「特集」GIGAスクール構想の現在地と今後の課題

三井一希
山梨大学教育学部准教授
全国の学校に1人1台の情報端末が行き渡り、教室の風景は大きく変わった。だが、これは学校教育だけの話ではない。いま学ぶ子どもたちは、やがて地域を支える働き手となる。だからこそ、どのような資質・能力を身につけた児童生徒を育てるのかは、学校だけでなく社会全体で考えていかなければならない。クラウドの活用、生成AI(人工知能)の登場、次期学習指導要領の改定―学びの基盤は、いま大きな転換点にある。その現在地と課題、そして可能性について考えたい。
1人1台端末、学びの様変わりも
GIGAスクール構想とは、全国すべての小中学生に1人1台の情報端末を配備し、校内に高速大容量の通信ネットワークを一体的に整える国の政策である。GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、すべての人に革新への扉を開く、という意味が込められている。
文部科学省が2019年度に打ち出したこの構想は、当初、23年度までの整備を目指していた。しかし、新型コロナによる一斉休校をきっかけに大幅に前倒しされ、20〜21年度には、ほぼ全国で整備が完了した。整備されたのは端末だけではない。1人1アカウントとクラウド環境が併せて用意され、子どもは学校でも家庭でも、自分の学びにアクセスできるようになった。1人1台の端末を使って学ぶことは「令和の学びのスタンダード」とされている。
ただし端末は消耗品である。バッテリーは5年ほどで寿命を迎え、最初に配備された端末はすでに更新期に入っている。国は各都道府県に基金を設け、1台当たり上限5・5万円を補助する。この更新局面が「ネクストGIGA(第2期)」と呼ばれるものである。
第2期では、第1期に比べて標準仕様書のスペックが向上し、タッチペンも必置になるなど、児童生徒がより使いやすい端末を目指している。一方で、半導体価格の高騰や円安の状況を踏まえると、5・5万円の補助額内で端末を調達することが難しくなる可能性もある。その場合、自治体の持ち出しが必要になることも想定される。
端末の更新は、今後も5年程度の周期で繰り返される見込みである。第3期、第4期と続いていけば、財政負担は一時的なものではなく、継続的な課題となる。将来的には、端末の購入費用を保護者負担にする案も考えられるが、現時点では不透明である。仮に保護者負担となった場合でも、経済的に厳しい家庭には自治体による支援が欠かせない。各自治体は、そうした状況にも備えておく必要がある。
では、GIGAスクール構想以降、児童生徒の学びはどう変わっただろうか。
一例として、AIを搭載したドリルがある。子どもの習熟度に応じて出題を切り替え、苦手な子には基礎問題を、得意な子には発展問題を提示できる。これにより、教師は「どこでつまずいているか」を探す作業にかかる時間を減らし、支援が必要な子により丁寧に寄り添えるようになった。
また、「協働の学び」も様変わりした。たとえば社会科の歴史新聞づくりでは、かつては1枚の模造紙に分担して書き込んでいた。いまは、班の全員がクラウド上にある一つのファイルを同時に編集できる。資料を探す子、記事を書く子、レイアウトを整える子と役割を分け合うなかで、自然と対話が生まれる。国語で物語を読んだ感想を語り合う授業でも、クラス全員の考えが各自の端末上に集まり、挙手が苦手な子も文字で自分の考えを発信できるようになった。
整備は済んだが活用に差、表面化した課題
一方で、明るい変化ばかりではない。整備が進んだからこそ、課題も表面化してきた。
第一に、活用頻度の差である。隣の教室では端末が日常的に使われているのに、別の教室では保管庫で眠ったままということもある。教師の考え方や学校の方針によって、学校間や地域間で「できること」に差が生まれている。
第二に、いわゆる「デジタル一斉授業」の問題である。端末が入っても、教師が一方的に教える従来型の授業が、そのままデジタルに置き換わっただけというケースは少なくない。道具が新しくなっても、学びそのものが変わらなければ、その効果は限られる。
第三に、通信環境である。一斉にアクセスすると回線が混み合い、動画が止まって授業の流れが途切れてしまう学校がある。理科室ではWiーFiが使えるが、音楽室や体育館では使えないといった状況もある。自治体の財政力によって、回線整備の状況に差が生じているのも実情である。
