鍵は「まごわやさしい」 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」
そろそろ本格的な暑さが訪れる頃。冷たい麺類やアイスクリームなど、ツルっと食べられるものや冷たいものが欲しくなり始める季節を前に、伝えたい「良食」。「夏バテ」という言葉がありますが、暑い季節は「噛(か)まずに飲み込む」食事が多く、あっという間に食べてしまう食べ方も原因の一つと言えます。
流し食べ、早食い、冷たい飲み物など、体にとってあまり良いことではありません。食べ物をしっかり噛むことが健康の鍵を握っているというのは、意外に見落とされがちなポイントです。
食事の際、よく噛むことで唾液がたっぷりと分泌されます。この唾液には消化を助けるだけでなく、解毒作用があり、実は食中毒の予防にもつながるのです。暑い季節はどうしても食材が傷みやすく、食中毒のリスクが高くなる時期ですから、食べ方にも注意を払いましょう。さらに、噛むことで得られる健康効果はそれだけではありません。唾液が分泌されると、口内の浄化作用が促進され、免疫力も高まります。つまり、よく噛むことは体全体の健康を守るためにも重要な行動なのです。特に夏バテが気になる時期は、食べ物をよく噛むことで体調を整える手助けにもなります。
「まごわやさしい」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、日本の伝統的な食事バランスを表した言葉。
ま:まめ
ご:ごま
わ:わかめ
や:やさい
さ:さかな
し:しいたけ
い:いも
これらの食材を意識して取り入れることが、健康的な食事バランスを作る鍵となります。暑い季節の食事でも、この「まごわやさしい」を意識して、食感のある食材を取り入れることで、噛む機会を増やし、体への良い効果をもたらすことができます。
例えば、ツルっとしたそうめんにわかめやごまを加えたり、シャキシャキとした野菜をたっぷり加えたサラダを食べるなど、ちょっとした工夫で噛む回数が増え、体に良い影響を与えます。
口腔(こうくう)内の健康を守るためにも、口に入れたらしっかり噛むことを心がけましょう。唾液は細菌の増殖を抑える働きもあります。しっかり噛むことで、口腔から全身の健康までもが守られるというわけです。
暑さに負けず、元気に過ごすためにも、毎日の食事はただおなかを満たすものではなく、体全体の健康を守る大切な時間だと意識して食べてみてください。食べる前の食育だけでなく、口に入れた後の食育である「良食」を意識することで、暑い季節をより健康に楽しめることでしょう。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.20からの転載】