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うがった見方も大事だけど 【馬場典子 コラムNEWS箸休め】

 毎年恒例の文化庁「国語に関する世論調査」が公表されました。ニュースではよく慣用句が取り上げられていますよね。最初に衝撃を受けたのは2011年度。辞書などで本来の意味や使い方とされるものは、煮え湯を飲まされる=信頼していた者から裏切られる、うがった見方をする=物事の本質を捉えた見方をする、にやける=なよなよとしている、失笑する=こらえきれず吹き出して笑う、でしたが、失笑以外は記憶から抜け落ちていました・・・。

 翌年度以降も、潮時=ちょうどいい時期、煮詰まる=(議論や意見が十分に出尽くして)結論が出る状態になる、さわり=話などの要点、檄(げき)を飛ばす=自分の主張や考えを広く人々に知らせて同意を求める、なし崩し=少しずつ返していく、憮然(ぶぜん)=失望してぼんやりとしている、砂をかむよう=無味乾燥でつまらない、敷居が高い=相手に不義理などをしてしまい行きにくい、など勉強になる言葉ばかり。慣用句の他にも、国語への関心、敬語、ら抜き言葉・さ入れ言葉、読書などさまざまな項目があり、世相を映しています。

 調査が始まった1995年度では「ワープロやパソコンでの文書作成の感想」。目が疲れやすい、漢字の書き方を忘れることが多くなった、など今に通じます。98年度は、いわゆる「マニュアル言葉」について。携帯電話の普及率が93年の3.2%から2003年の94.4%まで急増する間の00年度には、「携帯電話」で話す内容・長さや「電子メール」。01年度は「察しの能力」が低下しているか? 察しは文化か? 言葉にすべきか?  04年度は「手紙」や「手書き」。06年度は「新聞・雑誌・ウェブニュースを読む頻度」。令和に入ると、今や市民権を得ている感のある「〜活、〜ビズ、〜ハラ、アラ〜」。20年度はコロナの影響を受け、「マスク生活とコミュニケーションの関係」だった。

 最新の22年度は、新しい意味が辞書に載った「引く、盛る、寒い、推し、詰んだ」を使うかどうかの調査でした。「引く」は7割が使い、続く三つはほぼ拮抗(きっこう)、「詰んだ」は約3割。そんな中、70歳以上で、最も使う人の割合が高いのは、全世代と同じ「引く」ですが、次点は「推し」。お孫さんとのコミュニケーション?  自身の潤い? と想像してほっこりします。

 誤用か変遷かーー。いずれにしても言葉は変化していくもの。本来の意味やアクセントにこだわり過ぎると、視聴者に誤解を与えかねないというジレンマもあります。NHKアクセント辞典では長らく、「奇跡」は「軌跡」と同じ平板か、「セ」が高いか、の二つだけだったので、伝わるためにどうすべきかをディレクターと相談したこともありました。20年の大改訂で、「奇跡」を含むかなりの言葉を実際の使われ方に寄せるようになりました。大阪芸術大学の授業では、身近で意外な知識ネタとして重宝していたので、ちょっとだけ残念です(笑)。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 42からの転載】

入稿3_ニュース箸休め_馬場典子

馬場典子(ばば・のりこ)/東京都出身。早稲田大学商学部卒業。1997年日本テレビに入社し、情報・バラエティー・スポーツ・料理まで局を代表する数々の番組を担当。2014年7月からフリーアナウンサーとして、テレビ・インターネット番組・執筆・イベント司会・ナレーションなど幅広く活動中。大阪芸術大学放送学科教授も務める。

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