宮沢氷魚 田沼意知役を振り返る「役者として、1人の人間として、充実した時間」【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】

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-誰袖役の福原遥さんの印象はいかがでしたか。
花魁は、所作やせりふが独特なので、収録のたびに細かく指導が入るのですが、福原さんは常に瞬時に、的確に対応していくんです。とても器用な方だなと。その上、誰袖のシーンを収録する日は一日中、花魁の扮装(ふんそう)で過ごすため、かなりの負担になるはずですが、福原さんは常に笑顔を絶やさず、現場を明るく盛り上げてくださるんです。とてもチャーミングな方で、おかげで僕も楽しい気分にさせてもらいました。
-田沼意次役の渡辺謙さんと親子役での共演はいかがでしたか。
謙さんからは多くのことを学びました。収録の待ち時間には、リハーサルで感じたことを共有してくださったり、よかった点を褒めてくださったり…。その上、少しでも作品が良くなればと、“財産”ともいえるご自身が培ってきたノウハウを、惜しみなく共有してくださるんです。大先輩でありながら、近寄りがたい雰囲気がないので、僕も自然とお話ししたくなってしまって。おかげで、収録で悩んだときは、真っ先に謙さんに相談に乗っていただきました。僕にとって謙さんは、本当の父親のような存在です。
-ご一緒するシーンは少ないながら、どれも印象的だった蔦重役の横浜流星さんとの共演はいかがでしたか。
横浜さんとご一緒するのは初めてでしたが、本当に素晴らしい座長でした。蔦重という役は、コミカルな一面から感情的なときまで振り幅が大きく、演技に対する要求も非常に高いんです。そんな大変な役を、横浜さんは見事に演じられていました。そんなご苦労があるにもかかわらず、現場で横浜さんと一緒にいると、すごくリラックスできるんです。蔦重と田沼家は親密な関係だったので、横浜さんが醸し出すそういう空気感が、劇中にも生かされていた気がします。僕のクランクアップは、意知が蔦重に米の値段を下げる方法を相談に行くシーン(第26回「三人の女」)だったので、最後に横浜さんとお芝居ができ、いい形で終えられました。
-初めての大河ドラマ出演は、ご自身にとってどんな収穫がありましたか。
これまで、何度か朝ドラに出演させていただいた際に、隣のスタジオで収録している大河ドラマの様子を見て、「あの世界に入ってみたい」と、ずっと憧れていたんです。その念願がかない、とてもうれしかったです。実際に収録に入ると、毎日不安なことばかりで、それを一つ一つ乗り越えていく日々が1年間続き、気が付いたら終わっていた感じです。その中で少しずつハードルを上げていき、気が付いたらとても高いハードルを越えられるようになっていて、自分自身も成長できた実感があります。おかげで役者としてだけでなく、1人の人間として困難に立ち向かう自信がつき、とても充実した1年でした。
-宮沢さんにとって、大きな糧になる経験だったわけですね。
大河ドラマだからこそ生み出せる世界観があると思うので、その一員に加われたことを誇りに思います。素晴らしい経験をさせていただき、成長させていただいた分、この経験を糧にさらに力をつけ、またいつか大河ドラマに戻ってきて、恩返しができたら…と思っています。
(取材・文/井上健一)

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