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社会的弱者の避暑地になった 南の仁川空港、北の地下鉄 【平井久志✕リアルワールド】

 韓国の仁川空港は、今年上半期の国際線旅行客が3839万人を記録し、世界1位になった。また、昨年の世界空港ランキングで4位になるなど、乗り継ぎの利便性、清潔さ、充実した施設が高く評価されている世界トップレベルの空港だ。

 今年は韓国も酷暑に見舞われ、8月2日には韓国南東部の慶尚南道梁山市で42・5度を記録した。これは1904年の気象観測開始以来の最高記録だった。

 最近、高齢者が仁川空港に「避暑」のために訪れるケースが増えているという。韓国では、65歳以上ならば、地下鉄や空港鉄道を無料で利用できる「敬老パス」がもらえる。空港は24時間冷房が効いている。韓国紙『朝鮮日報』(8月10日付)は「地下鉄は無料で、涼しくて、いろいろと楽しめる空港まで来ることができる。最近は毎日来ている」という73歳の高齢者の話を紹介した。高齢者たちは各自、枕やシート、うちわ、弁当を持参し、集まって会話を楽しんでいる。囲碁盤や将棋盤を持ち込んでいる人もいる。

仁川国際空港内の様子

 夜になると高齢者たちは姿を消すが、代わりに存在感を示すのがホームレスだ。韓国の『中央日報』(8月7日付)は、仁川空港には、多いときには約200人のホームレスがいると報じた。空港側はホームレスの所持品に退去命令書を張り付け、退去を求めたが、騒ぎを起こしたり、犯罪行為などをしたりしない限り、これといった対策がないのが実情だ。

 こうした状況は出入国ゲートの外側の出来事だが、内側でも長期間空港内で暮らしている人たちがいる。韓国メディアによると、仁川空港の出国待機所には、空港に到着し、難民申請をし、結果が出るまで長期間空港で暮らしている数人から10人ほどの「空港難民」がいる。出国待機所には洗濯施設やシャワー室がある。人道的な措置として機内食が提供される。

 韓国の国家人権委員会は8月11日、出国待機所で1年以上生活している西アフリカ、マリ出身の10歳の児童について、教育を受ける権利と発達する権利を保障するよう法務部へ勧告した。

 この児童は父親とともに難民申請したが、法務部は本国で迫害を受けた事実がなく、経済的な理由での難民申請と判断し、難民審査への回付を認めなかった。父親はこれを不服とし、行政裁判を起こし、一審は敗訴し、控訴審が進行中だ。

 国家人権委員会は2人を本国へ返しても迫害を受ける可能性は低いが、自らの責任でないのに教育を受けられないなどの不利益をこの児童が甘受しなければならないのはおかしいとし、勧告した。

 北朝鮮でも今年は猛暑だ。自由アジア放送(RFA)は、平壌で、高齢者たちが猛暑に耐えかね、地下鉄へ行く光景がみられると報じた。

 平壌の地下鉄駅は電力不足で冷房が効いているわけではない。だが、有事の際の防空壕も兼ねているといわれる地下鉄は地下100メートル以上の深さにあるため、比較的涼しい。

 このため高齢者が地下鉄駅で暑さをしのいだり、地下鉄の始点から終点まで車内で過ごしたりする「地下鉄避暑」の光景がみられるというのだ。 

 南も北も酷暑の中で社会的弱者が涼しさを求め、社会的に開かれた場所に集まる光景に変わりはないようだ。


ひらい・ひさし 共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.34からの転載】

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