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「特集」 《社会展望》どう立ち向かう人口減少問題 「人への投資」を

山崎 史郎
内閣官房参与

76年後に6300万人

 日本は、ついに本格的な「人口減少時代」に突入した。すでに数十年前から少子化は始まっていたが、総人口は増え続け、2008年をピークに減少に転じた後も減少幅は大きくなかった。しかし、これから事態は大きく変わっていく。現在1億2400万人の総人口は、このまま推移すると、わずか76年後の2100年には6300万人に半減すると推計されている。100年近く前の1930(昭和5)年の総人口が同程度だったので、単に昔に戻るかのようなイメージを持つかもしれないが、それは事態の深刻さを過小評価するものである。当時は、高齢化率(総人口の中で65歳以上の高齢者が占める割合)が4・8%の若々しい国だったが、2100年の日本は高齢化率が40%を超える「年老いた国」である。

果てしない縮小と撤退

 まず、こうした急減な人口減少によって将来、一体どのような重大な事態が起き得るのかを私たちは正確に理解し、その意識を共有することが最も重要となる。

 人口減少がもたらす重大な事態の第一は、人口減少の「スピード」からくる問題である。このままだと、総人口が年間100万人のペースで減っていく急激な減少期を迎え、しかも、この減少は止めどもなく続く。先般公表された「将来推計人口(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)では、2070年の人口は8700万人(中位推計)と推計されているが、これは、一つの通過点の人口規模を示しているにすぎない。出生率が人口置換水準(2・07)に到達しない限り、いつまでたっても人口は減少し続ける。人口が減少すると労働力人口が減っていくが、それにとどまらず消費者人口も減少し、市場そのもの、社会そのものが急速に縮小していく。市場が縮小すると、投資が国内に向かわず、その結果、生産性が向上せず、国としての成長力や産業の競争力が低下していくおそれがある。

 この「人口急降下」とでも言うべき状況下では、あらゆる経済社会システムが現状を維持できなくなり、果てしない縮小と撤退を強いられ、経済社会の運営も個人の生き方も、ともに選択の幅が極端に狭められた社会に陥るおそれがある。

超高齢化と地方消滅

 第二の重大な事態は、人口減少の「構造」からくる問題である。人口減少は、人口や社会の構造も大きく変えていく。人口減少社会とは、同時に「超高齢社会」であり、人口減少が進むにつれ、高齢化率は上昇し続け、いずれ世界最高の4割を超える水準で高止まりする。こうした高齢化に伴い、社会保障をはじめ財政負担が増大する。また、今日のような歴史的転換期には、生まれた年代によって経験する社会環境が全く異なってくることになる。そのような社会の構造を配慮せずに、制度や社会規範をこれまで通り放置し続けると、年代・世代間の対立が深刻化する可能性がある。

 さらに、人口減少の進み方には「地域差」がある。先行して人口減少が進む地方においては、このままでは住民を支えるインフラや社会サービスの維持コストが増大し、維持が困難となる。それに伴い、最終的には住民が流出し、「地方消滅」というべき事態が加速度的に進むことが想定される。

 以上述べたような縮小と停滞のスパイラルに陥ると、最終的には進歩が止まり、広範な「社会心理的停滞」が起きてしまう。こうした重大な事態を国民一人一人が自らにとっての問題として認識し、それぞれの立場で課題に取り組む気持ちを持つことが、重要な出発点となる。

ラストチャンス

 一方で、「もはやどうしようもない」といった諦めに近い意見もある。少子化の流れを変えることは確かに困難かつ長期にわたる課題だが、これまでわが国は官民の総力を挙げて取り組んできたとはいえないのが実情ではなかろうか。遅れはあるが、まだまだ挽回可能である。決して諦めず、世代を超えて取り組んでいかなければならない。政府も「2030年までがラストチャンスであり、わが国の持てる力を総動員し、少子化対策と経済成長実現に不退転の決意で取り組まなければならない」(「こども未来戦略」=23年12月)としている。

