宮沢氷魚 田沼意知役を振り返る「役者として、1人の人間として、充実した時間」【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】
NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。7月27日放送の第28回「佐野世直大明神」では、江戸城内で佐野政言(矢本悠馬)に斬られた老中・田沼意次(渡辺謙)の嫡男・田沼意知が、志半ばで非業の死を遂げた。第1回から田沼意知を好演してきた宮沢氷魚が、意知役への思いや共演者の印象などを振り返ってくれた。

(C)NHK
-第28回、意知が志半ばで、父・意次にみとられて非業の死を遂げました。意知の最期を演じたお気持ちはいかがでしたか。
佐野に襲われて深手を負い、自分で体を起こすこともできないほど弱っている中、目を覚ました意知が真っ先に心配するのが、身請けした誰袖(福原遥)のことなんですよね。意知は常に、父上や町で暮らす民など、自分より他人のことを優先するような人でした。さらに言えば、自分を襲った佐野ですら責めないんです。普通なら、怒りを表すのが当然なのに、なぜあんなことをしたのかと、佐野の境遇を理解しようとまでして。短い時間の中で、そんな意知の生きざまが見事に表現された最期だったと思います。
-無念や憎しみよりも、穏やかさが上回った感じでしょうか。
最期のシーンでは、劇中で出会った人々や見てきた景色が、走馬灯のように脳裏によみがえり、まるで意知の死を疑似体験しているようでした。そういう意味では、思ったより穏やかに最期を迎えることができました。その中でも、演出の深川(貴志)さんが拘ったのが、意知が最後の力を振り絞って意次の胸に拳をぶつける芝居です。それにより、多くを語らずとも「あとは任せました」と、意知の遺志が意次に受け継がれていく様が、しっかり表現できたと思っています。
-意知を死に追いやった佐野政言の襲撃シーンも迫真でした。佐野政言役の矢本悠馬さんとはどんなやりとりがあったのでしょうか。
殺陣については、いきなり斬りかかられ、それを必死に防ごうとする場面なので、稽古のとき、やりすぎて型にはまらないように気を付けました。その点でも矢本さんと意見が一致し、2人が同じ温度感で本番に臨むことができ、そのおかげで突然斬りかかられた意知の戸惑いや恐怖を、しっかり捉えることができたと思っています。
-衝撃的な意知の最期でしたが、脚本を読んだときのお気持ちはいかがでしたか。
誰袖との幸せな未来を予感していたところで突然亡くなるので、「ここで!?」と驚きました。もう少し、2人の幸せな時間を見ていたかったです。といっても、意知の最期をあんなに素晴らしい形で描いてくださったことはうれしく、森下(佳子/脚本家)さんにはとても感謝しています。
-ところで、恋仲だった意知と誰袖が一緒にいるシーンは、どれも雰囲気があってすてきでしたが、宮沢さんが特に印象に残っているシーンを教えてください。
意知が狂歌を書いた扇を「下手で済まぬが」と誰袖に渡すシーン(第25回「灰の雨降る日本橋」)が、とても印象に残っています。喜びと照れくささが入り混じったような、見たことのない誰袖の表情に、思わず照れた意知も目をそらしてしまって…。若い2人ならではの恋愛の雰囲気がよく出ていました。同時に、身請け話が進まない中、蝦夷地の上知を巡って彼女を危険な立場に置いていることを申し訳なく思う意知の弱さや未熟さも表現されていて。あの場面では、ほかの誰にも見せない意知の弱い部分を、誰袖には自然と見せられた気がします。

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