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生産者主導の精米工場、NSWで稼働 独占制度廃止で新時代へ  NNAオーストラリア

開所式では約100人が大規模精米機の説明を受けた(サタケ・オーストラリア提供)

 オーストラリア・ニューサウスウェールズ(NSW)州リベリナ(Riverina)で、地域のコメ生産者が設立した「ナイスライス(Nice Rice)・バイ・オネストリー・リベリナ」が、1000万豪ドル(1豪ドル=約93円)規模の自社精米工場を設立し、このほど開所式を行った。同州で1928年から続いてきた独占輸出制度「シングルデスク」が2025年7月1日に廃止されることが背景にある。オーストラリアのコメ業界は新たな転機を迎えた。【ウェルス編集部】

開所式では約100人が大規模精米機の説明を受けた(サタケ・オーストラリア提供)

 

 同制度の廃止により、これまで輸出権限を法的に保持してきたライス・マーケティング・ボード(RMB)と、輸出業務を担ってきた大手企業サンライス(SunRice)による一極体制が見直され、今後は複数の事業者が輸出市場に参入できるようになる。

 NSW州のチャンシヴォン貿易相はシングルデスク廃止の決定について、「州内のコメ生産者にとって輸出機会が拡大し、雇用創出や賃金上昇、生産性の拡大が期待できる」と指摘している。コメのシングルデスクについては、オーストラリア農業資源経済・科学局(ABARES)も「コメの独占輸出体制に関する独立リポート」の中で廃止を提言していた。

■高品質なコメ届ける

 ナイスライスは2021年、国内のコメの98%を生産するリベリナの10人のコメ農家が「世界最高品質のコメを環境負荷を抑えながら育て、消費者に直接届ける」ことを目的に設立。同社のプロジェクトマネージャー、フォード氏によると、出資者は約30人に増加している。

 かつては、コメはサンライスから品質の高低を問わず一括で集積・混合貯蔵される構造だったが、ナイスライスは、高品質なコメのみを扱い、生産者が適切な収益を確保できる仕組みを整えている。既にナイスライスの製品は小売り大手ウールワースやIGAなどで販売されている。

ナイスライスの精米プラントの開所式には、サタケ・オセアニアの山下健二社長(右から3人目)らが参加(同社提供)

 

■最新設備で持続可能な生産体制構築へ

 新プラントの開所式には、コメ農家や地元企業、精米プラントが位置するマランビジ(Murrumbidgee)地区のマクレー町長ら約100人が参加した。

 同プラントは、ナイスライスの出資者である地元の生産者が大半を出資した。マクレー町長は「政府の補助金や支援制度に頼ることなく、地元の意志と投資で実現された事例で、他地域にも応用可能なモデルだ」と評価した。

 同プラントは、日本の食品機械大手サタケ(広島県)の現地法人、サタケ・オセアニアが納入したもの。今回稼働したのは1時間当たり7トンの籾を精米でき、短粒種、中粒種、長粒種の3種類のコメが生産されるオーストラリア特有の事情に対応した最新鋭機だ。1トン/時の精米プラントもすでに稼働していた。

 サタケ・オセアニアの上級プロジェクトエンジニア、イランコバン氏は、「限られた設置面積で、高品質な精米を競争力ある価格で実現できる」とした。

■ナイスライスの成長に更なる期待

 開所式に参加したサタケ・オセアニアの山下健二社長は、「主要株主の稲作農家の方のみならずコメの需要家などからもナイスライスの成長に対する強い期待が感じられた」と語った。

 会場には、大手寿司チェーンの最高経営責任者(CEO)の姿もあり、ナイスライスからの購入を検討しているという。

 ナイスライスのフォード氏は、「今年は良い収穫があり、品種も多彩。精米能力の拡大を通じて、さらに高品質な製品を届けていきたい」と抱負を述べた。

■輸出量は増加

 ABARESによると、23/24年度(6月期)のオーストラリア産コメの業況は、作付面積が4万3700ヘクタールと前年度比24%縮小となり、生産量は47万7000万トンで同23%減だ。NSW州農業省は、生産減少の理由を作付縮小と世界的な価格下落だとしている。

 一方で、輸出量は25万5000トン(同12%増)で、10年間の平均の19万9000トンを大きく上回った。

 オーストラリアのコメ生産は、気候や灌漑用水などの条件に大きく左右される。干ばつ時の18/19年度の生産量は6万6000トン、19/20年度は5万トンと大きく落ち込んだ。輸出量の拡大には、安定供給が課題となっている。

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 6月13日号掲載)

【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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