失われていく書店という風景「本を文化の真ん中」に置くために必要なこと 隆祥館書店社長 二村知子
街中(まちなか)にある本屋の「閉店のお知らせ」の張り紙を見る機会がここ数年、増えている。背景には、スマートフォンの普及、ネット通販の拡大、娯楽の多様化、本の流通問題、後継者不足など、複合的なものがある。
今年で創業77年を迎え、大阪市内で約13坪(約40平方メートル)の「隆祥館(りゅうしょうかん)書店」を経営する二村知子さんは「本は文化であり、民主主義の基盤を支えるものです。欧州社会のように、『文化の真ん中に本が置かれている』、そのような理念を実現させる、業界の改善や政府の取り組みを要望したい」と主張する。
二村さんに、地域の書店が置かれている現状とともに、どのような打開策が求められるのかを解説してもらった。

悪循環が進む
隆祥館書店は、父が創業してから今年で77年を迎えます。私が書店を手伝い始めた約30年前、日本全国には約2万6千店の書店が存在していました。
現在、日本図書普及(株)の調査によりますと、図書カードを扱う機器を設置し、実体のある店舗として営業している書店は6500店を下回っています。この約30年の間に、地域の書店が4分の1以下にまで減少してしまいました。
現在残っている書店の約9割については、知名度の高い大型全国チェーンか、学校、図書館向けといった、地方自治体への販売の取り扱い経路(公共販路)を持つ書店となっているといわれます。また、雑誌を置かず新刊と古本を組み合わせたセレクトショップや、カフェを併設した書店が新しい潮流として注目されています。
一方で、取次(とりつぎ)を通して本を仕入れ、地域の読者と日常的に向き合ってきた「昔ながらの街の本屋」は、次々と姿を消しており、中小規模の経営が多く、生き残りは容易ではありません。
出版科学研究所によると、紙の書籍と雑誌の推定の販売金額は、ピークだった1996年の2兆6564億円から減少が続いています。
このような右肩下がりの状況の中、「リアル書店の閉店」→「ネット通販で購入」→「リアル書店の売上高減少」→「ネット通販で購入」…という、悪循環が進んでいます。
流通の遅滞が奪う書店の信頼
小さな書店が苦境に立たされている最大の要因の一つが、本の流通の問題です。特に深刻なのが、お客さまから受けた注文品の到着の遅さです。現在、出版社が、取次事業を手がけるトーハン、日本出版販売(日販)に本を搬入してから、私どもの書店に届くまで、1週間~10日かかることが珍しくありません。本を買っていただく、お客さまとの信頼関係で成り立つ小さな書店にとって、「早く届ける」ことは生命線です。
しかし、ご存じのように、米Amazon(アマゾン)など多くのインターネット小売業者のシステム(有料)では、消費者がスマートフォンで〝ポチり〟と操作すれば、翌日には自宅などに注文した本が配送されます。注文から翌日配送が当たり前になっている今、お客さまに10日間も待たせる状況では、どうしても小さな書店への信頼が揺らいでしまうと言わざるを得ません。
以前、私はドイツの出版業界を視察しました。ドイツでは、その日の午後6時までに書店が注文を受けた本は、翌朝の開店前に届く〝即納態勢〟が整っています。本の取次業者は無料で、かつ迅速に届けることを使命としており、その結果、書店がアマゾンよりも早く本をお客さまに提供できる環境が成り立っていました。
これに対し、日本では至急便として「ブックライナー」が用意されていますが、ドイツと違って経費がかかるのです。「ブックライナー」を活用した場合、書店側の取り分からさらに7%の手数料が引かれます。利益率が2割を切る、多くの小さな書店にとって、この手数料は実質的な値上げであり、経営上の死活問題といえます。
「ランク配本」という 構造的な不公平
日本独自の流通問題として、聞き慣れない言葉かもしれませんが「ランク配本」の存在があります。書店の規模によって、取次業者から配本の数が決まるという仕組みです。大型店には何百冊も届けられる一方、小さな書店には1冊も配本されないことがあります。
隆祥館書店は約13坪の店ですが、著者イベントを開催し、その著者の本を全国1位で販売した実績がいくつもあります。それにもかかわらず、その著者の次作がまったく配本されなかったこともありました。書店ごとの「単品での実績」が反映されず、店舗の規模だけで、配本の数が判断されるという、この仕組みは、不合理であると強く感じています。
さらに、書店経営を支える重要な柱である、学校や図書館への販路についても、深刻な問題があります。現在、各地の書店商業組合の理事長の多くは、教科書販売会社の経営者であることが多く、学校などへの販路を持たない書店は極めて少数派となっています。
大阪市では、出版社が定めた価格で本を販売することを認める制度である「再販売価格維持制度(再販制度)」があるにもかかわらず、学校の採用品の分野によっては、値下げを前提とした見積書を提出させるケースも起きています。その値引き率にしても、大手チェーン書店や、既得権益のある(学校や図書館への販路を持つ)中小書店などは大きく、私どものような街の書店はとうてい太刀打ちができません。これでは、学校や図書館への販売に際し、同じ土俵に立つことすらできません。
対照的に、東京都目黒区では行政の主導によって、地域の書店が公平に学校や図書館へ納入できる仕組みが整えられています。福島県の白河市立図書館でも、地元の書店からの公平な納入が実現しています。ここ大阪市でも、せめて学校や図書館だけでも地域書店が参加できる制度が必要だと強く訴えたいです。

