【映画コラム】10月の公開映画から
「クジラに落ちた男」(16日公開)★★★
父を知り、父を乗り越える
巨大なマッコウクジラに丸のみにされた17歳のジェイ(オースティン・エイブラムス)が、亡き父の教えを頼りに脱出を図る。ブライアン・ダッフィールド監督が描くのは、「ピノキオ」を思わせる空想を、切迫した生身の危機に変えたサバイバルだ。映像技術と実物の造形がクジラの体内に生々しさを与え、途方もない状況なのに、こちらも脱出の手だてを考えてしまう。
興味深いのは、危機を切り抜ける過程が、確執のあった父との絆を捉え直す物語と重なること。命をつなぐのは、その父から授けられた知恵なのだ。巨大クジラは、ジェイにとっては父そのものにも見える。その内側で父の記憶と向き合い、外へ出ようともがく姿は、父を理解し、乗り越えて自分の人生を歩み始める若者の姿でもある。「バイオハザード」に続いて不運な若者を演じるエイブラムスがいい。戸惑いと必死さが際立つ演技が、荒唐無稽な脱出劇を、父を失った青年の切実な自立の物語に変えている。

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「クレイフェイス」(30日公開)★★★
顔を失った俳優の悲哀
襲撃で顔に大けがを負った俳優マット(トム・リース・ハリーズ)は、実験的な治療に望みを託すが、副作用で顔が生きた粘土のように変貌していく。ジェームズ・ワトキンス監督が、「バットマン」のヴィラン誕生の経緯を描く心理スリラー。
容姿の良さを武器とする俳優が、崩れる肉体に抗い、かえって自分を追い詰める構図は、デミ・ムーア主演の「サブスタンス」と重なる。両作の主人公が取り戻したいのは美しい顔だけではない。それによって得た仕事や名声、また自らの存在価値なのだ。そこに俳優のさががあらわになり、恐怖とともに哀れさが募る。もう一度俳優として生きたいという願いが理解できるだけに、「ジョーカー」の主人公より感情移入しやすかった。ハリーズも容姿への執着と喪失の恐怖を巧みに演じている。暗く重苦しい復讐劇が、その悲劇性を際立たせる。超人的な能力が救いになるとは限らない。怪物の誕生以上に、顔を失った俳優の悲哀が心に残る。

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★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価。
(映画ライター 田中雄二)
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