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「今回は、極上のエンターテインメントを作ったつもりです」 『悪は存在しない』濱口竜介監督【インタビュー】

-『ドライブ・マイ・カー』も、『偶然と想像』(21)の「魔法(よりもっと不確か)」もそうでしたが、今回も車の中での会話のシーンが多かったですね。何かこだわりがあるのでしょうか。

 基本的には、映画を作り始めたとき、会話の場面を描くことからしか発想できなかったんです。人の動きを演出するより、会話によって人間関係が変わって発展させるのがどちらかといえば得意でした。でも会話の場面は、例えば喫茶店でずっとしゃべっていたら映画としては面白くないので、会話の場面を乗り物の中でやることはずっとやっています。最近になって車が出てくるのは、ある程度、予算が掛けられるようになったから。若い頃は電車でゲリラ撮影もしましたが、ある程度スタッフがそろって、安全を確保することができるような体制が組めるようになってくると、車での撮影も可能になるし、その車の中での人間関係というか、公共交通機関で話すことと、プライベートの空間としての車で話すことは結構違ってきます。その空間にも影響されて、今までよりもパーソナルな会話が、乗り物の中でやりやすくなったというのはあると思います。

-ラストシーンはいろいろな解釈ができると思いますが、ああいう形にしたのは、観客に委ねるような意図があったのでしょうか。

 ある程度登場人物をちゃんと作っていくと、この映画に限らず、その人物の人生の途中で終わらざるを得ません。ある問題が一瞬は解決したとしても、人生は続いていくものですよね。だから、観客が「この続きがあるんだから、もっと見せて」と思うぐらいのものが望ましいと思っています。登場人物の人生や彼らの行動原理はちゃんと作ったつもりなので、途中で終わったとしても、観客は想像してくれるのではないかという期待も込めて、あの終わり方にしています。途中で終わるというのは、基本的には全然悪いことではないと思っています。むしろ、途中で終わったり、どこか不条理なものを残したりというのが、最近の映画にはなさ過ぎるのではないかと。自分が映画を見始めた頃は、そんな映画が多かった印象がありますし、本来もっとそういうふうに終わる映画を見たいと自分自身が思っています。それで特に今回は、思い切ってあるポイントで終わってみました。それで観客がどういうふうに反応するんだろうということも楽しみにはしています。

-本作は新しいタイプの映画でしたが、意識したり、参考にした映画はありましたか。

 たくさんあります。自分1人で何かを思いつくということはないです。基本的には、今まで見てきた映画や現実から、少しずつ要素を頂きながら作っているのが実際です。今回はビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』(75)から直接的な影響を受けています。

-最後に、観客に向けて一言お願いします。

 今回は、石橋英子さんの音楽に導かれて作って、映像も音響も、スタッフも映っているキャストも本当に素晴らしい仕事をしているので、エンターテインメントを楽しむつもりで、ぜひ見に来てださい。この映画に限らず、常に観客には委ねられているとは思っていますが、今回は極上のエンターテインメントを作ったつもりです。ぜひ映画館で体感していただけるとありがたいなと思います。特に自分自身が楽しい、面白いと思って作っていますし、ハラハラドキドキとできる映画だと思っているので、ぜひ、そういうふうに見ていただきたいなと思います。

(取材・文/田中雄二)

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