芥川賞作家の目取真俊さん(壇上の右奥)らを招いたトークイベント
再販制度は文化を支える土台
先ほども触れましたが、再販制度は、出版社が定めた価格で、書店が本を販売することを認める制度です。1953年に独占禁止法の特例として導入されました。本は知識と文化の基盤であり、一般の商品とは異なる特性を持っていると理解されているからです。
ですので、過度な価格競争は、良質だが売れにくい本や、専門書を書籍市場から排除し、出版の多様性を損なってしまいます。また、小さな書店が街から消えれば、地域による文化格差も拡大することにつながります。
実際、再販制度を撤廃したイギリスでは、激しい値引き競争の結果、小規模書店が大量に閉店しました。一方、フランスでは定価を守る法律を通じ、文化大臣自らが「個人書店は文化への不可欠な接点である」と述べています。
直木賞作家の今村翔吾さんは2023年、JR佐賀駅構内に「佐賀之書店」を開店させたほか、大阪府箕面市、東京・神田でも本屋を展開されています。そんな今村さんは、「再販制度をなくしたら街の本屋は半減する」と指摘しています。出版事業などを幅広く手がける角川春樹さんも、「全国どこでも同じ価格で本を購入できる仕組みは、日本の出版文化にとって不可欠だ」と明言されています。
大型店よりも高い仕入原価で運営している小さな書店が、定価まで自由競争にさらされれば、生き残る道はありません。再販制度は、私たちに残された最後の命綱であり、この維持は不可欠であると考えます。
本屋が担う民主主義の基盤
隆祥館書店では2011年から、「伝えなければならない本」のイベントを続けています。原発、環境問題、事件や事故の当事者の声など、時間をかけて検証された情報を、本を通じて読者と共有する場です。
デマやフェイクニュースがあふれる時代において、編集とファクトチェックを経た書籍は、民主主義を支える重要なメディアです。本屋が街から消え、読書の機会が減ることは、社会全体が判断力を失うことにつながりかねません。
これから必要なことは、出版社・取次・書店が立場を超えて連携し、行政を巻き込みながら「本は文化である」という共通認識を社会に根付かせることです。
ドイツやフランスのように、本を文化として守る覚悟が、日本にも求められています。経済産業省も2024年、全国で減少する書店の振興に、専門的に取り組む省内横断のプロジェクトチームを設置し、当時の斎藤健経産相が、書店経営者らと車座対話などを行い、少しずつ動き始めています。
約13坪の小さな書店である隆祥館書店は、これからも地域に根ざし、「本を文化の真ん中」に置く営みを続けていきたいと考えています。本屋がそこにあるという当たり前を守ることは、社会の未来を守ることでもあります。
そのために、再販制度を守り、流通と制度のゆがみを正す努力を続けていきたいと思います。
なお、隆祥館書店の歴史については『13坪の本屋の奇跡 闘い、そしてつながる隆祥館書店の70年』(木村元彦(ゆきひこ)、2019年、ころから株式会社)があり、興味のある方はご一読願います。

隆祥館書店の外観
ふたむら・ともこ 1960年大阪府生まれ。井村雅代コーチ(当時)に師事し、シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)を始め、現役時代はチーム競技で2年連続日本第1位、日本代表として2年連続世界第3位に。現役引退後、隆祥館書店に入社。2011年から「作家と読者の集い」と称したト-クイベントを開催、2016年からは「ママと赤ちゃんのための集い場」を毎月開き、19年4月からは、宝上真弓先生と子育てに悩む親御さんのために絵本選書のサ-ビス、20年6月より、お客さまからのリクエストを受け1万円選書のサービスを始めた
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.6 からの転載】
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