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ダイヤモンド線量計で単位体積あたり最大13,000倍の感度を実証

― 低電圧動作の固体電離箱と発光特性評価により多機能放射線検出材料の基盤を確立 ―

 

1.概要

 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科(眞正浄光教授)、東北大学大学院工学研究科(人見啓太朗教授)および、Orbray株式会社(小山浩司博士、金聖祐博士)らの研究グループは、ヘテロエピタキシャルダイヤモンド(HED)を用いた放射線線量計に関する二つの研究成果を発表しました。

 一つは、東京都立大学、Orbray株式会社、東北大学、大阪大学、東北工業大学、QST放射線医学研究所との共同研究により実施された、固体電離箱としての性能評価です。本研究では、4 × 4 × 0.5 mm³の単結晶ダイヤモンド基板にTi/Au電極を形成した固体電離箱(HED-IC:放射線により生成される電荷を直接測定するリアルタイム型線量計)を作製し、診断X線領域(50–120 kV)において−1~−100 Vという低電圧条件下で評価を行いました。その結果、線量直線性 R² > 0.997、エネルギー依存性10%以内という安定した応答特性を示しました。特に、感度体積約4.8 mm³という小型検出器でありながら、−100 V印加時には、一般的な空気充填型電離箱(約6000 mm³)と比較して、単位体積あたり最大約13,000倍の感度を示しました。

 もう一つは、東京都立大学、Orbray株式会社、東北大学、金沢工業大学との共同研究による光刺激蛍光(OSL:放射線照射後に光を当てることで蓄積情報を読み出す発光現象)特性評価です。窒素濃度の異なるヘテロエピタキシャルダイヤモンド(3 ppbおよび1 ppm)を用いて評価した結果、窒素濃度1 ppm試料ではOSL強度が約1桁増大し、窒素関連欠陥がトラップおよび再結合中心として重要な役割を果たしていることが示唆されました。また、プレ照射による可逆的増感現象が確認され、既存欠陥の電荷占有状態の変化が発光特性に影響していることが示されました。

 本研究は、生体組織に近い原子番号を有するダイヤモンドにおいて、小体積で高感度なリアルタイム型検出(固体電離箱)を実証するとともに、材料中の不純物制御が発光応答に影響を与えることを示したものです。同一材料基盤において異なる放射線検出機構を体系的に評価した点に学術的意義があり、多機能放射線検出材料としての展開可能性を示す成果です。

 

2.ポイント

・4 × 4 × 0.5 mm³の小型ダイヤモンド固体電離箱を開発し、診断X線領域(50–120 kV)で低電圧(−1~−100 V)動作を実証

・線量直線性 R² > 0.997、エネルギー依存性10%以内の安定した応答特性を確認

・−100 V印加時、一般的な空気充填型電離箱と比較して単位体積あたり最大約13,000倍の感度を達成

・窒素濃度の違いにより光刺激蛍光(OSL)強度が大きく変化することを確認

・プレ照射による可逆的な増感現象を観測し、既存欠陥の電荷占有状態変化が発光応答に影響することを示唆

・同一材料基盤においてリアルタイム型検出(固体電離箱)と蓄積型検出(OSL)の両側面を評価

3.研究の背景

 医療における放射線利用は年々拡大しており、診断X線撮影、CT検査、IVR(画像下治療)、放射線治療など、多様な場面で放射線計測技術が不可欠となっています。とりわけ近年は、患者被ばくの最適化や線量の記録・管理が国際的に強く求められており、小型・高感度・高精度な線量計の重要性が高まっています。

 従来、診断領域の線量測定には空気充填型電離箱(指頭形・平行平板形など)が広く用いられてきました。空気充填型電離箱は長年にわたり標準測定器として高い信頼性を確立している一方、感度を確保するために一定以上の体積を必要とし、小型化や高空間分解能化には限界があります。また、温度・気圧補正が必要であることや、装置への組込み用途には制約があることも課題とされています。

