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「特集」 ポストコロナのスポーツイベント  「経済効果」アレは969億円

宮本 勝浩
関西大学名誉教授

 今年は新型コロナウイルス対策の行動制限も訪日外国人の入国制限もなくなり、さらに新型コロナがインフルエンザと同様の5類感染症へ移行したことなどが後押しをして、各地のイベントがコロナ前と同様、またはそれ以上の観客を集めている。そして、大いに盛り上がっているのがスポーツである。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、プロ野球阪神の18年ぶり「アレ(優勝)」の達成、夏の全国高校野球選手権大会、サッカーのJリーグ、男子・女子のプロゴルフツアー、ハンガリー・ブタペストで開かれた陸上の世界選手権、来年のパリ五輪出場を決めたバスケットボール男子の活躍、フランスで開催中のラグビーワールドカップ(W杯)など、枚挙にいとまがない。「スポーツの日」を迎え、本稿ではポストコロナにおける盛り上がりと、それらの主な経済効果について述べることにする。

人出回復、観客を魅了

 今年のスポーツイベントが盛り上がった理由を考えてみる。

 一、約3年間、新型コロナによって多くの人々は行動制限、外出制限などにより、自由な行動、外出ができなかった。しかし、今年はほとんどの制限がなくなり、コロナ禍前と同様に自由に行動ができるようになった。その結果、人々は閉じこもっていたうっ憤を晴らすように、旅行やイベントに出かけるようになった。特に、スポーツや祭りなど普段は大きな声を上げて楽しめる先へ多くの人は出かけるようになった。

 一、世界や日本国内で、ロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾への圧力、石油や天然ガスの価格上昇、日本国内の止まらないインフレなど普段の生活を圧迫する出来事が多いため、人々の間にはつらつとした明るいスポーツを楽しみたいという気持ちが高まってきている。

 一、アスリートは、コロナ禍でも体力や技術力を維持するために、練習を積み重ねてきている。その成果をコロナ禍後に発揮したいがために精いっぱいプレーし、それが観客に感動を与えている。

 一、新型コロナ禍でしばらくアスリートのプレーを見ていなかった間に、これまで知らなかった若手のアスリートが成長してきて、各スポーツ界に有望でフレッシュな選手が生まれている。観客は有望な新人に惹(ひ)きつけられる。

 一、日本のアスリート、チームが、世界で互角に勝負する実力を付けてきている。

そもそも経済効果とは

 「経済効果(専門的には『経済波及効果』という)」とは、「直接効果」、「1次波及効果」、「2次波及効果」を合わせたものである。スポーツの直接効果とは、消費者、企業、自治体がスポーツのために、消費・投資する直接的な金額である。例えば、野球ファンが球場に行ってカレーライスを食べて、応援する球団のグッズを買うと、カレーライスやグッズの売り上げは直接効果となり、カレーライスの材料である米、肉、玉ねぎ、ニンジンなどの売り上げ、さらにユニホームや帽子などのグッズを作っている企業の売り上げも増える。それらの原材料の売上増加額や、グッズを作っている企業などの原材料の売上増加額を「1次波及効果」という。

 また「2次波及効果」とは、直接効果、1次波及効果に関係した企業、店舗などの売上高が上がると、それらの企業、店舗の経営者、従業員の所得などが増える。その所得などの増加額のかなりの部分が消費に向けられる。その消費増加額のことを「2次波及効果」という。これらの経済効果は、経済学の一つの理論である産業連関分析で計算する。

前年ヤクルトVの2倍

 9月に阪神タイガースは、2005年以来18年ぶりの「アレ」を達成した。大勢の阪神ファンはまだ「夢の中にいるようだ」と〝阪神(半信)半疑〟かもしれない。阪神優勝時の経済効果とは、阪神が優勝しなかった時と比較してはじき出したプラスの差額のことである。

 阪神が「アレ」を達成した時の直接効果の金額は第1表の通りである。

 以上の計算により、阪神「アレ」の直接効果の合計は、約448億6684万円となる。そして、内閣府による最新の全国の「産業連関表」(19年に発表した15年「産業連関表」の修正版)を用いると、23年の阪神の「アレ」の全国での経済効果は約969億1238万円となる(第2表)。全国の産業連関分析で得た経済効果の約9割が関西地域、残りの1割は他の地域にもたらされる経済効果であると仮定すると、23年の阪神「アレ」の経済効果は関西地域で約872億2114万円となる。

