【スズキナオが聞く“発酵する人々”】第3回 「青山ブックセンター本店」店長・山下優さんに「発酵マーケットPOPUPの本」について詳しく聞く

「青山ブックセンター」山下優さん
千年以上の長い歴史の中で醸されてきた日本の「発酵」。21世紀に入ってからは、世界各地の異文化と融合し、新たなカルチャーとして食のシーンを盛り上げている。伝統と革新がせめぎ合う発酵食の土台となる“麹”から、発酵の産物である酒造り、お酒と深い縁を持つ神事など、さまざまな側面で発酵カルチャーを広げる人たちを、4回の連載記事で紹介する。
シリーズの第3回は、東京都渋谷区神宮前に店舗を構える書店・青山ブックセンター本店で店長を務めている山下優さんへのインタビューである。古今東西、幅広いジャンルの書籍を読んできた山下さんは、2025年に開催された「第4回 発酵マーケット KOJI/麹」に関わり、ご自身がセレクトした書籍を会場内で販売していた。
――よろしくお願いします。まずは山下さんが青山ブックセンターに関わるようになった経緯から聞いてもいいでしょうか。
2010年5月にアルバイトで入社して、その時はまだ週3ぐらいで仕事していて、2011年以降は週5でがっつりと働くようになって、2018年11月に店長になると同時に社員になったという形ですね。で、今に至っています。
――それこそ、以前お会いした時にもちらっと伺ったんですが、ここ数年は特にコロナのこともあって、経営面などでもいろいろと見直したりしてきたと。
僕が店長になる前から、ずっと出版不況ではあるんですよ。業界全体としては下がっている中で、ただ、書店としては工夫次第で売り上げを伸ばしていけると思っていろいろとやってきました。
――そう聞くと頼もしいです。
これはコロナ前からですけど、お店で開催するイベントを増やすようにしています。とにかくやっぱり本屋に来てもらう機会を増やしていくっていうのが一番の目標ですよね。今は本屋が昔よりも身近な場所ではなくなってしまっているというか、昔はなんとなく本屋に立ち寄るという機会があったと思うんですけど、やっぱりインターネットやスマホがこれだけ普及している中で、そういう場所ではなくなってしまっていますよね。なので、とにかく足を運んでもらう機会を増やしたいというのは意識してきた数年でしたね。
――そうやって書店のイベントが増えると、本の著者とかお客さんたちと交流するような場面も増えますか?
そうですね。著者の方ですと、イベントもそうですし、新刊を出すタイミングでサインを書きに来てもらったりとか、そういう機会も大事だなと思っています。あと、2015年から「○○○人がこの夏おすすめする一冊」をずっとやってきて、最初は100人の方々に挙げてもらって、それがだんだん増えていって、去年は333人に選書してもらいました。そうやってつながりも増えてきた数年でした。
――山下さんが「発酵マーケット KOJI/麹」に関わっているのは昨年(2025年)からですよね。きっかけとしては、まず、小倉ヒラクさんとのつながりがあってのことですか?
はい。小倉ヒラクさんとは、最初は面識もなくて、書店には新刊の案内がFAXで来るんですけど、ヒラクさんの『発酵文化人類学』の案内を見た時に「めちゃくちゃ売れそうだな」と思って(笑)、それでたくさん仕入れたんです。当時、ヒラクさん本人がそういう連絡の窓口もやっていらしたので、そこからやりとりが始まって「じゃあ今度イベントやりましょう!」となって、という流れでしたね。
――あの本が出たのが2017年なので、その頃からのお付き合いということですね。
そうです。『発酵文化人類学』の単行本と文庫版を合わせたらたぶん日本でうちが一番売っているんじゃないかと思います(笑)。
――すごい。それだけ反響が大きかったんですね。
青山ブックセンターって、自分で言うのもあれですけど、次に何を提案するかが注目されているというか、そういう興味を持ってお店に来られる方が多いと思うんですよね。
――わかります。私も何度も行かせてもらっていますが、あのお店をまわっていると今の世界でこんなことが起きているというのがなんとなく感じられるんですよね。
何か新しいものを探しているというお客さんが多い中で、まだその頃(2017年頃)は「発酵」というもの自体も今ほど興味を持たれていなかったと思うんです。もちろん健康食品の流れで注目している方はいたと思うんですけど、発酵を正面からテーマに据えたあの本はインパクトがあったと思います。それでかなり売れて、そこからはヒラクさんとはいい意味でズブズブの関係ですね(笑)。
――その関係が一回のイベントで終わらずにその後も続いているという感じですか?
青山ブックセンターでは、誰か相手がいてのトークイベントというのでなくても、ヒラクさんが一人で喋るような催しもありましたし。あとは僕の方が「発酵マルシェ(小倉ヒラクさん監修のイベント)」に呼んでもらったこともありましたし、うちから写真集(小倉ヒラク『発酵する日本』)も出版させてもらったりしました。
――去年の「発酵マーケット KOJI/麹」での山下さんのトークで、会場内の青山ブックセンターのポップアップコーナーがすごく好評で、売れ行きもいいというようにお話をされていた記憶があるんですが、実際、どんな印象でしたか?
