自動車リサイクル法施行20年(上) 国内資源の循環推進へ 「制度の転換点」と経済産業省
「国内資源循環の重要性が高まる中、自動車リサイクル制度も新たな課題への対応が求められている」
2026年8月、東京・霞が関の経済産業省と環境省で、日本の自動車リサイクル制度の今後の方向性を示す重要な報告書がまとめられました。タイトルは「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書」。
2005年1月に自動車リサイクル法(使用済自動車の再資源化等に関する法律)が本格施行されてから、約20年が経過。日本全国から不法投棄車両が減り、車両の破砕くずであるシュレッダーダスト(ASR)の再資源化率が97%に達するなど、日本の自動車リサイクルの取り組みは世界的にも評価されています。
しかし今、その足元で大きな環境変化と構造的危機が起きています。従来から重視されてきた適正処理の確保に加え、使用済み自動車(ELV=End-of-Life Vehicles)を資源として有効活用することの重要性が高まっています。
日本が誇る高品質の金属やプラスチックなどの資源が、国内で循環せずに国外へ流出し続けているという現実。報告書をまとめた背景や狙いについて、経済産業省自動車課の井上英輝係長に話を聞きました。

経済産業省自動車課の井上英輝係長
報告書が示す構造的変化
昨年9月より計8回に及ぶワーキンググループでの議論やパブリックコメントを経て取りまとめられた報告書では、自動車リサイクル制度の現状評価と今後の基本的方向性、具体的な方策が示されました。
2021年の報告書から約5年。「遅くとも5年後をめどに評価・検討を行うことが適当」とされた前回報告書の提言を受け、今回の報告書は、いわば“制度の定期点検”と位置付けられるものです。
今回の報告書では、「法全体としては引き続き概ね順調に機能している」と評価された一方で、近年顕在化している使用済み自動車の海外流出や不適正な解体・処理への対応に加え、今後排出量の増加が見込まれる使用済み車載用蓄電池(LiB)の適切な処理体制の構築に向けた検討など、新たな課題への対応が求められています。
このように、今回の報告書からは自動車リサイクル制度を取り巻く課題が、従来の制度運用上の課題にとどまらず、海外流出やLiBなどの新たな領域へと広がり、検討すべき論点がより拡大・高度化していることが読み取れます。
主要テーマは国内資源循環促進
「自動車リサイクル制度の運用が始まって20年以上がたちました。今回の評価・検討を通じて、制度が始まった当時と比べて『最も大きく変わった』と感じているのは、従来の主な目的であった『適正処理の確保』を基盤としながらも『国内資源循環の推進』というテーマが大きく関連性を増している点です」。井上氏はそう切り出しました。
制度が始まった約20年前、社会が直面していた大きな課題は「不法投棄」や「不適正保管」、そしてASRの処分場不足でした。行政や関係事業者は、自動車リサイクル促進センター(JARC)が運営する電子マニフェストシステムの構築や適切な役割分担を通じて、使用済み自動車を確実に適正処理へつなげるルートの確保に取り組んできました。
井上氏は、「法律の施行当時は、特に不法投棄や不適正保管、ASR処分先の確保など、適正処理に導くための諸課題がありました。関係業者が役割分担を設定し、電子マニフェストシステムを構築するなどして、使用済み自動車を適正処理させるためのルート確保に努めてきました。その結果、不法投棄車両などは減少し、一定の成果を上げてきました。一方で、20年が経過した現在、国内の解体・破砕業者のもとに適正に処理される使用済み自動車の台数や割合が非常に少なくなっていることが大きな課題となっています」と解説します。
20年前は「使用済み自動車をいかに適正に処理するか」がテーマだったのに対し、現在は「自動車に含まれる貴重な資源をいかに国内で確保し、再生材として次の自動車や他産業へ循環させていくか」という、より資源循環の視点が重要になっています。自動車リサイクル制度を取り巻く課題は、適正処理の確保を基盤としながら、国内資源循環の促進へと、その重心を広げつつあるといえるでしょう。
使用済み自動車256万台に減少
現在、日本の自動車解体現場やリサイクル市場は、かつてない“素材(資源)の飢餓”に直面しています。
その背景には、円安などを背景とした中古車輸出の急増、国内新車販売台数の低迷、オートオークション市場における競争の活発化などがあります。2024年度末の国内の自動車保有台数自体は約7859万台と増加傾向にあるものの、1台の車に長く乗り続けるユーザーが増え、同年度の自動車の平均使用年数は過去最長となる「17年」に達しました。
さらに、状態良く整備された日本の中古車は海外市場でも人気が高く、2024年度の中古車輸出台数は約184万台に達しています。街を走る車が長持ちし、さらに中古車として海外へ輸出されることで、国内で解体・破砕処理される使用済み自動車(ELV)の発生台数は、法施行後の長期的な傾向として減少しており、2024年度には約256万台にまで落ち込んでいます。
井上氏は、この現状について「使用済み自動車が国内に残らないという問題は、あらゆる課題のベースになっています。国内に残る母体(使用済み自動車)がなければ、そこから再生プラスチックを採り出して『Car to Car』で循環させることも難しいし、今後増加が見込まれる車載用リチウムイオン電池についても、国内での回収・再資源化を進めるためには、その母体となる使用済み自動車を国内で適切に確保することが重要です」と話します。

