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復興へ歩む日奈久温泉へ 自家源泉の掛け流しと熊本のごちそうを楽しむ「浜膳旅館」 【コラム:おんせん! オンセン! 温泉!】

熊本県八代市の日奈久温泉

 10月も終わりに近づき、朝晩はすっかり肌寒くなりました。秋が深まると恋しくなるのが、心身をじんわり温めてくれる温泉です。せっかくなら、おいしい料理を味わい、時間を気にせず何度もお湯につかる。そんな旅を楽しみたいものです。今回ご紹介するのは、熊本県八代市の日奈久(ひなぐ)温泉にある「浜膳旅館」です。

震災の被害を受けた「金波楼」

 八代海にほど近い日奈久温泉は、開湯600年以上の歴史を持つ温泉地。1409年、父の刀傷の回復を祈っていた息子が、神のお告げによって温泉を掘り当てたと伝えられています。細い路地に木造旅館や昔ながらの商店が並び、どこか懐かしい雰囲気が残る町です。

 しかし、今年7月28日に発生した熊本地震で、温泉街は大きな被害を受けました。国の登録有形文化財である老舗旅館「金波楼」は玄関や塀が倒壊し、ほかにも建物が崩れた場所が見られます。さらに、源泉を各施設へ送る配管などが損傷し、多くの宿や浴場が休業を余儀なくされました。復興への歩みが続くなか、営業を続け宿泊客を迎えている宿もあります。今回訪れた浜膳旅館もその一つです。

「浜膳旅館」の外観

館内の入り口

宿泊した客室

 2005年創業の浜膳旅館は、黄色と淡いピンク色の外壁が印象的な温泉宿で、玄関を入ると、ロビーに飾られた赤い和傘が出迎えてくれます。館内には石畳風の通路や木格子、竹を取り入れた装飾があり、和の趣が漂っています。

 客室は畳敷きの落ち着いた和室でした。こちらの大きな魅力は、全12室に源泉掛け流しの半露天風呂が備わっていることです。しかも自家源泉を使用しており、部屋にいながら日奈久の温泉を好きなだけ楽しめるという、温泉好きにはたまらない宿です。

宿泊した客室の半露天風呂

 さっそく客室のお風呂へ。石をくり抜いたような大きな楕円形の浴槽があり、窓から外の明かりが差し込んできます。浴槽の奥には何とも個性的な石造りのドラゴン湯口が鎮座しています。大きく口を開け、温泉を勢いよく注いでいます。鋭い歯に立派な角、なかなかの迫力ですが、よく見ると鼻が大きく突き出していて、どこか愛嬌のある顔つきに思わず笑ってしまいます。

源泉を湯船に注ぐ「ドラゴン湯口」

 そんなドラゴン湯口が注ぐのは、ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉。源泉温度は39度とぬるめなため加温こそしていますが、加水や消毒はせずに掛け流しで使用されています。浴槽の縁からもお湯があふれ、絶えず新しいお湯が注がれる様子を眺めているだけで、入浴への期待が高まります。

 お湯は無色透明で、鼻を近づけると、潮を思わせる塩気のある香りに、焦がしたような鉱物臭や土っぽさが重なります。奥には、ほんのわずかに硫黄の気配も。味を確かめると、薄く甘塩っぱいだしのようで、ほのかな土のコクや焦がし風味も感じられます。あっさりとした海鮮スープを思わせる、なかなか複雑な味わいです。

 さらに驚かされたのが肌触り。ツルツル、スベスベと滑らかなのに、時折キュッとした引っかかりもあります。ほのかなとろみがあり、ぷるんと肌にまとわりつくような感覚も心地よいもの。湯上がりはサラサラでありながら、しっとりもっちり。体にはポカポカとした温かさが残りました。

 このお湯を客室で24時間楽しめるのですから、何ともぜいたくです。夕食前にひと風呂、夜にもうひと風呂、翌朝にも。誰にも気兼ねせず、好きな時間に好きなだけ温泉を味わえるのは、客室風呂ならではの魅力ですね。

熊本名物の馬刺し

アワビの蒸し陶板焼き

イセエビの南瓜焼き

 温泉と並ぶ楽しみが夕食です。この日は全15品の会席料理で、ジャガイモのムースや手作りの辛子レンコン、あぶった秋刀魚のレモン締めなど、季節を感じる料理が並びます。

 特に印象に残ったのは、熊本名物の馬刺し、アワビの蒸し陶板焼き、イセエビの南瓜焼き、そして黒毛和牛の溶岩焼きです。馬刺しは赤身と白い脂身の色合いも美しく、熊本に来た喜びを感じる一皿でした。大ぶりのアワビに色鮮やかなイセエビと、海の幸も充実しています。

黒毛和牛の溶岩焼き

 黒毛和牛は、きれいにサシの入った厚切り肉を自分で焼くという趣向で、焼き色がついていく様子にも食欲をそそられます。さらに牛テールのビーフシチューまで登場し、お腹も心も満たされました。

温泉街にある岩崎水産加工の「日奈久ちくわ」

とらや蒲鉾店の「モッツァレラチーズちくわ揚」

 日奈久はちくわの名産地でもあります。温泉街には昔ながらのちくわ・蒲鉾店も残り、ちくわの食べ歩きも旅の楽しみの一つです。今回も地元のお店でちくわを購入。焼き色のついたものから、衣をまとった揚げちくわまで、店ごとに違った味を楽しめます。

 温泉街を歩けば、地震で傷ついた建物が今も目に入ります。一方で、変わらぬ姿を残す木造旅館や、商いを続ける地元のお店にも出会いました。

 長い歴史を持つ日奈久温泉が、震災の傷跡を乗り越え、完全な復興を遂げるには、まだ時間が必要です。それでも、こうして営業している宿に泊まり、地元のお店で買い物をすることも、私たち旅人にできる応援の一つではないでしょうか。

 秋の深まりとともに、ますます温泉が恋しくなる季節。自家源泉のお湯にゆっくりつかり、熊本の味覚を堪能し、翌日はちくわを片手に昔ながらの温泉街を散策する。そんな温かな一泊旅に、日奈久温泉を訪れてみてはいかがでしょうか。

【日奈久温泉 浜膳旅館】

住所 熊本県八代市日奈久上西町360

電話番号 0965-38-0103

【泉質】

ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉(低張性 弱アルカリ性 温泉)/泉温39.2度/pH:7.65/湧出状況:-/湧出量:-/加水:なし/加温:あり/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し

【筆者略歴】

小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は3,000以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)

 

  • 熊本県八代市の日奈久温泉

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