 他国の例をみても、出生率が高い水準にあるスウェーデンやフランスは、これまで何度も出生率が低下したが、そのたびに家族政策などの強化を図り、回復を果たしてきた。最近では、わが国同様に低出生率であったドイツが、若者世代の仕事と子育ての両立を可能とする抜本的な働き方改革に取り組み、それもあって11年に1・36だった出生率は5年間で1・60(16年)にまで急上昇した。こうした事例も参考とし、わが国も人口減少に立ち向かっていかなければならない。

人口定常化の意義

 第一に目指すべきは、総人口が急激、かつ止めどもなく減少し続ける状態から脱し、人口を安定化させることである。それを「人口定常化」という。人口定常化によって、私たちが確固たる将来展望が持てるようにすることが重要となる。人口定常化のためには、出生率(22年1・26)が2・07の人口置換水準にまで到達し、その後も継続することが条件となる。この出生率への到達の可否や、到達する時期によって、将来の社会の姿は大きく異なってくる。人口が定常化し始めると、人口減少スピードの緩和により改革の時間的余裕が生じ、選択の幅が拡大するとともに、定常化時期が早ければ早いほど、定常人口の規模は大きくなる。

 さらに、人口が定常化し始めると、同時に高齢化率がピークに達して低下していく「若返経路」に乗る効果がもたらされる。高齢化率はこのままだと、2100年には4割の水準で高止まりするが、それが最終的には現在の水準(28%)にまで低下し、社会保障や財政、経済に好影響を与える。国際医療福祉大学人口戦略研究所の試算(図参照)によると、2060年までに出生率が2・07に向上するBケースによると、2100年時点で総人口が8千万人で安定するという結果が示されている。これに対して、「将来推計人口」の中位・低位推計のケースでは、人口は定常化せず高齢化率は高止まりする。

「人口定常化」の試算(四つのケース)
(国際医療福祉大学・人口戦略研究所の試算)

成長力のある社会構築

 一方、人口の定常化は効果が本格的に表れるまでには数十年を要し、仮に人口が定常化しても、その人口規模が現在より小さくなることは避けられない。例えば、前述のBケースでも、2100年時点の総人口は現在の総人口(1億2400万人=23年)の3分の2程度の規模となる。こうした厳しい条件の下で、各種の経済社会システムを人口動態に適合させ、質的に強靱(きょうじん)化を図ることにより、現在より少ない人口でも、多様性に富んだ成長力のある社会を構築していくことが望まれる。そのためには、まさに総力をあげて取り組むことが必要となるが、その鍵を握るのは、「人への投資」の強化であると考えられる。これは、企業における人的資本への投資にとどまらず、幼児教育・保育から始まり大学などの高等教育に至るまでの公教育や、専門人材の養成なども視野に置く必要がある。

少子化対策の効果検証を

 こうした「人口定常化」や「成長力強化」のための政策のベースとなるのは、EBPM(Evidence Based Policy Making)の考え方である。これまでさまざまな少子化対策が打ち出されてきたが、実際に効果があったかどうかの効果検証を適切に行い、その結果を政策立案に活用していくことにより、「政策アーキテクチャー(体系)」を構築することが重要となる。

未来への責任

 人口減少は世代を超えて進行していくという特徴がある。つまり、われわれ「現世代」の取り組みが効果をあげるのは数十年先であり、その恩恵を受けるのは「将来世代」である。逆に、何もしないと、その負の影響を受けるのも将来世代となる。それだけに、安心して暮らしていけるような社会や地域をしっかりと将来世代に引き継ぐ(継承)という点で「現世代」の後世に対する責任は重い。そのような観点からも、将来世代を担う子どもや子育てへの支援は、企業や高齢者を含めた全ての人々によって支えていくことが重要であると考えられる。

内閣官房参与 山崎 史郎(やまさき・しろう) 1954年山口県生まれ。78年東京大学法学部卒業後、厚生省(現・厚生労働省)入省。高齢者介護対策本部次長、内閣総理大臣秘書官、社会・援護局長、内閣官房地方創生総括官などを歴任した後、2018年7月から21年11月まで駐リトアニア特命全権大使。22年1月から現職。著書に小説「人口戦略法案ー人口減少を止める方策はあるのか」(日経BP・日本経済新聞出版本部)。

(Kyodo Weekly 2024年1月15日号より転載)

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