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クマを食す 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」 

手前右はじっくり煮込んだチャーシュー、左はブドウの枝に刺した串焼き、奥左のグラス入りがすき焼き丼

 市街地で人がクマに出くわす事件が後を絶たない。今年は昨年より早い時期から出没している。福島市の工場で男性を追いかけるクマ、宇都宮市の繁華街を疾走するクマの映像は衝撃だった。

 昨年の人身被害(238人、うち死者13人)と捕獲数(ヒグマ2139頭、ツキノワグマ1万2581頭)はともに過去最多。今年はもっと多くなる可能性が高い。急がれるのは山と人里の境界に緩衝地帯を作ってクマを寄せ付けないようにするゾーニング(すみ分け)、生息数の科学的調査とそれに基づく適切な駆除である。

 クマ問題は、自然や野生動物と人との関係を深く考える契機になった。クマ関連の書籍が急増し、文芸誌や思想誌も特集号を出している。

 駆除したクマのほとんどは焼却や埋設で処分される。かつてアイヌ民族はヒグマを神様からの贈り物として余すことなく食し、東北のマタギ料理でもクマ鍋が定番という。やむなく奪った命、ジビエとして活用できないだろうか。

 シカやイノシシと同様、クマもジビエ専用の食肉処理施設で衛生管理に関するガイドラインに従って処理し、中心部までしっかり加熱すれば安全に食べることができる。

 タイミングよく5月末、自民党のジビエ議連(石破茂会長)、捕獲議連(山谷えり子会長)、鳥獣被害対策特別委員会(笹川博義委員長)の合同主催でクマとジビエの在り方を考える会が開かれた。石破さんはジビエ普及に取り組んで長いが、ジビエ愛は幼い頃食べたクマのすき焼きがおいしかったことに始まるという。

ジューシーな粗挽きソーセージ。シェフでもある藤木さんが4品の調理を担当した

 まずは味を知ろうということで、会ではツキノワグマのチャーシュー、ソーセージ、すき焼き丼、串焼きが提供された。これまでフランス料理のパテや赤ワイン煮で食べたことはあったが、まとまって4品も試食したのは人生初。串焼きはもも肉を使っているせいか野生味が強かったが、他の3品は拍子抜けするくらいクセがなく、とくに脂身の多い薄切りを使ったすき焼きはとろけるように軟らかかった。

 クマは12月から翌春まで冬眠する。日本ジビエ振興協会代表理事の藤木徳彦さんによると、クマ肉の旬は冬眠直前の11月。巣穴に入るこの頃から体温が下がるため脂肪の融点が人間の体温より低くなり、口に入れた瞬間に溶けるという。植物質中心の雑食性だが、動物質のエサを食べると肉は生臭くなり、木の実や果物を飽食する秋は肉の味も抜群によくなるそうだ。

 美味な肉を捨てるのは惜しい。問題は全国に食肉処理施設が900近くあるにもかかわらず、クマ被害が多発する北関東から東北は40程度と圧倒的に少ないことである。岩手・宮城・山形・福島・栃木・茨城・群馬の全域に原子力災害対策特別措置法に基づく野生鳥獣肉の出荷制限指示が出され、ジビエ振興が一気に下火になったのが原因だ。福島原発事故の影響はこんなところにも及んでいる。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.25からの転載】



はたなか・みおこ 専門は近現代の流行食。料理本の編集も。著書に「ファッションフード、あります。」(ちくま文庫)など。

 

  • 手前右はじっくり煮込んだチャーシュー、左はブドウの枝に刺した串焼き、奥左のグラス入りがすき焼き丼

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