使用済自動車の発生台数推移=経済産業省・環境省審議会資料から抜粋
廃車ガラ輸出も懸念
さらに注目されるのが、国内で解体・リサイクルされる使用済み自動車の一部が、「廃車ガラ」として海外へ輸出されていることです。
本来、国内で解体・処理される場合には、国内の解体業者等によってフロン類やエアバッグ類などが回収・処理され、その後、鉄・非鉄金属類やプラスチック類などが選別・回収されます。一方、使用済み自動車が「廃車ガラ」として輸出される場合には、海外で鉄鋼原料等として利用されるものの、国内で循環利用される機会は相対的に減少します。その輸出台数は2024年度に過去最多となる21万台に達しました。
日本の道路を走る自動車には、高度な製鉄・素材技術によって生産された高品質な鋼材やアルミニウム、合成樹脂など、さまざまな資源が使われています。こうした資源を国内で回収・再生し、再び自動車や他の製品に利用することは、資源の多くを海外から輸入する日本にとって、資源の安定確保や循環利用の観点から重要な課題となっています。
欧州では、新型車に使用するプラスチックの最大25%を再生材にし、そのうち20%を廃車由来とすることを義務付ける「ELV規則」の導入が進められています。こうした欧州の動向を踏まえると、欧州市場向けに車両を販売する日本の自動車メーカーにとって、こうした環境要件への対応が必要となるため、日本国内において廃車由来の高品質な再生材を安定的に確保し、循環利用できる環境を整えていくことが重要となります。
平均使用年数は
平均使用年数17年という数値は、一見すると「モノを大切にする社会」の表れのように見えますが、「車齢が延びていることについては、想定外ということはなく、資源循環の観点からみても望ましい姿であるとも思っています」と井上氏は話します。
「自動車リサイクル法の第3条にも、メーカーが果たすべき責務として、設計段階から長期間使用されるような設計に努めなければならないとされています。早く廃車にすべきという視点が法律にあるわけではなく、中古車リユースから部品・素材リサイクルまで包括的に捉える必要があります。そういう意味で、長く使っていただけることは望ましい方向性です」
では、なぜ日本のユーザーは1台の車をこれほど長く乗るようになったのでしょうか。
「まず、自動車自体の性能が向上し、長期使用しても劣化しにくくなっているという点が挙げられます。また日本では『車がないと生活できない』地方などを中心に、車齢が長くなっても使っていただけるユーザーが根強くいます。そうしたさまざまな要因によって自動車の長寿命化が進んでいるとみています」と井上氏は説明します。

自動車の平均使用年数の推移=経済産業省・環境省審議会資料から抜粋
ただ、問題はその先にあります。車両が国内で使用され、寿命を迎えた段階で、本来であれば解体・再資源化に回ると考えられる車両までが、オークションなどを経て海外へ流出してしまう構造です。
井上氏は「中古車輸出やリユース市場そのものを否定したり、規制したりする考えはありませんし、現行の法律によってそこを規制することはできません。経済産業省としても、中古車輸出は重要な市場であり、その健全な発展を図っていくことは重要であると考えます。しかし、本来であれば中古車市場に出回るべきではない、使用済み自動車に相当するとみられる車両までがオークションなどに流れ、そのまま海外へ出てしまっている現状には、危機意識を持っています」と警戒感を示します。
この問題に対し、報告書ではオークション業界との連携や、出品基準の例示追加などの検討が盛り込まれました。また、関連して2011年に策定された「使用済自動車判別ガイドライン」を2026年度から点検・見直しを進める方針が示されています。
「オークション業界の方々の事業を促進しながらも、資源循環との両立を図れるスキームがないか。業界団体とも一緒に知恵を絞りながら実効性のある検討を進めています」(井上氏)
ASRリサイクル率97%
自動車リサイクル制度におけるASRリサイクル率97%は世界でもトップクラスの水準にあります。一方で、その中身を技術的な観点からみると、回収された廃車から発生するASRの約7割が熱回収に依存しています。
熱回収は、廃棄物からエネルギーを回収する有効な手段である一方、プラスチックを燃料として利用することでCO2が排出されるという側面もあります。今後は、単にエネルギーとして回収するだけでなく、使用済み自動車に含まれるプラスチックを再び素材として循環させる「マテリアルリサイクル」への転換を進めていくことが重要になります。
資源回収インセンティブ制度が本格稼働
自動車メーカーが新車の製造に用いる再生樹脂(プラスチック)には、安全性や品質を確保するため、新品の樹脂(バージン材)と同等の性能が求められます。解体現場でバンパーや内装部品などの樹脂パーツを手作業で取り外し、ポリプロピレン(PP)やABS樹脂など、素材の種類ごとに分別・洗浄するには相当の人件費と労力がかかります。
しかし、手間をかけて分別・回収しても、再生材の回収・処理にかかるコストがバージン材の価格を上回れば、経済的に成り立ちにくくなります。そのため「手間をかけて手作業で取り外すよりも、そのまま破砕機に投入し、ASR後に熱回収(サーマルリサイクル)やマテリアルリサイクルした方が経済的に合理的である」という判断が生じやすいという見方もあります。
ASR再資源化施設の受入量の増加やASR発生前段階での資源回収を促進するため、経済産業省と環境省が創設したのが2026年4月から本格的に始まった「資源回収インセンティブ制度」です。
この制度は、解体事業者等がASRが発生する前の段階でプラスチックやガラスなどを分別・回収した場合に、リサイクル料金を原資として、経済的なインセンティブを事業者に還元する仕組みです。
これにより、これまでコスト要因となっていた資源の回収・分別に経済的なメリットを持たせ、解体業者による資源回収を促すことが期待されています。また、原材料メーカー・自動車メーカー等にとっても再生材の安定的な確保につながる可能性があります。
自動車由来の資源を回収・循環させるため、これまでコストとして捉えられてきた「資源回収」にASR発生量削減に応じた経済的な価値を付与する新たな仕組みが動き始めています。
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