都会の高校生が北海道でフィールドワーク、視野広げる体験 東京農大の「オホーツク学」、新たな「高大連携」の取り組み
北海道・オホーツク。オホーツク海の流氷や世界遺産・知床の自然など北海道の中でも独特の特徴を持つ地域だ。北海道東北部の観光拠点となる女満別空港から車で約20分のところに東京農業大学オホーツクキャンパス(網走市)がある。ここに毎夏、関東と関西の高校生らがやってくる。大学と高校が協力して生徒の学習を支援する高大連携教育プログラム「オホーツク学・フィールドワーク」だ。
2026年度の「オホーツク学」が7月29日~8月1日に実施され、関東から3校、関西から3校の138人(中学生、引率教員含む)が参加。その4日間の日程に同行した。

1989年に設立されたオホーツクキャンパス。東京・世田谷キャンパスと違った環境で学生生活を送ることができる
▽特別な体験から生まれる視点
最高気温36度の東京から飛行機で降り立った網走市は、この日の最高が27度。秋の風が感じられる快適さだった。4年目となる今回の「オホーツク学」には関東からは湘南白百合学園中学・高校、カリタス女子中学高校、逗子開成中学・高校(いずれも神奈川県)、関西からは大阪高校、羽衣学園中学高校、精華高校(いずれも大阪府)の6校が参加した。

女満別空港からバスでオホーツクキャンパスに向かう。3泊4日のプログラムなので大荷物だ
全国の大学で進められている「高大連携」の中で、東京農大の「オホーツク学」は独特だ。約34万平方メートルの広さがあるオホーツクキャンパスは、生物産業学部の4学科(自然資源経営学科、食香粧化学科、海洋水産学科、北方圏農学科)で周辺地域をフィールドに研究する。
「高大連携」の取り組みとして、オホーツクで高校生らが学ぶフィールドワークの意義について、企画全般を担った下井岳・北方圏農学科教授は「オホーツクではここにしかない素材がある。感動でもいい、課題を見つけたでもいい。そこで何を感じたかが大事。帰ったときに、これまで地元で感じなかった視点が生まれる。そのきっかけにしてほしい」と強調した。

初日は観光施設「オホーツク流氷館」でオホーツクの自然を学ぶ。マイナス15度の流氷体感テラスでは本物の流氷を100トン展示。タオルも凍っている
▽キャンパスの森で高校生ネイチャーガイド
前年の「オホーツク学」は、食香粧化学科がフィールドワークのプログラムを担当し、テーマは「美」だったという。今回は自然資源経営学科が担当、テーマは「ヒトと自然をつなぐ~今、私たちができること~」。プログラムの目玉は「ネイチャーガイド体験」だ。

自然資源経営学科の宇仁義和教授が「ネイチャーガイドという仕事の魅力と価値」と題して講義。「北海道のアウトドアフィールドが世界から注目されている」
最初にネイチャーガイドについて、宇仁義和(うに・よしかず)教授が講義。「ネイチャーガイドがいると鯨やイルカを見ることができるし、流氷の氷の上を歩くこともできる。ガイドは人と自然をつなぐ仕事だ」と説明。その上で「自然に対してお金を出してもいいという価値を生むことができる」と経済効果もあるとした。
生徒たちは少人数グループを作り、キャンパス内の広大な森を歩いてネイチャーガイドを体験。区間を決めて順番にガイド役になり、樹木や植物の解説、見つけた虫などについて案内した。事前に大学から送られた動画を見て予習したというが、アドリブを連発していた生徒や、スマホでメモを見ながら丁寧に説明した生徒もいた、羽衣学園高校1年、万代直毅(まんだい・なおき)さんは「事前に見た映像が冬だったので、調べたものと違ったこともあって思ったより難しかった」と“初ネイチャーガイド体験”を語った。

農大生(左)ファシリテート(進行支援)の引率でガイド体験する参加高校生。バッタを見つけ「地元にはいないバッタだ」と珍しそうに話していた

キャンパス内の森に約5キロの自然散策路があり、樹木など植物の中、鳥や昆虫に至る所で遭遇する
▽やり直しリベンジガイドも
翌日は初めてのネイチャーガイドでうまくできなかった点などを話し合い、再体験する「リベンジガイド」も実施、観光客役として現役大学生が加わった。あるグループでは、5人が代わる代わる説明。自然散策路で45分間、ガイド高校生から説明を受けた海洋水産学科4年の女子学生は「いろんな生き物の情報を得られたのでおもしろかった。植物などは季節ごとに違うので内容を変えるとリピーターにも対応できるのでは」とアドバイスしていた。

初日のガイド体験について、農大生のアドバイスを受け改善点を話し合う高校生。リベンジガイドに臨んだ
リベンジガイドの作戦会議で「とにかく無言の時間をなくそう」と話したという万代さんのグループは、説明スポットに来るごとに交代で植物情報を解説した。カリタス女子高校1年の比留川颯姫(ひるかわ・さつき)さんは「人に説明する難しさを感じたけど、(ネイチャーガイドに)興味がわいた」と話した。大阪高校1年の岡野楓香(おかの・ふうか)さんは「前日に同じところを歩いたのでどこに何があるか分かっていたからやりやすかった」とほっとした様子だった。

リベンジガイド終了後の報告会。観光客のターゲットを決めたガイドの特徴も披露した
▽網走湖のカヌーも学び
このほか、生徒たちはキャンパスを離れ、近くの網走湖に移動。シジミ採りを経験したり、カヌーに乗ったりして楽しんだ。下井教授によると「湖畔から見る自然と、カヌーで湖上から見る自然は違う。ネイチャーガイドとして視点を増やせる」とカヌー体験も学びの一環だと説明した。

網走湖は北海道を代表するシジミの産地。ヤマトシジミを採る体験で湖の自然を学ぶ

ほとんどの高校生はカヌー初体験。こぐのに必死な様子だったが、湖上からの風景に何かを感じたか

湖畔散策では地元のガイドによる説明で、歩くだけでは見落としがちな植物などを学んだ
オホーツクで学べる高大連携は、高校生たちにとって魅力のようだ。逗子開成中学・高校は80人が参加を希望し、25人が選抜されたという。昨年も引率教員として参加した同校の秦健二さんは「昨年参加した生徒からは、大学は偏差値とか自分が住んでいる場所とかではなく、何を学ぶのかで決めたいと話していた」と話し、「(オホーツク学で)高校生として確実に視野や選択肢が広がるのではないか」と今回の参加にも期待を込めた。

オホーツクキャンパスの学科紹介コーナーでは研究内容紹介より、エゾシカの剝製が人気を集めていた

現役大学生の案内でキャンパスツアーも実施。休憩コーナーにツチクジラの骨格が展示してあるのはオホーツクキャンパスらしさだ
プログラムで各学科の教授や現役学生による、研究内容の説明も行われた。最初にオホーツクキャンパスの千葉晋・学部長は「日本の食料自給率はカロリーベースで約38%。北海道は213%、網走は1068%。東京農大がここに拠点を置くことは重要だ」と話した。ある准教授は「オホーツクキャンパスには、ここでしかできない4年間がある」とアピール。別の教授は「オホーツクの学びは『特別感』がある」と強調した。
独自の教育プログラムを持つ東京農大オホーツクキャンパスの高大連携「オホーツク学」。参加した高校生たちは、きっと何かをつかんで地元に戻ったに違いない。

網走湖で記念撮影。座学だけではなく、北海道の自然を満喫した

オホーツクキャンパスの近くには北海道らしい風景が広がる。「メルヘンの丘」には観光客がひっきりなしに立ち寄り写真を撮っていた
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