私のナンバーワン 【蝶花楼桃花 コラムNEWS箸休め】
ちゅくちゅん!
素敵な出来事があった時。目の前が開けた時。私の脳内にはこの音が響く。
そう。
小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」(1991年)のイントロ。
私の人生ナンバーワンドラマ、「東京ラブストーリー」のテーマソングだ。
とにかく鈴木保奈美さん演ずる赤名リカがキュートで、自由で、繊細で。本当に驚いた。そしてハッピーエンドで終わるおとぎ話しか知らなかった私は、主人公が結ばれないラストに、想(おも)いだけではどうにもならないことがあることを知った。
「海賊王に俺はなる!」ばりに、「赤名リカに私はなる!」と心に決めた小学3年生だった。
・・・って、いま思うとどうなのよ、だけどね。
夜ふかしが少しだけ許されはじめた頃で、恋愛ドラマを通して見たのも初めてだったと思う。毎週ワクワクして、1週間がとても長かった。
見逃し配信などもなかった頃だから、あのワクワク感は「あの日あのとき」にしか味わえない醍醐味(だいごみ)で、それがドラマのスパイスとしても作用していたのだろう。
大人になってみると、重要な登場人物4人ともそこそこ駄目な大人だったとは分かるのだけど、大人になった今だからこそ、人間らしさだなと共感したりもする。
そして赤名リカからは、既存の女子像をぶっ壊す勇気ももらえた。
漫画、舞台、リメイク版のドラマ。全て見た。でも、やっぱりオリジナルの「東京ラブストーリー」を超えない。子供心にとんでもない衝撃だったのだろう。
これはお年寄りが、子どもの頃ぜいたく品だったバナナをいつまでもごちそうに思う感覚に似ているのかな。
人生で初めての衝撃というのは、その人のその後を決定付けることさえある。
それで言えば、私の師匠である春風亭小朝を初めて見た時も同じだった。うちの師匠だけ、ピンスポットが当たっているのかと錯覚するほど華(はな)のある高座に呆然(ぼうぜん)とした。
それ以来、私にとっての落語家ナンバーワンは師匠小朝である。
確固たる自分史上ナンバーワンがあるって幸せだな。
超えられないからこそ、師匠小朝を追いかけ続けるし、赤名リカみたいに正直に生きていたいって思えるのだから。
ちゅくちゅん! と心躍る音が鳴るようなナンバーワンを、これからもたくさん見つけよう。
蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか)/東京都出身。春風亭小朝さんに弟子入り後、二ツ目・春風亭ぴっかり☆時代に「浅草芸能大賞」新人賞を受賞。2022年3月、真打ちに昇進し「蝶花楼桃花」と改め、七代目・馬楽さんの没後途絶えていた歴史ある亭号を復活。昇進披露興行、初主任興行、企画にもかかわった全出演者女性による主任興行「桃組」はいずれも大入りを記録。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年8月7日号掲載)