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「特集」 旧統一教会問題を止めるな 安倍元首相銃撃事件から1年

弁護士
阿部 克臣

 昨年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件を契機として、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡るさまざまな問題が明らかになりました。教団の持つ顕著な反社会性や被害の凄惨(せいさん)さが広く世間に知られるようになり、同時に政治家との癒着の実態も次々と明るみに出て、旧統一教会問題は大きく社会問題化しました。

 政界では昨年夏以降、各政党が旧統一教会との従前の関係性を問うアンケートを実施したり、議員が個別に関係を絶つという表明をしたりしたほか、自民党の行動指針に教団との関係断絶を明記すると岸田文雄首相が国会で表明するなど、教団との関係を見直す動きは一定程度進められました。

 このような情勢の中で、旧統一教会の宗教法人解散を求める声が飛躍的に高まりましたが、所轄庁である文化庁は長年にわたり、宗教法人法上の解散命令請求の要件を非常に狭く解釈し、刑罰法規の違反に限るとしており、法人や代表者自体が刑事責任に問われたことのない旧統一教会については要件に当たらないとの立場を取り続けていました。

 これはそもそも不合理な解釈でしたが、昨年10月、岸田首相は、世論に押される形で国会答弁でその解釈を変更し、民法違反も含まれうるとしました。

 そして、解散命令請求の要件に当たるか否かを判断するためとして、文化庁は昨年11月、旧統一教会に対して宗教法人法上の質問権を初めて行使し、現在に至るまで6回実施しています。同時に、旧統一教会問題に長年取り組んできた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)から資料提供を受けたり、被害者からの聞き取りをしたりするなど調査を進めています。

被害者救済新法の成立

 積み上がる被害者や家族の声と世論の大きなうねりの中で、昨年12月10日の臨時国会で不当寄附勧誘防止法(いわゆる被害者救済新法)が成立しました。同法は、主に旧統一教会による高額献金被害を念頭に国会審議が行われ、わずか1カ月という異例の短期間の議論を経て、しかも土曜日に国会が開催され成立したという点で極めて異例でした。

 長年、旧統一教会問題に対して何らの対応もせずに放置してきた国が、わずかな期間に被害者救済を目的とした新しい法律を作ったことは驚くべきことであり、被害抑止・救済に向けた取り組みの第一歩として評価できるものでした。

 昨年9月以降、国、日弁連、法テラス(日本司法支援センター)に設置された各相談窓口には、旧統一教会の被害者や家族らからの相談が山のようにあふれていました。これは、長年声を上げられなかったり、諦めたりしていた被害者や家族らの叫び声でした。

 これら被害者・家族の受け皿となり旧統一教会被害の具体的な救済活動に当たるものとして、昨年11月、全国の200人以上の弁護士が結集し、全国統一教会被害対策弁護団が結成されました。

 弁護団は今年2月、旧統一教会に対して第1次集団交渉の申し入れを行い、損害賠償や献金記録の開示などを求めました。その後、第2次、第3次と申し入れ、被害者数は計99人、請求額は26億円を超え、今後も順次申し入れを行っていく予定としています。

 「宗教2世」と呼ばれる、カルト宗教の信仰を持つ親の下で育った子どもたちが受けてきたさまざまな人権侵害は、長年社会問題として認知されておらず、家庭内の問題である、あるいは宗教であるとして、行政も介入に極めて消極的でした。

 昨年7月以降、それまで声を上げることができなかった多くの宗教2世たちが勇気を出して次々と声を上げ、報道でも大きく取り上げられるようになり、宗教2世の問題はようやく社会問題として認知されました。

 昨年12月、厚生労働省は宗教虐待に関するガイドラインを公表しました。このガイドラインは、宗教2世が受けてきた宗教を背景としたさまざまな人権侵害(宗教虐待)が児童虐待に当たることを明記し、行政に対して子どもの側に立った対応を求めるものであり、現在の児童虐待防止法の枠組みの中で図りうる最大限の対応指針を示したものでした。

世間の「終わった感」

 このように、安倍元首相銃撃事件から数カ月間での旧統一教会問題を巡る社会のさまざまな変化は、それまでの「空白の30年」とも呼ばれる長く放置された期間を考えると、まさに劇的なものでした。

 しかし、これはまだ被害抑止・救済に向けた取り組みの第一歩というべきものに過ぎず、多くの問題はいまだに解決されずに残ったままとなっています。

 ところが、昨年12月に被害者救済新法が成立したあたりから、何となく世間に「やった感」「終わった感」が漂い始め、年が明けると世論は次第に沈静化し、マスコミの報道も大幅に減ってしまっています。これに呼応するかのように旧統一教会は勢いを強めており、表向きの改革をアピールするとともに、今年5月には韓国で数年ぶりに大規模な合同結婚式を開催するなどして活動を活発化させ始めています。

