を“自分事”として企業の課題や事業案を提言 バイオ燃料事業などのユーグレナ「3代目CFO」は高校2年生

 「サステナビリティ(持続可能性)」「SDGs(持続可能な開発目標)」などの言葉は、すっかり一般的になった。経営理念にこれらの言葉を打ち出す企業も、これらの言葉がついたサービスや商品も増えている。消費者側も、“地球や環境に優しい”という漠然としたプラスのイメージを持っている場合もあるかもしれない。しかし、もっと具体的に、未来の自分たちを取り巻く環境や地球の課題に対して企業ができるアクションを提言していきたい——。こんな思いで、ヘルスケアやバイオ燃料事業などを展開するユーグレナ(東京)の「CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)」として活動している高校2年生がいる。2022年の夏に3代目のCFOに就任し活動中の渡部翠さんと、同社広報に、ユーグレナ社のCFOや同社の取り組みについて話を聞いた。

■ユーグレナとは?
 「ユーグレナ」は豊富な栄養素を含む微細藻類で、和名の「ミドリムシ」は広く知られている。ワカメや昆布と同じ藻の仲間だが、べん毛を使い動くことができるという動物と植物の両方の性質を持ち、光合成によって二酸化炭素を吸って酸素を吐き出して成長する。温暖な気候の沖縄県石垣島で主に培養され、現在、食品や化粧品、バイオ燃料や飼料、肥料など多岐にわたり事業が進んでいる。無限大の可能性を持ちつつ、食物連鎖の最下層に位置し、他の生物にすぐに捕食されてしまうため培養することが困難だったユーグレナの食用屋外大量培養に2005年に成功したのが、「ユーグレナ社」だ。

 同社が使用済み食用油やユーグレナから抽出した油などのバイオマス原料から開発したバイオ燃料「サステオ」は、路線バス、東京・隅田川の屋形船や大型フェリー、政府専用機などで導入されている。

■ユーグレナ社が設置した18歳以下限定の「CFO」
 ユーグレナ社が掲げるフィロソフィーは、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」。持続可能な未来を目指し、事業を通して社会課題の解決に取り組むなか、未来を生きる当事者たちの意見が会社に反映されるべきだという考えで2019年に設置したのが、18歳以下限定の「CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)」のポジション。2030年に向けた同社のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に関するアクションと達成目標の策定に携わる。 

3代目CFO渡部翠さん
3代目CFO渡部翠さん

 

 「18歳以下」という設定を、同社は次のようにとらえている。——選挙権を持たない年齢が多くを占め、大学生のようにインターンなどで企業や社会とつながる機会が少ない高校生・中学生・小学生というのは、社会とのアクセスが、親だったり、学校だったりと限定的である。一方で、未来に対して社会問題意識を強く持っているに違いない。

 サステナビリティ(持続可能性)を軸に事業を展開している同社として、未来を担う世代の視点をより早く経営に取り入れて、一歩でも速くサステナブル(持続可能)な未来に近づけるべきだという考えのもと、18歳以下のCFOの設置を決めたという。

■ユーグレナ3代目CFOは高校2年生の渡部翠さん
 渡部さんは、インターナショナルスクールに通う高校2年生。昨年の夏に3代目CFOに就任し、他の5人の「Futureサミットメンバー」とともに、ユーグレナ社のSDGsに関するアクションや達成目標の策定に携わっている。2024年1月末までの任期を全うすべく業務にまい進中だ。
 神奈川県生まれで、小学校入学時に東京に引っ越し、都内の公立小学校に通っていた。母親の提案で、小2からマレーシアに移住し現地のインターナショナルスクールに通うことになる。

 「母は、海外生活や留学経験などがある人ではなかったのですが、自分の意見を言ってディスカッションをしたいタイプだった私に合う環境を模索し、マレーシアのインターナショナルスクールに通うということを提案してくれました。話し合いを重ね、まずは2年間行ってみようということになりましたが、結局8年間マレーシアに滞在し、中学3年の夏に日本に帰国しました」と渡部さん。マレーシアでも、現在のインターナショナルスクールでも、オープンで多様性を重視する校風のなか、さまざまな志を持つ仲間たちと交流したり意見交換したりすることを楽しみながら学校生活を送ってきたという。

■2度目の応募で合格
 2019年、13歳の時に新設されたばかりのCFOに応募し、昨年、2度目の挑戦で3代目CFOに就任した。その間、コロナ禍でマレーシアでのロックダウン(都市封鎖)も経験。ウェブメディアの記者・編集者として、さまざまな職業を取材した。

 「自分が将来、どういう世界でどういう職業に就きたいのかということがはっきりしていなくて。すでにおもしろいことをやっている大人たちに、その人がどういう生き方をしているか、その人の仕事が社会の構造にどのようにつながっているかを聞いてきました。『サステナビリティを目指すなかで新しい経済の形を作りたい』と話す人にも出会いました。同世代の人たちとも、企業イベントなどに参加して交流してきました」(渡部さん)。

 2度目の応募の際も、「絶対受かるぞ」という強い自信があったわけではない。しかし、自分がユーグレナ社のCFOになったら、まだ新しいフューチャーオフィサーという取り組みをより良くしたいという気持ちが人一倍強かった。「企業運営に際して、“未来世代の声を聞く”ということが国際社会で広まっていくために、企業は何ができるかということをテーマに、書類選考やオンラインでの面談で訴えました」。

■“高校生活”を送る中でのCFO
 もちろん、高校生として学業が本分。7時に起床、朝ご飯を食べて8時から16時半ごろまでは授業。18時ぐらいまで部活動に参加した後、夕食を食べ、23時ぐらいに寝るまでは、勉強をしたり読書をしたり、趣味の楽器の練習をしたり。毎週木曜の20時から1時間、国内各地にいるFutureサミットメンバーとオンラインでのミーティングをしている。

