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「特集」 SNS炎上の背景 匿名性、「正義感」暴走 鋭利な言葉、本人に コロナ禍で不安増

城戸 譲
ネットメディア研究家

 SNS時代において、よく聞くようになったのが「炎上」だ。漠然と「ネット上で拡散されていること」のような印象を持っている人も少なくないが、十数年にわたりネットニュース業界に身を置く立場からすると、そこには負のイメージが寄り添っている。

 中には、一つのSNS投稿で、それまで積み上げてきたキャリアが吹き飛ぶようなケースもある。たとえ有名人でなくても、過去の炎上事例から学ぶところは多い。

「死んでくださーい」

 時に炎上は、「人気者」をその座から引きずり降ろす。タレントのフワちゃんは、お笑い芸人のやす子さんに対して、X(旧ツイッター)で行った発言が問題視され、レギュラー番組を降板し、無期限の活動休止に入ることとなった。

 発端は、やす子さんによる「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」とのX投稿だった。フワちゃんは、これを引用しながら、「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」とリポスト。フワちゃんの投稿は直後に削除されたが、やす子さんが「とっても悲しい」と反応したことから、あまりに陰湿すぎる悪口ではないかと、非難の声が相次いだ。

  やす子さんのXより(筆者提供)

 その後、フワちゃんは経緯説明を兼ねた謝罪文を掲載したが、さらに火に油を注いでしまう。それによると、投稿した当時、フワちゃんは旅行中で、SNS上での「アンチ」によるコメントについて話していたという。その時にたまたま「やす子オリンピック」の投稿を見て、「これにアンチコメントが付くなら」と、投稿画面に文章を入れ、周囲の人々に見せていたところ、誤動作で実際に投稿してしまったそうだ。つまり、やす子さんの投稿を「大喜利」のネタにしていたわけだ。

 フワちゃんは「自由奔放な無邪気キャラ」が売りだった。バラエティー番組でも、予定調和のようなものを打ち壊す役割を果たすことが多く、いわば多様性ある「令和型タレント」の代表格として位置付けられていた。それだけに、無邪気ではなく、単に「失礼な人」と感じさせてしまったのは、大きな痛手と言えるだろう。

 なにより、フワちゃんがマズかったのは、リスクを察知していなかったことではないか。あくまで「お遊び」であっても、投稿画面に入力すれば、誤投稿してしまう恐れがある。昨今、よくコンプライアンス意識が求められるが、これは法令順守そのものよりも、むしろ「順守しようとする姿勢やプロセス」が重要となる。 

 その点、フワちゃんは「仮に内輪向けであっても、同業者の〝悪口〟と認識されかねない文面を、投稿直前の状態にする」ことが、どれだけリスクが大きいか理解していたのか疑問だ。危機管理の面から考えると、十分だったとは言えないだろう。 

「男性の体臭」で大炎上

 フワちゃんと前後して、とある女性フリーアナウンサーが、「男性の体臭」を巡る発言を行い、こちらも大炎上した。「ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」とXに投稿し、シャワーや制汗剤の使用を呼びかけるものだったが、その言い回しに批判が相次いだ。

 昨今では、体臭や強い香水の香りなどで周囲に不快感を与えるスメハラ(スメルハラスメント)が社会問題化しつつある。発言趣旨としては一定程度は理解できるが、「男性」と性別を限定した点が問題だった。アナウンサーの発言には、「男女が逆だったら『女性蔑視』と言われていた」との指摘が続出。事態を重く見た所属事務所は、彼女の契約解除を発表した。SNS上では「解除はやりすぎでは」との声も見られたが、アナウンス事務所が言葉を重んじるプロフェッショナル集団である以上、敏感に反応するほかなかったのだろう。

 「炎上ウォッチャー」の視点から言えば、このX投稿は「男性の」の3文字さえなければ、炎上しなかったものと考えている。炎上を招きがちな要因の一つに、「主語を大きくしてしまう」ことがある。大きな主語でくくり、対立構図を作ることで、理解や共感を集めるテクニックはあるだろう。しかし、ことSNSにおいては、あまり得策ではない。

 開かれたウェブ空間では、ありとあらゆるバックグラウンドを持った人々が、自らの言葉を発信できる。リアルな知人や友人には話せないことでも、匿名の場なら明かしやすい。そのため、現実のコミュニケーションよりも、発言の表現や、背景にある価値観はバリエーション豊かな印象だ。

 加えて、昨今では「性の多様性」が議論されるように、安易に「男性だから」「女性だから」と性別で区分することには、懐疑的な見方も少なくない。X投稿に「女性でも体臭がキツい人はいる」「男性でも無臭の人もいる」と、ツッコむ余地を生んでしまった以上、アナウンサーには脇の甘さがあったと言えるだろう。

阿部詩「号泣」に中傷

 これまで「自分発信のSNS失言」について触れてきたが、中には言いがかりのような形で、一方的に炎上に巻き込まれるケースもある。先日のパリ五輪では、柔道女子の阿部詩(うた)選手が、52キロ級でメダルを逃し、試合直後に号泣したことがやり玉に挙げられた。