 1950年代に日本に入ってきた旧統一教会は、これまでも繰り返し社会問題化してきました。しかし、そのたびにさまざまな手を講じて社会の目をくらませ、ほとぼりが冷めるのを待ち、再び被害が発生するということを繰り返してきました。

 このままでは同じ轍を踏むことになりかねず、ここでしっかりと旧統一教会被害の根絶を図ることが絶対に必要です。

 世論の沈静化とともに、旧統一教会と政治家との過去の癒着の実態についても、十分な調査・検証が行われずにうやむやにされたままとなっています。

 米国では76年以降、フレイザー下院議員を座長とする委員会が「コリアゲート事件」(韓国政府などによる米国政界工作事件)に関する調査を行い、「フレイザー報告書」と呼ばれる調査報告書をまとめました。それを基に、旧統一教会の教祖文鮮明が脱税容疑で告発されて服役することになり、以降、米国での教団の活動はそれ以前に比べて下火になりました。

 他方、日本における旧統一教会は一部の保守系政治家のお墨付きを得て共存共栄し、それが被害拡大に寄与してきたという現実があります。国は、教団と政治家との過去の癒着の実態について、第三者委員会などを立ち上げて十分に調査し検証を行うべきです。

解散命令と財産保全

 旧統一教会は長年、国に認証された宗教法人として大手を振って違法な活動を続けてきました。裁判所の解散命令によって宗教法人格を失えば、「宗教団体」としては存続し得ますが、「宗教法人」としての特権を失い、間違いなく組織は弱体化し被害は減ります。そのためには、文化庁が解散命令請求を行い、裁判所が一刻も早く解散命令を出すことが必要です。

 同時に大事なのが、財産保全を図るための特別措置法を制定し、早急に財産保全を行うことです。宗教法人法には財産保全の規定がなく、立法の不備があります。

 旧統一教会は、これまで毎年数百億円もの資金を韓国やアメリカに送金してきており、組織的に全国の不動産売却を図ったこともあり、解散命令が近づくにつれ財産隠しを図る可能性は極めて高いといえます。

 解散命令が確定し清算手続きに移行すると、裁判所から選任された弁護士である清算人が法人の財産を処分し、債権者へ配当を行うことになります。被害者も債権者と認められれば、清算手続きの中で支払いを受けることにより被害救済を受けることができます。しかし、清算手続きに移行した時点で空っぽであれば目も当てられません。

 また、全国統一教会被害対策弁護団による集団交渉申し入れに対しては、教団側は基本的に「被害」なるものは見当らないというスタンスであり、不誠実な対応を取り続けています。

 そのため、弁護団としては次の段階として集団調停や集団訴訟を検討せざるを得ませんが、被害者や家族らの被害には、既に消滅時効の期間を過ぎていたり、証拠が残っていなかったり、本人が既に亡くなっていたりするなど、困難な事案も多く含まれています。

 そのような事案も、元はといえば教団が長年にわたり自らが生み出してきた「被害」に向き合わず、無責任な対応を続けてきたことに起因するのです。教団の責任を認めなければ不法な利益が教団側に残ることにもなり、正義・公平の観点に反することが明らかです。裁判所においては、被害者・家族の適切な救済が図られるべきです。

宗教虐待への対処には

 新たに成立した被害者救済新法は、被害抑止・救済に向けた取り組みの第一歩としては評価できるものの、適用対象や範囲が狭いなどのため実効性としては乏しいものであり、特に家族被害の救済にはほとんど役立たないものとなっています。

 同法は、施行後2年をめどとして施行状況などを勘案し検討を加えるものとされています。被害者の声に十分に耳を傾けた上で、被害救済に役立つように適切にその内容を見直していくことが必要です。

 また、厚生労働省が出した宗教虐待に関するガイドラインは、児童虐待防止法の枠組みの中での対応指針を示したものでしたが、児童虐待防止法が基本的に親子間の虐待を想定しているため、宗教団体が背後にある宗教虐待への対応には限界があります。

 第三者虐待防止法などの制定、または児童虐待防止法の改正によって、宗教虐待の禁止を明記するとともに、組織的な宗教虐待へ対処するための国・自治体の権限の明確化を図ることなどが必要です。

 このように旧統一教会の問題はまだ緒に就いたばかりです。人権問題であり、被害が根絶するまで多くの方に関心を持ち続けてほしいと思います。

弁護士 阿部 克臣(あべ・かつおみ)/1978年山形県鶴岡市生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、2009年弁護士登録。第二東京弁護士会、リンク総合法律事務所所属。全国霊感商法対策弁護士連絡会の事務局、全国統一教会被害対策弁護団の事務局次長を務めるほか、多数の消費者被害弁護団に参加している。共著に「統一教会との闘い 三五年、そしてこれから」(旬報社)。

(KyodoWeekly 2023年6月26日号より転載)

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