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巨匠ムーティのオペラ指揮をCDで味わう 【コラム音楽の森 柴田克彦】

リッカルド・ムーティ指揮 マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」 キングインターナショナルKKC 6630 5000円

 多くの方にとって、CDでオペラを聴く機会はあまりないであろう。元々“オペラは観るもの”との認識が一般的だし、経費のかかる全曲録音は近年大幅に減ってもいる。だがCDで聴くオペラには、物語、アリア、合唱、管弦楽など複数の要素が詰まったこの形態の“音楽”を、じっくりと味わう喜びがある。

 そこで今回ご紹介したいのは、リッカルド・ムーティが指揮したマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」である。1941年ナポリ生まれのムーティは、現役屈指の大巨匠。中でもイタリア・オペラに関しては最高峰といえる存在だ。

 ここで彼は、2010年から音楽監督を務めるシカゴ交響楽団と同合唱団、そして自身が認める最高の歌手と共に、稀有(けう)の“音楽ドラマ”を展開している。

 「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、近代イタリアの作曲家マスカーニが1890年に作曲し、1幕物の懸賞に当選した作品。ヴェリズモ・オペラ(神話や史実ではなく、身近な事件などを題材にした写実主義オペラ)の先駆けと称される傑作だ。

 物語はシチリア島が舞台。兵隊に行っている間に恋人ローラを馬車屋アルフィオに奪われた若者トゥリッドゥが、彼を想う村娘サントゥッツァを袖にして、ローラと密会を繰り返し、最後はアルフィオに刺し殺される・・・といった血生臭い悲劇である。

 ただし、音楽自体はドラマチックで美しく、愛憎渦巻く舞台を鎮める清澄な「間奏曲」、サントゥッツァのアリア「ママも知るとおり」、トゥリッドゥのアリア「母さん、あの酒は強いね」などもよく知られている。

 今回お薦めするポイントの一つが、イタリア・オペラの魅力を満載した音楽を、1幕すなわちCD1枚分の短時間で堪能できること。ひいては自宅でも集中して楽しめる点にある。そして何より演奏が素晴らしい。

 特にムーティは、ニュアンス豊かな奥深い表現で、ドラマの抑揚を迫真的に描き上げ、耳を惹(ひ)きつけて離さない。世界トップクラスの機能性を誇るシカゴ響の華麗にして細やかな演奏と、生き生きとした合唱にも、ムーティの意志が十全に反映されている。

 サントゥッツァ役のアニタ・ラチヴェリシュヴィリ、トゥリッドゥ役のピエロ・プレッティ、アルフィオ役のルカ・サルシをはじめ、ソリスト陣もみな雄弁な歌唱を披露。リスナーの感情移入を容易にさせてくれる。また、単独で有名な「間奏曲」もオルガン入りで美しく、全曲の中でこれを聴けば、音楽の意味をより深く理解できるに違いない。

 現代最高のオペラ指揮者が渾身(こんしん)で奏でた1幕オペラの名演は、「たまにはオペラをCDで聴くのも悪くない」と思わせるに十分だ。

柴田 克彦(しばた・かつひこ)/音楽ライター、評論家。雑誌、コンサート・プログラム、CDブックレットなどへの寄稿のほか、講演や講座も受け持つ。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる!吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。

(KyodoWeekly 2023年5月22日号より転載)

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