 東京五輪からの2連覇がかかっていたこともあり、失意の姿が感動を呼んだ一方で、一部SNS上では「みっともない」「3年間何やってたんだ」「相手選手への礼に欠ける」といったバッシングが相次いだ。中には選手本人のSNSに、コメントとして投稿されたものもあった。

 反応には中傷と言えるものも少なくなかったが、阿部選手はインスタグラムで「情けない姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」と投稿する。これに兄の阿部一二三(ひふみ)選手は「情けなくなんかない」とSNSで語りかけ、むしろ多くの国民は兄妹の固い絆を感じたのだった。

阿部詩選手のインスタグラムより(筆者提供)

 日本代表の選手が敗れて、視聴者が残念がること自体は分かる。しかし、それ以上に悲しい思いをしているのは、選手本人のはずだ。にもかかわらず、ネットユーザーが誹謗(ひぼう)中傷してしまう背景には、「SNSの匿名性」があると考えている。

 SNS最大の特徴は、匿名でも情報発信できることだ。どんな発言や主張をしても、「現実社会の自分」とひも付けられないのをいいことに、より過激な文面を投稿してしまうユーザーも少なくない。皮肉ではあるが、先に紹介したフワちゃんの件も、「過激なSNSユーザーあるある」をネタにしようとした結果、失敗してしまったのだろう。

韓国で「指殺人」問題に

 とはいっても、著名人に対しての攻撃的な言動は、SNS以前から存在していた。かねてから「有名税」なる言葉があり、知名度や人気に応じて、それが累進課税されていく。技術や金銭、カリスマ性などを「持っている者」と、「持たざる者」のギャップをやっかみ、攻撃をすることで留飲を下げる。幾度となく繰り返されてきた構図である。

 しかし、かつてと現代には、大きく違う点がある。それはバッシングの可視化が強まったことだ。以前であれば、どれだけワイドショーや週刊誌に書かれても、芸能事務所や関係者がブロックすることで、本人の耳に入れないことができた。

 だが、誰しもSNSアカウントを持つことが前提となっている現代では、そうはいかない。あらゆるバッシングが「意見」の体をとって、SNSユーザーから本人へ直接届く。また一般ユーザーゆえに、テレビや雑誌のようなメディアの文体ではないため、批判はより鋭く、直接的な表現になりがちだ。

 いまやSNSでの反応が、命を奪うケースも珍しくない。2020年5月、恋愛リアリティー番組に出演していた女子プロレスラーが、炎上の末に亡くなった。番組内の言動を問題視したSNSユーザーから、大きなバッシングを受けたことが背景にあるとされる。

 日本に先駆けて、韓国では「指殺人」が社会問題化していた。キーボードやスマートフォンの指1本による操作で、相手の命までも脅かす。こうした攻撃的なネットユーザーは、かつての日本では少なかった印象だが、新型コロナ禍の前後から急増したように感じられる。

コロナ禍で発言激化

 背景には「おうち時間」の増加もあると考えている。くしくも女子プロレスラーが亡くなったのは、政府や行政機関が「3密」を避けるために、ステイホームを勧奨していた時期と重なる。オンラインでの飲み会も増え、現実の代替手段としてのウェブ空間に、人々が活路を見いだしたタイミングだった。

 しかし一方で、コロナ禍で先の見えない不安が、SNS上の発言を激化させた側面もある。疑心暗鬼の中で、自らの考えを強く主張することが、最大の防御になる。そうした考えのもとで、正義感をより強くした人も多いだろう。

 いわゆる「陰謀論」に傾倒する人も増えた。「マスコミが伝えない真実が、ネット上には存在する」。メディアが伝えないのは、根拠の乏しさなど、それなりの理由がある。しかし、SNSの普及で「考えの近い人たち」とつながりやすくなった。手に入る情報が偏り、都合の悪い解釈は目に入らなくなる。そして、正義感を振りかざし、他者に攻撃的になる︱。

 ひとたび正義感が暴走してしまえば、そのターゲットとなるのは、著名人に限らない。常識的かつ、事実に基づいた発言をしていても、都合が悪いと感じる人がいれば、攻撃対象になり得る。そんな「有名税なき社会」を生きる上で大切なのは、「SNSとはそんなものだ」と割り切る能力だ。いざという時のために、SNSから離れる選択肢も持っておこう。

 SNS時代において、よく聞くようになったのが「炎上」だ。漠然と「ネット上で拡散されていること」のような印象を持っている人も少なくないが、十数年にわたりネットニュース業界に身を置く立場からすると、そこには負のイメージが寄り添っている。
 中には、一つのSNS投稿で、それまで積み上げてきたキャリアが吹き飛ぶようなケースもある。たとえ有名人でなくても、過去の炎上事例から学ぶところは多い。

ネットメディア研究家 城戸 譲​(きど・ゆずる) 1988年東京都生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ネットニュース運営企業「ジェイ・キャスト」へ入社。Jタウンネット編集長、J-CASTニュース副編集長、収益部門の部長職などを経て、2022年に独立。SNSまわりの「炎上ウォッチャー」をメインに執筆活動を行っている。

(Kyodo Weekly 2024年10月28日号より転載)

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