 離れた場所にいるメンバーと限られた時間でのオンラインミーティング。当然、議論の難しさに直面したという。「CFOに就任した当初、『誰もが発言できる環境を作って、毎回のミーティングで全員が発言するような場を作るぞ!』と思っていたんです。でも、6人の発言量や参加度を等しくすることは難しいということを学びました。メンバー皆、課題とするものがそれぞれ全く違いました。4~5カ月かかり、みんなの人柄や、何をしたいのかということも分かり、チームワークが出来上がってきて、会社に何を期待し、どういう提言をするのかということを突き詰めてきました」(渡部さん)。

CFOとFutureサミットメンバー

■18歳以下のCFOたちが生み出すインパクトは?
 SDGsに関するアクションや達成目標の策定に、未来を担う若者たちが携わることで、実際にどのようなインパクトが生まれているのだろうか?

 同社広報は、「当社の仲間は皆、栄養や健康、環境などの課題に対し、解決へ向けて何かしらのアプローチをしたいという思いを持って入社してきています。しかしやはり、未来に対して、現在の10代が“自分事”としてとらえる思いの強さは私たち社会人よりも強いです」と話す。2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、2020年に日本が宣言した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」。2030年、2050年ということを考えた時、これから“大人”になっていく世代は、その課題に人生のなかで長く向き合い、また次の世代に引き継いでいく存在になる。

 2020年6月、初代CFOたちの提言は、「ペットボトル商品全廃」と「商品に使用する石油由来プラスチックの削減」だった。折しも、ユーグレナ社が主力とするヘルスケアの事業において、同社のペットボトル商品は、“スーパーの棚が取れ始めた時期”。目の前の利益や業務も無視できない。「そんななか、CFOたちに、プラスチックゴミ問題が世界的に重視されている。絶対に回収できるシステムがまだ存在しないなか、サステナビリティを目指す企業としてペットボトルを商品に使い続ける意義を問われました。CFOというポジションから提言された内容に対して、会社として実行に踏み切りました」(同社広報)。6月の提言を受け、その年の秋にはペットボトル商品を全廃し、その後紙パック商品に切り替えたという。

 渡部さんはCFOに就任後、同社のサステナビリティ委員会の初代委員長に就任した。組織のESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティの方向性に大きく関わるポストで、ユーグレナ社が優先すべきサステナビリティ項目の社内浸透などに取り組んでいる。将来的に世界中の企業にCFOのような存在がいれば、サステナビリティが加速して社会課題の解決に近づくことができるのではないかという思いがあり、同社の海外進出においても、現地の若い世代の意見を聞きながら進めてほしいとの提言も行った。それを受け止めた同社は4代目CFOの募集で、世界で主な公用語とされている英語でのエントリーも可能なことを(従来も日本語・英語で受け付けていたが)改めて明確にし、広く応募を呼び掛けている。

■渡部さんが目指す自身の将来は?
 企業の中で、経営陣に提言をするという経験をしているさなかの渡部さん。その後の未来をどのように描いているのだろうか?

 渡部さんは「今高校2年生に当たる学年なので、大学受験をどうするかという差し迫る課題があります。企業の中でサステナビリティをどのように推進していくかというプロセスに関わった経験を、今後私が進んでいく道のなかで生かせたらと考えています」と話す。具体的には、サステナビリティを推進するのに必要な技術・科学を作る“ものづくり”への関心が高いという。「宇宙開発と航空に興味があります。私の友だちが世界各国にいて、飛行機がないと会いに行けません。サステナブルで罪悪感少なくできる空の旅について考えてみたいです。また、宇宙開発という分野が今注目されているなかで、地球上での経験をふまえてどう宇宙開発をサステナブルに進めていくかにも興味があります」。

■CFOに込める思い
 渡部さんは、自分で決断し、自分で人生を切り拓いてきている印象が非常に強い。「そのような渡部さんは、どうやって形成されたと思いますか?」と最後に聞いてみた。

 「私の人生はまだたった16年間で、これまで自分だけで全部できたことってほとんどないなと思っているんです。マレーシアに行く決断をしたのは親です。その環境で継続して学ぶことを決断したのは私自身ですが、インターナショナルスクールで何を学ぶのかということを、家族間のやり取りのなかでいつも問われてきました。それが、ユーグレナのCFOになって未来をどうするかということを考えることにつながってきました。マレーシアでも、最初の頃、英語ができない私を支援してくれたり、学校でプロジェクト立ち上げるとき、これが本当に課題解決につながるのだろうかと悩んでいる際に背中を押してくれる、友人や先生などの存在がありました」。

 「アイデアを出して、声を大きく発言して、周りを巻き込んでいくことが得意」と話す渡部さん。それでも新しい取り組みの下では不安や失敗への恐れも出てくるという。「そういう状況は、“チーム”だからこそ乗り越えられます。親や大人たちとたくさんやり取りをするチャンスに恵まれてきたことがラッキーだったと考えています。そのようなラッキーが得られたのもまた、置かれてきた環境のおかげです」。そして、「国籍や生まれる場所って選べない。何かしらチャンスがあるということ自体が恵まれていると思っています。社会課題に影響されてチャンスがつかめない、という不平等をなくしたい。CFOという取り組みが多くの若者のチャンスとなり、国内外に広まって、未来の世代の声がより多くの人に届くようになっていってほしいです」。

■第4代CFO募集について
 ユーグレナ社では、4代目のCFO(1人)とFutureサミットメンバー(最大3人)の募集を9月1日にスタートした。任期は、2024年2月から2025年1月31日までの1年間。応募締め切りは10月15日。募集についての詳細を同社ホームページ に掲載している。

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