これらは、個々の教師の努力不足だけで片付けられる問題ではない。研修のあり方、学校の運用体制、自治体の財政状況などが複雑に関わる構造的な課題である。だからこそ、現場任せにせず、社会全体で支える視点が必要になる。
生成AIは「敵」か「相棒」か
学校教育で避けて通れない話題が生成AIである。文部科学省は生成AIに関するガイドラインを公表し、全国で生成AIを活用した授業に先進的に取り組む指定校を設けるなど、学校現場での活用を後押ししている。
生成AIの可能性は大きい。教師は通知文書や試験問題の原案づくりを効率化できる。子どもは作文の添削、理解度に応じた解説、考えの整理などに活用できる。生成AIがつくった答えを写すのではなく、「思考の相棒」として使えば、学びはむしろ深まる。
一方で気をつけたいのは、生成AIを「思考の外注先」にしないことだ。本来なら自分で試行錯誤するべき過程まで任せてしまえば、伸びるはずの力を育てる機会を失ってしまう。また、生成AIの回答には誤った情報が含まれることもある。出典を確かめ、複数の資料と見比べる習慣が欠かせない。
ある小学校では「生成AIが文章を作れる時代に、なぜ私たちは文章を書くのか」を子どもたちが話し合った。別の学校では、生成AIが書いた文章を子どもたちが添削し、内容の妥当さを検討した。こうした実践こそ、AIを批判的に捉え、よりよく使う力を育てる。問われているのは「使うか、使わないか」ではない。「どう使うか」である。
次期学習指導要領が描く「好きを育む」教育
現在、2030年度からの実施が見込まれる次期学習指導要領の改定へ向けた議論が進められている。
基本的な考え方は、現行の「主体的・対話的で深い学び」をさらに具現化しつつ、多様性を包摂し、教師と子どもに「余白」を残す持続可能な形を目指すことである。そのうえで情報活用能力の抜本的な向上が掲げられている。小学校の総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を加えることや、中学校では技術・家庭科を分け、一方を「情報・技術科(仮称)」とする案も示されている。
注目したいのは、その理念である。従来のように「揃える」ことを重視するのではなく、一人一人の「好き」を育み、「得意」を伸ばす教育への転換が図られようとしている。探究的な学びを充実させ、子どもが自ら問いを立てて学ぶ姿を広げようとしている。デジタル基盤は、この理念を実現するための有力な手段となるだろう。
学校だけの話ではない地域に問われる構想力
これらの変化は、教育界だけの話ではない。学校教育を通じて育つ子どもたちは、未来の働き手であり、消費者であり、地域社会の担い手である。自治体や民間企業を含め、地域社会全体で、大きく変わろうとしている学校を支えていく必要がある。
例えば、自治体は、1人1台端末によって蓄積される学習データを生かし、データに基づく政策立案、いわゆるEBPMを進めることができる。客観的なデータをもとに課題を把握し、必要な予算を確保することはこれまで以上に重要になる。
地域企業にとっても、関わる機会が広がっている。端末の初期設定や運用支援、ヘルプデスク、コンテンツ開発など、EdTech(教育テクノロジー)の需要は全国に広がっている。地元事業者が参入できる余地は大きい。実際、自治体のICT(情報通信技術)運用を広域で支える「運営支援センター」の業務を、地域の企業が担う例も出てきている。
さらに、探究学習の取材先や出前授業の協力先として学校と関わることは、企業にとっても意味がある。自社を地域に知ってもらい、未来の人材とつながる息の長い投資になるからだ。教育のデジタル化は、地域の人材を育てるパイプラインそのものでもある。
「1人1台端末」というデジタル学習基盤のもと、これからの時代を力強く生きる子どもたちを育てる教育改革が進んでいる。この改革を学校だけに任せるのではなく、地域社会全体で支えていくことが、やがて地域の力を高めることにつながるはずである。
山梨大学教育学部准教授 三井一希(みつい・かずき) 1982年山梨県生まれ。博士(学術)。研究領域は学びのデジタル化、学習デザイン論。山梨県公立学校教諭、台北日本人学校(台湾)教諭、常葉大学教育学部専任講師などを経て、2022年より現職。文部科学省学校DX戦略アドバイザー、日本教育工学協会常任理事、東京教育研究所主任研究員、小中学校の教科書編集委員などを務める。
(Kyodo Weekly 2026年6月22日号より転載)



















