【はばたけラボ インタビュー】はばたきに必要なのは「諦めんこと」――南米プロサッカー選手・江頭一花さん
未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。
無名のサッカー選手が単身アルゼンチンに向かい、初の日本人女子プロ選手となった。昨シーズンの活躍が認められ、名門クラブに移籍した江頭一花さんに聞いた。
Q1 アルゼンチンへ渡るきっかけは?
滋賀県の信楽で育ち、9歳から男子に混じってボールを蹴り始めました。地元のクラブチームを経て、なでしこリーグの「伊賀FCくノ一三重」のサテライト、そしてトップチームに所属しましたが、ベンチにも入れず、練習の紅白戦でも出番がなくて、悔しくて泣きました。実力不足は分かっていましたが、2年間何も残らず、環境を変えよう、思い切って世界に出てみようという思いが次第に強くなっていったのです。
Q2 なぜ欧州ではなく、南米へ?
南米でサッカーをしたいとずっと思っていました。メッシ選手をはじめ、南米には好きな選手が多いからです。欧州で活躍している南米出身の選手もたくさんおり、まず、世界で戦っていくために南米の厳しさの中で、自分の武器を磨いていきたいと考えました。ちょうど、アルゼンチンのチームへの移籍を仲介してくれる方に出会い、話が進みました。
Q3 不安はありませんでしたか?
めちゃありました。スペイン語もしゃべれないし、両親は「もっと日本で実績を積んでから・・・」と言われ、半年ぐらい葛藤がありました。けれども、背中を押してくれたのは当時のチームメートの「直感を信じて地球の裏側に行ってこい」という一言です。それで吹っ切れ、ハタチという節目、出るなら今、と決断しました。
Q4 南米での生活はどうですか?
最初の半年はアパートで1人暮らし。文化や習慣の違いに戸惑いました。時間にルーズで練習場に向かうバスは、時刻表があってもその時間に来ない。知らない文字が並ぶ現地のスーパーで、頭を落としただけの鶏肉を買って、恐る恐る自宅でさばきました。そんな中で、大きな、大きな手製のおにぎりが、私を支えてくれた。現在は支援してくれる方の家にホームステイしています。
Q5 2023年シーズンの成績は?
アルゼンチンリーグ1部の「エクスクルジオニスタス」というチームで、29試合中26試合に先発出場。10ゴール、3アシストで自分が成長していることを実感しています。シーズンオフには、アルゼンチン屈指の名門クラブ「リバープレート」からオファーが来て、迷わず移籍を決めました。アルゼンチンにおける日本人初のプロ選手というのが珍しいのか、現地テレビの情報番組で特集を組んでもらったり、現地の新聞が紹介してくれたり、うれしかったですね。
Q6 目標は?
日本より1年早くプロ化したアルゼンチンの女子サッカーは発展途上で、レベルは日本の方が上ですが、本場とあって試合になるとスイッチの入り方が違う。球際の強さとか、フィジカルはさすがです。今年はビッグクラブに移ったこともあり、チームの優勝と得点王争いに絡みたい。ここで何年かプレーして、欧州に渡れればと思いますし、もちろんなでしこジャパンに選ばれることも意識しています。
番外Q はばたきに必要なことは。
諦めんこと。がむしゃらに挑戦すれば、全国大会にも出ていない、なでしこリーグでも試合に出場できなかった私でもチャンスをつかむことができる。だからみんなもできるよ。アルゼンチンに渡って1年余り、もう1回夢を見ている自分、サッカーで上に行きたいと思えている自分がいることが良かった。世界に出れば価値観が広がる。思う存分楽しむことが一番大事です。
江頭一花(えがしら・いちか)/2002年、長崎県の五島列島で生まれ、4歳から滋賀県甲賀市信楽町で育つ。20歳の時の23年、単身アルゼンチンに渡った。
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