企業オフィスを大学の教室に 船井総研グループと関西大学が「共創空間」で実践型教育
「この会社を、もっと成長させるには?」――。船井総研グループと関西大学による産学連携の実践型教育プログラムに商学部の学生たちが挑戦した。実際に企業を訪ね、担当者に聞き取りをしながら、約2カ月にわたり企業研究を実施。7月30日、船井総研グループ大阪本社で、その成果を発表した。
▽オフィスが学びの舞台に
舞台となったのは、大阪駅直上の複合ビル「イノゲート大阪」の最上階に開設された船井総研グループの新オフィス。中小企業を中心に経営コンサルティングを手がけ、企業の持続的な成長を支援する同社が、「サステナグロースカンパニーをもっと。」というパーパスを空間全体で表現した拠点だ。
組み木や雲海をモチーフにした意匠に迎えられ、千本鳥居を模した長いアプローチを抜けると、千利休・豊臣秀吉ゆかりの「金の茶室」をイメージした受付が現れる。さらに進むと、一室ごとに仕様が異なる会議室やTED風のセミナールーム、「サステナグロースカンパニーアワード」を受賞した中小企業経営者を紹介する壁面ギャラリーが現れる。その先に広がるのが、社員や顧客、学生などが交流する大型多目的スペース「Enz’Arena(エンザリーナ)」。今回、学生たちがプレゼンを行った場所だ。
▽企業の課題に学生ならではの視点で挑む
学生たちが取り組んだ「サステナグロースカンパニー探究プロジェクト」は、企業の経営課題を題材に解決策を考えるPBL(課題解決型学習)。対象企業は、船井総研グループが主催する「サステナグロースカンパニーアワード」の受賞企業(受賞時の名称はグレートカンパニーアワード)であるi-plugとリバティだ。
5チームに分かれた学生たちは、2回にわたり企業を訪問し、経営者や担当者へヒアリング。企業が持続的に成長するためには何が必要かを考え、それぞれ独自の提案をまとめた。
i-plug担当の3チームは、企業と学生のより納得度の高いマッチングを目指して提案。企業が学生のプロフィールのどこに関心を持ったのかを可視化する仕組みや、学生の日々の経験をAIで分析し、強みや価値観を言語化する機能に加え、大学1・2年生向けのキャリア支援サービス「OfferBox mirai」と大学のキャリア教育を組み合わせ、早い段階から将来につながる経験を積むアイデアを示した。
i-plugの杉江優斗さんは、学生自身が利用者の視点からサービスの課題を捉え、アンケートなどで検証しながら提案につなげた点を評価。社会問題を取り上げ、国際比較を踏まえて解決策を考えた点にも触れた。
一方で、「学生にとっては非常に良いサービスでも、人事が利用した際にどのような工数が発生するのかという観点がまだ足りない」と指摘。学生側のメリットだけでなく、企業側の運用負担をどう抑えるかまで踏み込むことで、より実現性の高い提案になるとした。また、「OfferBox mirai」を活用した提案については、大学のキャリア教育を連携させる発想を評価した上で、実際にどのようなコンテンツを提供するのかを具体化すると、さらにイメージしやすくなると助言した。
▽「自衛官採用」から「中古EV」まで、企業の成長を考える
リバティ担当の2チームは、同社の持続的成長を「人材・組織文化」と「事業の循環」の二つの視点から分析した。一つのチームは、顧客への提案を営業個人に任せず、チームで考える同社の営業文化に着目。その文化を支える人材として自衛官出身者の採用を提言した。もう一方のチームは、販売から整備、車検、買い取りまでを一貫して手掛ける強みに目をつけ、地方の学生を対象に、卒業生が手放した認定中古電気自動車(EV)を新入生へ引き継ぐ仕組みを提案した。
自衛官出身者の採用について、リバティの坂本亮平さんは「実は私たちも他社さんから『自衛隊の採用いかがですか』と提案を受けて、検討したことがあります」と明かした。その上で、現在は体育会系と非体育会系の人材の差が「良い意味でなくなってきている」と指摘。「自衛隊出身の方だからこう」と一括りにするのではなく、価値観の違いにも目を向け、具体的な人物像まで掘り下げた提案であれば、より納得感が増したのではないかと述べた。
