牛乳の摂取量を増やして乳製品の摂取量を適量とした場合、脳卒中関連医療費の削減につながる可能性を試算
2026年3月12日に国際学術誌Nutrientsに掲載
牛乳の摂取量を増やして乳製品の摂取量を適量※1とした場合、 日本の脳卒中関連医療費の削減につながる可能性をシミュレーションで試算
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市、理事長:中村 祐輔)と、株式会社 明治(東京都中央区、代表取締役社長:八尾 文二郎)は、牛乳の摂取量を増やして乳製品の摂取量を適量※1とすることで、日本における脳卒中※2に関連する医療費の削減につながる可能性をシミュレーションにより試算しました。
本研究の成果は、2026年3月12日に国際学術誌Nutrientsに掲載されました(Nutrients 2026, 18(6), 906; https://doi.org/10.3390/nu18060906)。
本研究は、健康への意識が高い人に限らず、すべての人が意識せず自然に健康になれる食環境の構築を目指す「食環境整備推進のための産学官等連携共同研究プロジェクト(以下、食環境プロジェクト)」※3の一環として実施されました。食環境プロジェクトは、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所と、味の素株式会社、江崎グリコ株式会社、カゴメ株式会社、キッコーマン株式会社、株式会社 ゼンショーホールディングス、日清食品ホールディングス株式会社、株式会社ニッスイ、株式会社 明治が連携した共同研究プロジェクトです。
【研究成果のポイント】
日本人(30~79歳)のデータを用いてシミュレーションした結果、乳製品の摂取量を牛乳で適量※1まで増やした場合の脳卒中に対する医療経済効果について、以下の試算※4が得られました。
日本人の乳製品の摂取量を「牛乳で平均1日180 g摂取」と増加させた場合、10年間で脳卒中の発症が7.0%減少し、脳卒中関連の医療費が5.1%(約4,070億円)減少すると推計されました。
日本人の乳製品の摂取量を「牛乳で平均1日180 g摂取」と10年間かけて段階的に増加させた場合※5、10年間で脳卒中の発症が3.2%減少し、脳卒中関連の医療費が2.2%(約1,755億円)減少すると推計されました。
※本図は、Nutrients 2026, 18(6), 906; https://doi.org/10.3390/nu18060906に掲載されたグラフィカルアブストラクトを翻訳したものです。
【研究の背景】
脳卒中は日本における重要な健康課題の一つであり、2024年に死因の第4位となっています。近年、複数の研究において、牛乳の摂取が脳卒中の発症リスクの低下と関連することが報告されています※6。そこで、牛乳の摂取量を増やして乳製品の摂取量を適量※1とすることにより、医療費に及ぼす影響をシミュレーションにより検討しました。
【研究の内容】
令和5年国民健康・栄養調査によると、乳製品の平均摂取量は30~79歳で83.5~136.7 g/日にとどまっています。一方、食事バランスガイド※7では、1日に「2つ分」の乳製品の摂取が適量とされており、これを牛乳で満たす場合は180 gに相当します。
本研究では、30~79歳の日本人のデータを用いて、牛乳の平均摂取量を1日180 gに増やした場合の脳卒中に対する医療経済効果を、マルコフモデル※8を用いてシミュレーションしました。なお、本研究は個人を対象にした介入研究ではありません。
その結果、日本人の牛乳の平均摂取量を180 g/日まで増やした場合、10年間で脳卒中の発症が7.0%減少し、脳卒中関連の医療費が5.1%(約4,070億円)減少すると推計されました。また、段階的に180 g/日まで増やした場合※5には、10年間で脳卒中の発症が3.2%減少し、医療費が2.2%(約1,755億円)減少すると推計されました。
以上より、健康的な食習慣の一部として牛乳を取り入れ、乳製品の摂取量を適量※1とすることで、脳卒中の発症・死亡の減少や関連医療費の削減に資する可能性が示唆されました。
【COI(利益相反)開示】
本研究は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所「食環境整備推進のための産学官等連携共同研究プロジェクト」において、厚生労働省からの運営費交付金および民間企業からの研究費により実施されたものです。
研究費:味の素株式会社、江崎グリコ株式会社、カゴメ株式会社、キッコーマン株式会社、株式会社 ゼンショーホールディングス、日清食品ホールディングス株式会社、株式会社ニッスイ、株式会社 明治
研究員:株式会社 明治
※1:食事バランスガイドにおける乳製品の適量
乳製品の「1つ分」は100 mgのカルシウムを摂取できる量と定義されており、1日あたり「2つ分」の乳製品の摂取が推奨されています。
※2:脳卒中
本研究では、くも膜下出血、脳内出血、脳梗塞を対象としました。
※3:食環境整備推進のための産学官等連携共同研究プロジェクト
https://www.nibn.go.jp/eiken/seibi/
※4:シミュレーションの限界について
シミュレーションによって試算される医療経済効果は、牛乳摂取量の増加に関連する脳卒中リスクの推定値に応じて異なる可能性があります。感度分析の結果から、この脳卒中リスクの推定値が、シミュレーションにおける不確実性の最大の要因であることが示されました。この不確実性により、試算される医療経済効果は、2023年から10年間一律に平均180 g/日に増加させた場合で約2,199億円から約5,803億円、10年間かけて段階的※5に平均180 g/日に増加させた場合で約942億円から約2,518億円の幅があります。また、本研究ではシミュレーションに必要なデータの制約から、牛乳の種類や脳卒中の病型を区別していません。これらの違いにより、試算結果に影響が生じる可能性があります。
※5:日本人の牛乳摂取量を10年間かけて段階的に増加させた場合の牛乳摂取量の変化
※6:牛乳の摂取が脳卒中の発症リスクの低下と関連する報告について
牛乳の摂取が脳卒中の発症リスクの低下と関連することは、複数の研究で報告されています。本研究では、東アジアの国々で牛乳の摂取量が1日あたり200 g増加すると、脳卒中の発症リスクが18%低くなる可能性を示した研究報告(J Am Heart Assoc. 2016 May 20;5(5):e002787. doi: 10.1161/JAHA.115.002787)をもとにシミュレーションを行いました。
※7:食事バランスガイド
「食事バランスガイド」は、望ましい食生活についてのメッセージを示した「食生活指針」を具体的な行動に結びつけるものとして、1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかの目安を分かりやすくイラストで示したものです。厚生労働省と農林水産省により、2005年6月に策定されました。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html
※8:マルコフモデル
疾病の経過や医療費の推移をシミュレーションするなど、医療経済評価に広く用いられる手法です。


















