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「特集」 医薬品と異なるサプリメント 正しく知りたい機能性表示食品

薬学博士
梅垣 敬三

 小林製薬(大阪市)の紅麹(こうじ)を原料としたサプリメントによる健康被害は、これまでに例のない大きな問題となっている。製品が大手企業のものであり、機能性表示食品であったことから利用者が多く、被害者数も多くなっている。機能性表示食品は国の審査・許可を受けずに事業者が責任をもって機能性を表示するが、消費者にはこの制度が十分に理解されていなかったようである。この問題を受けて、機能性表示食品制度に対する批判が出ている。しかし制度上は製品情報が消費者庁に届け出されていたため、問題の把握につながったとも考えられる。市場では実態不明の「健康食品」が数多く出回っており、健康被害が起きていても発覚しにくく、製品の特定や回収は困難な状況になっている。

 小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」は報道などで広く知られたため、健康被害がこれ以上拡大する懸念は少ないであろう。しかし、被害情報が正確に理解されず、安全性に問題のない一般食品に対して風評被害が発生している。本稿では、今回の被害の問題点と機能性表示食品制度の課題について述べる。

安全性の確保が前提

 機能性表示食品が導入された際の基本的な考え方は、「安全性の確保を前提とし、消費者の誤認を招かず、消費者の自主的かつ合理的な商品選択に資すること」であった。しかし、今回の事件ではこの考え方が全く守られていなかった。

 まず、安全性が十分に確保されていなかった。通常の食品では、味や容積、嗜好(しこう)性から特定成分を過剰に摂取しにくいが、サプリメントは健康に良いと信じて毎日摂取されるため、製品中に有害物質が含まれていると、その影響が出やすくなる。そのため適正製造規範(GMP)による品質管理が重要だが、今回の製品では十分な管理がなされていなかった。

 また、機能性表示食品のガイドラインでは、重篤な健康被害が発生した際には情報が不十分でも速やかに行政に報告することが求められている。しかし、事業者は重篤な腎障害を把握してから2カ月も経過してから報告した。この報告の遅れが被害拡大の大きな要因になったことは明らかである。ちなみに、機能性表示食品は米国のダイエタリーサプリメント制度を参考に2015年に導入されたが、米国では事業者が重篤な被害情報を得た場合、15営業日以内に行政に報告することなどが義務付けられている。

 次に、問題の製品は消費者に医薬品と誤認させるものであった。事業者は製品の届け出情報で紅麹中の機能性成分を「ポリケチド」としていたが、実際には医薬品成分の「ロバスタチン」であり、「コレステロールを下げる」という機能表示をしていた。食品に医薬品成分を使用することは原則できないはずだが、守られていなかった。さらに、機能性表示食品は病気にかかっている人の利用を想定していないが、該当製品の表示や宣伝はあたかも病者に効果があるような内容であった。これらのことから、消費者が問題の製品を医薬品と誤認していたことは想像に難くない。

経済的被害と健康被害

 「健康食品」に関連する被害は、経済的被害と健康被害に分けられ、前者が9割以上を占めている。市場には科学的根拠のない製品が出回り、消費者がそれらを購入することで経済的被害を受けている。そのため行政は、悪質な製品を市場から排除する取り組みをしてきた。機能性表示食品についても、機能性の科学的根拠の妥当性に関する経済的被害への対応が中心になっていた。健康被害への配慮が十分でなかった理由は、「健康食品」による健康被害が腹痛・下痢や皮膚症状などの軽微なものが大部分で、違法に医薬品成分が含まれたダイエット製品を除けば、これまでに重篤な健康被害がほとんど発生していなかったからであろう。

 「健康食品」の中でもサプリメントは、病者が医薬品と誤認して病気の治療や症状の緩和を目的に利用している可能性が高く、それが健康被害の要因になっている。過去の健康被害事例を調べると、基礎疾患がある高齢者が、病状の治療や緩和を目的にサプリメントを利用していて、それを医療関係者には伝えていない実態がある。医薬品とは異なり、サプリメントは病者が利用することを想定して製品管理されておらず、病者を対象とした有効性や安全性のデータも取得されていない。

 病者がサプリメントを利用して体調不良を起こして医療機関を受診したとしても、その原因の特定は難しい。基礎疾患や処方薬の影響、処方薬とサプリメントの相互作用など、他の要因も関係している可能性があるからだ。

 また、消費者はサプリメントの摂取状況を正確に把握していないことが多い。消費者は有効性に偏った商品の宣伝を参照しているが、少なくともサプリメントが医薬品ではないことだけは、常に意識しておくべきである。

