ファイル依存関係の検証を99.7%高速化
~大規模ソフト開発のボトルネック解消~
2026年9月15日
早稲田大学
ファイル依存関係の検証を99.7%高速化 ~大規模ソフト開発のボトルネック解消~
詳細は早稲田大学HPをご覧ください
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【発表のポイント】 ●ソフトウェア開発の多くで頻発するビルド時のファイル間の依存関係のエラーを効率的に検出する新技術mkcheck2を開発しました。 ●eBPF※1によるファイルに対する操作の軽量な監視と差分解析により、従来手法に比べて、最大99.7%の高速化を実現しました。 ●コードの変更登録あたりの解析時間を約1,267秒から約23秒へと圧倒的に短縮することで、変更のつどプログラムを安全に自動構築し続けることを現実に可能にしました。 ●ソフトウェア品質向上と開発効率の大幅改善に貢献し、大規模システム開発の基盤技術として期待されます。 |
現代のソフトウェア開発では、実行可能なプログラムを構築してまとめるビルド処理を、正しい依存関係の定義に基づいて、正しく継続的に自動的に進める継続的インテグレーションが欠かせません。依存関係の定義を正しく行っておくことで、依存先のファイル(例えば図1におけるファイルFd)が更新された場合に、依存元のファイル(図1におけるファイルFa)を対象として自動的にビルドすることが可能になります。しかし大規模なソフトウェア開発において、本来は必要な依存関係が定義から漏れているといったエラーが、開発の半数以上を占める深刻な問題となっています。必要な依存関係の定義が漏れていると、依存先のファイルが更新されても、依存元を対象としたビルドがなされません。また逆に、依存関係が余分にある場合には、本来は依存していないはずのファイルが更新された際に、本来は依存元ではないほうを対象としたビルドが余計に実行されてしまいます。こうしたエラーに対応するため、これまではビルドのたびに組み立てに必要なすべてのファイルを、処理時に時間をかけて調べる検証手法が提案されてきました。こうした手法では検証の精度は高いものの、大きな追加の処理時間を必要とするため大規模なプログラムの実用的な検証には不向きであり、継続的な開発や高信頼化の妨げとなっていました。
早稲田大学理工学術院の鷲崎弘宜(わしざきひろのり)教授および東京通信大学の坂本一憲(さかもとかずのり)准教授らの研究グループは、大規模なプログラムのビルドにおいて高精度かつ高速な依存関係の検証を実現するために、軽量なシステム呼び出し監視技術であるeBPFと差分解析を組み合わせた新手法「mkcheck2」を開発しました。本手法により、従来と同等の精度を維持しながら、依存関係検証の処理時間を大幅に削減することに成功しました。特に、変更登録あたりの解析時間を従来の約1,267秒から約23秒へと短縮し、実運用環境での継続的な検証を可能にしました(図2)。
本成果は、2026年9月11日(金)にソフトウェア工学分野における世界トップの国際会議 48th IEEE/ACM International Conference on Software Engineering (ICSE’26)において発表し、ACM Digital Library上の『Proceedings of the 2026 IEEE/ACM International Conference on Software Engineering』で公開されました。
図1. ビルド時に判明するファイル間の依存関係の定義のエラー
キーワード:
ビルドシステム、依存関係検証、eBPF、差分解析、継続的インテグレーション、ソフトウェア品質、開発効率、システム呼び出し監視
(1)これまでの研究で分かっていたこと
ソフトウェアを組み立てるビルドを継続的かつ自動的に進めるうえで、前提条件としてファイル同士の依存関係を正しく定義する必要があります。
しかし、大規模開発では依存関係の誤りが頻発し、エラーの50%以上を占めることが報告されています。従来のビルドのたびに組み立てに必要なすべてのファイルを調べる検証手法では、動的解析により高精度ながらも処理が遅いか、もしくは、静的解析により高速ながらも不完全というトレードオフが存在していました。
(2)新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究では、効率と精度を両立する新しい依存関係検証手法「mkcheck2」を開発しました。実現のためのカギは、eBPFを用いた軽量なシステム呼び出し監視技術にあります。従来のptrace方式と呼ばれる監視手法では、オペレーティングシステム(OS)の上で応用ソフトウェアを動作させる領域(ユーザ空間)上で監視するため、ビルド時に行われるファイル操作の呼び出しごとに処理の切り替えが発生し、検証のために大きな追加の処理時間を必要としていました(図3上段)。
一方、本手法では、ファイル操作を実際に実行するカーネル空間と呼ばれるOSが管理する中核領域内で、ビルド時のファイル操作をより直接的に監視することで、処理負荷をほぼゼロに抑えることができました。加えて、本手法では、差分解析による効率化を実現しました。従来はすべての依存関係を毎回検証していましたが、本手法では変更があった部分のみを対象とすることで、計算量を大幅に削減しました(図3下段)。
この結果、ビルド時の検証のために生じる追加の処理時間を約0.3%に短縮し、最大99.7%の高速化を図り、平均解析時間を変更登録あたり約23秒にまで短縮することを達成しました。さらに、300件のオープンソースプロジェクトで評価を行い、依存関係の欠落の検出率100%という高精度を確認しました。
(3)研究の波及効果や社会的影響
本技術により、ソフトウェア開発におけるビルド時の実用的な依存関係エラーの検出と早期の解消対応を通じた開発効率の向上が期待されます。またそれにより、品質上の問題へと継続的に取り組むことを可能とし、ソフトウェアの信頼性やセキュリティ強化にも貢献します。特に、クラウドやAIシステムなど大規模ソフトウェアの開発では、システムの運用開始後もプログラムを修正ならびに改訂し続ける継続的インテグレーションを実現する環境での高速な検証が不可欠であり、本技術はその基盤として重要な役割を果たします。また、様々な環境においてシステムをビルドし運用することにも寄与します。
(4)課題、今後の展望
本手法はOSとしてLinux環境に依存し、他のOS環境への適用は今後の課題です。また、欠落ではなく冗長な依存関係については一部検出できない場合があります。今後は、他のビルドシステムへの適用拡大、自動修正機能の導入、継続的インテグレーション環境との統合強化、などを進め、より実用的な開発支援技術として発展させる予定です。
(5)研究者のコメント
本研究では、大規模なソフトウェア開発における長年の課題であったビルド時のファイル依存関係の検証の高精度と高速性の両立に挑戦しました。その結果、実開発環境で使える依存関係検証技術を実現できたと考えています。本技術がAI時代に必要なさらなるソフトウェア開発の効率化と品質向上に貢献することを期待しています。
(6)用語解説
※1 eBPF(extended Berkeley Packet Filter)
Linuxカーネル内で安全にプログラムを実行する仕組み。低負荷でシステムの挙動を監視できる技術。
(7)論文情報
会議名:48th IEEE/ACM International Conference on Software Engineering (ICSE’26)
雑誌名:Proceedings of the 2026 IEEE/ACM International Conference on Software Engineering
論文名:Efficient Build Dependency Verification Using eBPF and Incremental Analysis
執筆者名(所属機関名):
齋藤 優太(早稲田大学)*、坂本 一憲(東京通信大学、WillBooster株式会社)、鷲崎 弘宜(早稲田大学、国立情報学研究所、株式会社エクスモーション)
掲載日時:2026年9月11日
掲載URL:https://dl.acm.org/doi/10.1145/3744916.3773204
DOI:https://doi.org/10.1145/3744916.3773204
*:責任著者