初めて参加したので、正直なところちょっと手探りな感じもあったんですけど、予想よりはかなり好調でした。食祭テラスは百貨店の食品売り場なわけで、そこで本が売られているというのはなかなかないことですから。ただ、今、道の駅でも棚を作って本を販売してもらっているんですけど、親和性は高いなと思っているんです。人が集まる場に本があるというのは重要なことだと思っているので、すごくありがたい機会だなと思っています。

2025年に開催された「発酵マーケット KOJI/麹」の様子
――特に「発酵マーケット KOJI/麹」は毎回すごく人が集まってにぎわっていますもんね。
去年の時点で思ったよりポップアップの面積が広いなと思ったんですけど、今回は面積が倍になる予定なので頑張らなくてはと思っています。
――昨年は私も会期中に何度か足を運んだんですが、いつ行っても山下さんがいらっしゃった印象があります(笑)。
自分としては結構自由にやらせてもらったつもりなんですが、今度の方は……たぶん連日います。
――ポップアップコーナーが倍の面積になって、そこには山下さんはもちろん、小倉ヒラクさんや今井翔也さんの選書コーナーもできるんですよね?
そうなんです。今井さんは今井さんを形作った15冊というのを選書してもらって、小倉ヒラクさんは、8月に出る『日本人の発酵史』や現在発売中の『僕たちは伝統とどう生きるか』の参考文献を中心とした選書になる予定です。
――山下さんの選書はどんなものになる予定ですか?
はい。発酵と食を中心に、小説だったりとか哲学だったりとか、広く選ぼうと思ってます。まだちょっと選びきれていないんですけど。
――選書リストの中で今、明かせるものはありますか?
玉利康延『和食人類学』という本がすごく面白いなと思っていて、それは並ぶ予定です。「和食について」という壮大なテーマで、日本人が今までどういうものを食べてきたっていうのをビジュアルとともに深掘りしていく本なんですけど、サイズやビジュアルの多さなど、たぶん出版社に持ち込んでも通らないような企画なんですよね。それもあって自費出版として出された本なんです。
――それは面白そうです! 買おう。
もう一つはチャーリー・カウフマンの『アントカインド』という小説で、上下巻で1万4000円もする本なんですけど、すごく面白い。たたずまいからして、よくわからないんです。ケース入りですごくかっこいいんですけど、内容もぶっ飛んでいて、すごく長いんですけど、今、紙がすごく高くなっている中で、だからこそ紙として残すべきものが求められているなと感じるので、こういう小説がちゃんと残っていくのはいいなと思います。
――すごく幅広く読まれているんですね。
いや、めちゃくちゃ読んでるかっていうと、正直、周りの方が読んでるなっていうのは感じますね。ただ、店頭にいるっていうのは大きいと思います。自分が専門で扱っていないジャンルでも面白そうだなっていうものは見えるので。そういう意味では恵まれた環境だなと思います。
――なるほど。そういう意味でも「発酵マーケット KOJI/麹」はいい本を知ることができる機会になりそうですね。ちなみに山下さんからは、最近の小倉ヒラクさんの活動はどう見えていますか?
前から広い範囲で活動されていたとは思うんですけど、「発酵デパートメント」を中心に、日本の伝統とまでつながってきています。さらに幅が広がったというか、扱うテーマがより大きくなっているというのを感じます。もともと忙し過ぎるような姿を見てきたんですけど、今後はより忙しくなるんだろうなと心配もしています。
――今度の「発酵マーケット KOJI/麹」でも、小倉ヒラクさんと山下さんのトークが予定されていますよね。そこではどんなお話をする予定ですか?
ポップアップの棚の中身についてとか、新刊の話になると思います。
――楽しみにしています。あと、今回、サブテーマが「本と発酵と“直会”飲み会」となっているんですけど、山下さんは「直会」というようなものを経験したことはありますか?
いや、去年の「発酵マーケット KOJI/麹」でちゃぶ台を囲んで飲んでいろいろと話した、あれが初めてでしたね。すごく新鮮でした。ああいう場から生まれる空気感というのは特別だなと思いました。
――今度の一週間の会期中、きっと山下さんと乾杯できる機会もたくさんあると思うので、楽しみにしています! 今日はありがとうございました。
山下さんと話していて、小倉ヒラクさんを中心に発酵というものに関心が集まる今、発酵というキーワードをスタート地点に、発酵そのものについてだけでなく、食文化やものづくりの方法や社会のあり方など、様々なことを学んでいける気がした。
青山ブックセンターによる「発酵マーケット KOJI/麹」のポップアップコーナーはきっとその入口になってくれるだろう。そこに並ぶ本を見るのが今から楽しみだ。
※本記事は、ことさら出版との連携企画です。
スズキナオ(X/tumblr)
1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス/太田出版)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス/太田出版)。
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