中古EVの循環モデルについては、リバティが中国のEV大手BYDのディーラー事業に力を入れていることから「すごくマッチした提案」と評価。一方で、学生がEVを利用する際の充電環境や月5000円という価格設定には課題があると指摘した。企業として投資を回収できるのかという観点から、定期的な整備・点検やバッテリー交換、事故による車両価値の低下などのリスクを挙げ、「それを回避する方法」まで具体化できれば、より実現性の高い提案になったとした。
▽「AIでは出せない」学生の考察と実行力
関西大学の卒業生でもある船井総合研究所の中嶋翔一さんは、全5チームの発表について、学生とは思えない完成度の高さを率直に評価。アンケートやヒアリングを自ら行い、データを分析して提案につなげたことについて、「実際にコンサルがやることとあまり変わらない」とした。AIを使わずに資料を作成したチームについては、「AIで作った浅い資料は見たらすぐに分かる」とし、自分たちが目指すゴールを明確にし、そこに向かって考え抜く姿勢を高く買った。
一方で、「結論ファースト」で伝えることの重要性や、アンケート結果をそのまま受け取るのではなく、その背景にあるニーズまで読み解く必要性を指摘。さらに、アイデアは「実現させて成果を出すところが一番難しい」と語り、アイデアやプレゼンの完成度だけでなく、それを実際に形にして成果につなげる実行力こそが、これから社会に出る学生に求められる力だと訴えた。
また、入社3年以内は「9割方スタンスで決まります」とし、知識やスキル以上に、仕事に向き合う姿勢や「元気」の大切さを強調。今回の発表を「テキストも分かりやすい、考察や構成も分かりやすい、元気もある」と振り返り、社会に出てからも今回の経験を思い出してほしいと、学生たちにエールを送った。
審査の結果、大学教育と「OfferBox mirai」の連携を提案したチームが優勝。「会場を巻き込むプレゼンテーション」や「独創的な視点」が高く評価され、18点満点中16.8点を獲得した。特別賞には、学生の日々の成長を記録・可視化するAI日記機能を提案したチームと、中古EVの循環モデルを提案したチームが選ばれた。
▽企業と大学をつなぐ、日本人学生と留学生をつなぐ
船井総研ホールディングス執行役員の小池彰誉さんによると、今回の取り組みの背景には、新オフィスの「共創空間」を学生にも利用してもらいたいという同社の思いがあったという。今回のプログラムでは、大学教育では触れる機会が限られる「生きた企業」を題材に、実践的に学ぶ機会を学生に提供した。
企業の持続的成長を意味する「サステナグロース」という考え方と、その事例を社会に広く発信する狙いもある。企業選定については、「両社はコンサルティングでお付き合いをしている会社で、なおかつものすごく良い会社だというのがよく分かっていた」と説明。今後は、「共創空間」を活用した産学連携を他大学に展開することも視野に入れているとした。
関西大学は、本プログラムを関西大学と大阪公立大学が連携して推進する「Osaka Social Impact Project(OSIP)」の一環として位置づける。今回の取り組みでは、日本人学生と留学生が同じチームで学び、それぞれの経験や価値観を交わすことで、新たな視点を生み出す多文化共修につなげた。今後は留学生の参加をさらに広げていく方針だという。
プログラムを総括した関西大学商学部長の西岡健一教授は、「約2カ月という短期間で企業を理解し、課題を設定して提案までまとめ上げたこと自体が大きな成果だった」と学生たちを称賛。「今回で終わりではなく、リサーチや課題設定をさらに深め、この産学連携を発展させていきたい」と期待を寄せた。
「学の実化」を掲げる関西大学と、企業の持続的な成長を支援してきた船井総研グループ。今回の経験が、どのような教育や産学連携の形へつながっていくのか、今後の展開が注目される。
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