 第3表には18年前の阪神優勝時からの主な優勝チームの計算された経済効果が示されている。

 過去の経済効果と比べて、今年の阪神のアレの経済効果が非常に大きくなった理由として以下の原因が考えられる。

 ①阪神ファンが待ちに待った18年ぶりの「アレ」で、阪神ファンの間で大いに盛り上がったこと。一般的には、毎年のように優勝していると、ファンは優勝慣れをして盛り上がりが少なくなる。

 ②新監督になり、また若手選手が活躍し新鮮味が増したことで、昨年より観客数が約2割増加したこと。

 ③諸物価の上昇が影響したこと。

 ④コロナ禍でスポーツイベントに行けなかった人たちが、行動制限の撤廃で球場に詰めかけられるようになったこと。

大谷翔平の功績

 3月に開催された第5回WBCは、これまでにない盛り上がりで「侍ジャパン」が優勝した。この時の日本国内での経済効果についても述べてみよう。

 WBCの直接効果の項目を挙げてみると、宮崎県での合宿関係の売上額約13億3414万円、日本が主催する強化試合などの売上額が約36億4458万円、第1・第2ラウンドの売上額約87億4369万円、スポーツカフェや飲食店の売上額が約12億1590万円、優勝パレードに関係する売上額が約96億210万円、優勝賞金約4億4200万円などで直接効果の総額は約276億1503万円となった。この金額を産業連関分析すると、経済効果は過去最高の約654億3329万円に上った。

 WBCで、侍ジャパンは06年の第1回目と09年の第2回目にも優勝している。第2回目の優勝時の経済効果は505億5405万円であったので、今回は約100億円以上もそれを上回っている。これはもちろん選手、監督、コーチ、関係者、そして日本中の野球ファンのおかげであるが、やはり「大谷翔平のWBC」であったと言っても過言ではないであろう。これまで野球はもちろんのこと、スポーツ全般にほとんど関心のなかった人たちまでを大谷ファン、野球ファンにした大谷の功績は計り知れないものがあるといえる。

サッカーも、ゴルフも

 プロ野球以外でも多くのスポーツで観客が増加し、経済効果が大きくなっている。例えば、サッカーのJ1。22年は計306試合で観客総数は438万4401人であったが、今年は9月18日の段階で556万938人の観客総数になると予想されている。つまり約26・86%の増加となる。

 また、日本女子プロゴルフ協会は今年の賞金総額が44億9千万円と昨年の44億4214万円を超える史上最高額を、日本ゴルフ機構は今年の男子プロゴルフの賞金総額を昨年の32億6800万円を超える約33億5400万円と予想している。このように男子、女子ともにプロゴルフの賞金は増加傾向にある。

 また、プロではないが、この夏、慶應義塾高校の107年ぶりの優勝で盛り上がった全国高校野球選手権大会は、昨年の観客56万6500人を大きく超える約63万7200人を集めたといわれている。

 さらに、バスケットボール男子やラグビーのW杯など各種スポーツ大会は大変な人気である。これは先述したことなどが理由であると考えられる。その結果、今年の日本のスポーツ界の経済効果は大きく膨れ上がるであろう。

スポーツの発展と貢献

 世界において外交、政治、経済などの分野で明るい未来の展望が見いだせない中、今年が新型コロナで落ち込んだ日本、世界のスポーツ界が回復からさらなる発展に向かうスタートの年になると期待されている。スポーツの発展が経済の活性化につながり、世界の平和に貢献することを願っている。

関西大学名誉教授 宮本 勝浩(みやもと かつひろ) 1945年和歌県生まれ。70年大阪大学大学院経済学研究科修士課程修了。ハーバード大学研究員、大阪府立大学教授、同大学副学長、ロシア極東商科大学や中国同済大学の客員教授など歴任。2000年経済学博士(神戸大学)。19年度和歌山県文化功労賞、21年度和歌山市文化賞受賞。主な著書に「移行経済の理論」(中央経済社)、「『経済効果』ってなんだろう?」(同)

(Kyodo Weekly 2023年10月9日号より転載)

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