飢餓と戦争への不安 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
「高市早苗が内閣総理大臣で良いのかどうか」を問う博打(ばくち)じみた総選挙はまんまと自民党が驚愕(きょうがく)の大勝。結果、農政をめぐる環境は一夜にしてがらりと変わった。本来なら厳しく問われるはずの足かけ3年にもなる令和の米騒動や農業者の激減、農業基盤の弱体化、食料自給率の低迷など山ほどある責任問題も、激減した野党勢力の追及では聞く耳を持たないだろう。与野党勢力が拮抗(きっこう)すれば中道改革連合の「食農支払い」や国民民主党の「直接支払い制度」など農家の経営安定対策をめぐり、それこそ「国民会議」で検討、実現への「夢」もあったが、そのチャンスは儚(はかな)く消えた。
農業には門外漢の首相なのに専門紙調査では自民党への投票は過去最高。消費者層もあれだけ怒りを見せたはずの米高騰を全く問題視しなかった。こうなれば巨大化与党は、「農業構造転換集中対策」として水田の1ヘクタール以上の大区画化やスマート農業などのコスト削減戦略に迷いなく突き進む。既存予算とは別枠で2兆5千億円を投じ、水田を大型パワーショベルで改良し、ドローンが飛び交い、極力、人の手が入らない水田風景が広がることになる。
だが、この戦略には注意が必要だ。確かに労働コストは半減し、労働者も激減する。構造改革といえば一見聞こえはいいが、法人経営はともかく大多数の個人的な小規模経営は完全に押し出される。「大規模経営には配慮してもそれ以外の農家への対策は何もない」(農林水産省OB)。結果、農村に人がいなくなると言うのだ。
スマート技術も近年の激しさを増す猛暑、大雨、病虫害といった自然災害に対処できるのか。田植えを省き、種籾(もみ)をドローンでばら撒(ま)く節水型乾田直播も、「生物多様性や水田の洪水防止機能を無視している」との市民団体の抗議もある。
東京大学の鈴木宣弘特任教授は「コストダウンとスマート農業と輸出の空論では農村コミュニティーも国民への供給もあと5年が正念場だ」と現在の政府戦略を厳しく批判する。
実のところ世界の農業戦略の潮流は「持続可能性」や「小規模農業・家族農業への支援の充実」、「生態系と調和した農業(アグロエコロジー)への転換促進」などとの指摘もある。日本政府の戦略と真逆なのだ。
だから常にチェックが必要だ。野党が大きく後退した今、消費者も農業者と連携して目を光らせないといけない。昔から「飢餓と戦争は深く結びついている」とされる。突如戦火の上がる近年、日本人の食卓に飢餓が忍び寄っていないか。
小視曽四郎(おみそ・しろう) 1954年山形県出身。専門紙で主に農政取材を手掛けた。過去に生産者米価決定、牛肉・オレンジ交渉、コメ市場開放問題で、首相や農相らの同行取材を経験した。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.11からの転載】
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