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感性と技術が文化を作る、大塚オーミ陶業の仕事の極意

 「日本の会社がまねないといけない模範的な道楽会社だと思います」。滋賀県立陶芸の森館長で陶芸家の松井利夫さんが語る「道楽会社」とは、創業50周年を迎えた大塚オーミ陶業株式会社のことだ。

フィンセント・ファン・ゴッホの「ヒマワリ」の複製
フィンセント・ファン・ゴッホの「ヒマワリ」の複製

■建材の陶板を「キャンバスの代わり」に

 1973年、大塚オーミ陶業は大塚製薬グループの住部門として創業した。高層ビルの建築ラッシュが見込まれていた当時の東京。テストプラントで制作した陶板を、神田の自社ビルや霞が関ビルのエレベーターホールに設置した。

 「特別に開発したタイルを作るテストプラントを信楽に作り、これなら事業化できるということで合弁会社を作ったのが始まり」と自身も入社する前の会社のことを教えてくれたのは、同社代表取締役社長の大杉栄嗣さんだ。

 しかし同年、オイルショックに見舞われて建築市場が急速に冷え込み、建材の需要が激減した。「これでは立ち行かない。せっかく作った大きな陶板を何かに使おうということで、奥田(※当時専務だった奥田實氏)が考え付いたのが、絵で付加価値を付けることでした」。

 アーティストに声をかけ、最初に共同制作を行ったのは、アメリカの現代美術家ロバート・ラウシェンバーグさんだった。彼は、「コンバイン」と呼ばれる、2次元の平面に日用品や写真、廃品などを貼り付け3次元化した作品を手がけていた。現代美術家の横尾忠則さん、版画家の池田満寿夫さんなど、当時の先端のアーティストともコラボレーションした。

 1998年に大塚グループの75周年記念事業として開館した大塚国際美術館では、千点余りの名画の複製陶板を手掛けた。「“世界名画を陶板で”ということで、約10年間続けました。“複製”というものに対して、いろいろな知識や経験を積ませていただいた時期です」。

 2010年には、奈良県明日香村のキトラ古墳壁画の複製を完成させ、以降、文化財の複製にも取り組んでいる。「後世に残していくものをやきものに置き換えることが、ひょっとすると大きな事業の核になるのではないかという意見が社内から出たんです。プレゼンテーションに行った先の文部科学省で生々しい資料を見せていただいて。無謀な挑戦をしたなと思います」。

大塚オーミ陶業代表取締役社長の大杉栄嗣さん
大塚オーミ陶業代表取締役社長の大杉栄嗣さん
左壁際の作品がロバート・ラウシェンバーグの「Dirt Shrine:West」
左壁際の作品がロバート・ラウシェンバーグの「Dirt Shrine:West」
右はイタリア・ポンペイの「秘儀の間」の複製
右はイタリア・ポンペイの「秘儀の間」の複製
細かいヒビや凹凸まで再現した国宝キトラ古墳壁画の複製
細かいヒビや凹凸まで再現した国宝キトラ古墳壁画の複製

■展示の中心は美術陶板より企業風土

 大塚オーミ陶業が制作した選りすぐりの19点の陶板作品が、京都文化博物館に展示されている。展覧会名は「転生する超絶技巧 大塚オーミ陶業の芸術」(11月5日まで)だ。展覧会のディレクターは、冒頭の松井利夫さんが務めた。「僕らとして展示したかったのは、美術陶板というよりも会社。裏表ひっくり返して、外側に会社を見せて、美術陶板を内側にしまっておく、そういう展覧会ができたら面白いなと」。

 やきものを製造する装置を備えた大きな建屋と、精緻なニュアンスを再現するための部屋からなる信楽工場は、さながら「ルネサンスの研究工房に匹敵する探究の場」だという。「社員は初めから技術を持っているわけじゃなくて、会社の中で技術を磨いている。磨く過程で、扱うものが美術ですから、その美術の精神性までも感覚的に捉えられている方がすごく多い。感覚までも筆先から表現できる会社って、ちょっとない」。

 大塚オーミ陶業の仕事に感動したポイントとして、松井さんは色の再現法を挙げた。「1枚のフェルメールでも画集で見たらいろんな色があって、どの色が本当の色かわからないことが多い。社長に伺ったら、すべての画集を切り抜いて現地でチェックするそうです。顔はこの画集、背景はこの画集…。それを持ち帰って日本で再現すると。そういう中で、いろんな絵画の奥に秘められた、見えない精神性とかヒューマニティーのようなものが自然と会得できたんだと思います」。

 側から見ると超絶技巧だが、大杉社長からすれば、がむしゃらに陶板と向き合ってきた結果だ。「やきもので“できること”と“できないこと”が一般的には明快なんですけど、われわれはあまりそれの境目を意識しないでやってきました。それがいつからか、“超絶技巧”ということになっているのかなと思っています」。

滋賀県立陶芸の森館長の松井利夫さん
滋賀県立陶芸の森館長の松井利夫さん
美術陶板を制作する信楽工場を再現した展示
美術陶板を制作する信楽工場を再現した展示

■感性と技術が伴わないと文化は生まれない

 作品の奥にある仕事の極意を見せる。それが、50周年にふさわしい展示趣旨となった。「陶板の美しさはそれでいいと思うんですけども、大塚オーミ陶業の技術者とか社員が、それぞれの分野で、さまざまな工夫と技を使って、もとにあったオリジナルの絵を再現しようとする技術は当然見ていただきたい。ですがそれよりも、その先にある感覚的な、仕事をする喜びのようなものをすごく感じるんです」。

 こうした大塚オーミ陶業の仕事の在り方に、松井さんは、日本の企業が目指すべきものを指摘した。「日本の科学技術立国はいいんですけれど、科学技術っていうのはモノやシステムに転化されますが、感性まではいかないですよね。感性と技術が伴わないと文化は生まれない。もっと言うと、尊敬される国にならない。そういうことを、大塚オーミ陶業は社運をかけてまで、というと変ですけど、どこかでそういう覚悟はある会社かなと思いました」。

  腹を据えて“道楽”を貫く。それを50年続けてきた。これからの大塚オーミ陶業は? 「われわれのやきものは、今でいうサステナビリティーな素材だと思うんです。数千年の時を超えて、いろいろなことを伝えていくことができる媒体なので。それに何を載せていくのか、どういうふうに活用していくのか、そういうことを、これからいろいろと追求していきたいと思っています」。

社員の言葉がつづられた展覧会図録
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