被害情報の取り扱い

 機能性表示食品の原材料は、これまで広く摂取されてきたものがほとんどである。そのような原材料に対して、市販前に安全性試験を実施しても、その対象者は数十人程度であり、多くの人が摂取した時の有害事象の有無を知ることは難しい。そのため、製品の安全性を確保する現実的な方法として、市販後の有害事象の情報収集と活用がある。

 食品に関する被害情報の大部分は、消費者から事業者に報告されている。医療機関で製品との関連が疑われる事例が発覚した場合でも、最初に問い合わせは事業者に行くと考えられる。健康被害と製品の関連を考える際、製品の原材料や製造管理が、最も被害に関連している可能性があるからだ。しかし、事業者が因果関係を究明することは容易ではない。顧客との経済的な補償の問題が関係するため、事業者が消費者から製品の摂取状況の詳細な聞き取りをすることは難しく、事業者自体が都合よく判断してしまう可能性があるからだ。

 一方、行政が健康被害の因果関係を調査する場合はそのような障害は少なく、重篤な健康被害の場合、全国の医療機関に類似事例の有無を照会することも可能である。だからこそ、重篤な被害については、1件でも行政に迅速に報告すべきなのである。事業者が重篤な事例を迅速に報告すれば、被害拡大を防ぐことができ、それが結果的には事業者にとっても被害補償の抑制につながる。

制度の課題と対応

 現在の機能性表示食品制度は、次の三つの課題と対応が挙げられる。

 【制度創設時の基本的な考え方の順守】
 食品の機能性は、安全性が確保されて初めて期待できるものである。現在の機能性表示食品は、機能性の有無ばかりが注目されている。製品には複数の原材料が含まれているため、機能性成分だけでなく製品全体の安全性も考慮するべきである。機能性表示食品の半数以上はサプリメントだが、サプリメントにはGMPによる品質管理が求められる。消費者がGMPの意味を理解できていないことが多いため、全てのサプリメントがGMPを順守することが重要である。また、病者が利用する可能性を想定し、医薬品と誤認させるような表示や宣伝は避けるべきである。

 【成分の摂取量と生体影響の関係】
 摂取した成分の体への影響は、その摂取量に依存している。微量であれば安全だが機能性は期待できず、過剰であれば日常的に摂取している成分でも有害になる可能性がある。この考え方はサプリメントを理解する上で欠かせない。メディアの情報は有効か無効かという両極端になりがちだが、この考え方が理解できれば、安全性を懸念する必要のない製品に対する風評被害を抑えることができる。

 【安全で効果的な製品の使い方の伝達】
 優れた製品でも、実際に利用してみなければ自分に合っているかどうか分からない。そこで重要になるのは、摂取したときの体調の変化の簡単なメモである。「健康食品」には生鮮食品や一般の加工食品もあるが、メモが必要なのはサプリメントに限ってよいだろう。メモの書き方は、「体調が良い」なら〇印、「よく分からない」なら△印、「体調が悪い」なら×印を毎日付ける。〇印が続けば自分に合っていると判断でき、△印が続く場合は漫然と摂取し続けることの是非を考えるきっかけになる。最も役立つのは、×印が出てきた時である。その場合には摂取をいったん中止し、それでも体調不良が改善しなければ医療機関を受診するのである。サプリメントの利用による肝障害や腎障害は自覚しにくいが、日々のメモがあれば、軽微な体調の変化でもサプリメントとの関係を推定できる。重篤な被害を防ぐための最善の方法は、体調に不調を感じた時に速やかに摂取を中止することである。

有識者の人材養成を

 行政は機能性表示食品が消費者に正しく理解されるように、パンフレットやインターネットを活用した情報提供をしてきたが、今回の事件からそれだけでは十分ではないことが示唆されている。サプリメントには薬と栄養の両方の知識が必要である。しかし、薬剤師や管理栄養士らにおいても、頻繁に変更されている国の保健機能食品制度でさえ正しく理解できていないケースがみられる。そこで健康食品やサプリメントに関する知識を持った人材が必要になる。それが厚労省の求めに応じて民間で養成・認定されている「保健機能食品等に係るアドバイザリースタッフ」である。このような人材を介して、消費者に個別に情報提供ができれば、機能性表示食品を含めた食品の表示制度は、より正しく理解されるようになるであろう。

薬学博士 梅垣 敬三(うめがき・けいぞう) 1958年生まれ。京都府出身。静岡薬科大学卒業。85年同大学院博士課程修了(薬学博士)。米ミシガン州立大学客員研究員、国立健康・栄養研究所情報センター長、部長などを経て2018年昭和女子大学食健康科学部教授(〜23年)。静岡県立大学客員教授、政府の食品安全委員会、消費者委員会の専門委員なども歴任し現在、吉祥寺二葉栄養調理専門職学校の講師を務める。

(Kyodo Weekly 2024年5月20日号より転載)

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