 これらの課題を克服し得る材料として注目されているのがダイヤモンドです。ダイヤモンドは広いバンドギャップ(約5.5 eV)、高い放射線耐性、高い熱伝導率を有し、さらに原子番号6の炭素から構成されるため、生体組織に近い物理特性を示します。このため、放射線検出材料として理想的な性質を備えています。しかし、診断X線領域において小体積で高感度な固体電離箱として体系的に評価された例は限られていました。

 また、ダイヤモンドは電離箱型検出だけでなく、光刺激蛍光(OSL)などの発光現象を利用した蓄積型線量計としての可能性も有していますが、不純物濃度と発光特性との関係については十分に整理されていませんでした。特に、大面積化が可能なヘテロエピタキシャルダイヤモンドにおいて、材料中の窒素濃度が放射線応答にどのように影響するかは明確ではありませんでした。

 本研究は、こうした背景のもと、ヘテロエピタキシャルダイヤモンドを用いた固体電離箱としての高感度動作の実証と、窒素濃度制御による発光応答特性の評価を統合的に行うことで、多機能放射線検出材料としての可能性を体系的に検討することを目的としました。

4.研究の詳細

1.固体電離箱としての性能評価

 本研究では、4 × 4 × 0.5 mm³の単結晶ヘテロエピタキシャルダイヤモンド基板にTi/Au電極を形成した固体電離箱(HED-IC)を作製しました。感度体積は約4.8 mm³であり、一般的な診断領域用の空気充填型電離箱(約6000 mm³)と比較して約1/1250の体積です。

 診断X線領域(50–120 kV、実効エネルギー28–40 keV)において、−1~−100 Vの低電圧条件で評価を行った結果、線量直線性はR² > 0.997と高い直線性を示しました。また、エネルギー依存性は10%以内に収まり、診断領域において安定した応答特性が得られました。

 特に注目すべき点は、体積で正規化した感度の高さです。−100 V印加時には、一般的な空気充填型電離箱と比較して、単位体積あたり最大約13,000倍の感度を示しました。(Table)この高い体積あたり感度は、ダイヤモンドの高密度(3.51 g/cm³)および低い電子正孔対生成エネルギー(W値:約13 eV、1対の電荷を生成するのに必要なエネルギー)に起因する高い電荷生成効率によるものです。小体積でありながら高感度であるという特性は、局所線量測定や空間分解能を重視する応用において大きな利点となります。

Table. Comparison of absolute sensitivities and volume-normalized sensitivities between the HED-IC and representative reference dosimeters. The values for volume-normalized sensitivity (nC mGy⁻¹ mm⁻³) allow direct comparison of detector response per unit sensitive volume. The volume-normalized sensitivity ratio is defined as the ratio of the volume-normalized sensitivity (sensitivity divided by active volume) of each detector to that of the Radcal 9015 (10X6-6M) ionization chamber, which is taken as unity. (Medical Physics掲載)

 

2.光刺激蛍光(OSL)特性の評価

 ヘテロエピタキシャルダイヤモンドの発光特性を評価するため、窒素濃度の異なる2種類の試料(3 ppbおよび1 ppm)を用いて光刺激蛍光(OSL)特性を測定しました。

 その結果、窒素濃度1 ppm試料では、3 ppb試料と比較してOSL強度が約1桁増大しました。これは、窒素関連欠陥(NV中心など)がトラップおよび再結合中心として機能し、発光過程に関与しているためと考えられます。

 さらに、最大400 Gyまでのプレ照射を行ったところ、窒素高濃度試料において顕著な増感効果が観測されました。(Figure)この増感は400 Gy付近で飽和し、500℃でのアニール処理により初期状態へ回復しました。発光スペクトルは500–800 nmに広がる単一の広帯域であり、ピークは620–650 nm付近に位置しました。プレ照射前後でスペクトル形状に顕著な変化は見られず、新たな発光中心の生成ではなく、既存欠陥の電荷占有状態の変化による可逆的現象であることが示唆されました。

Figure. Dependence of OSL intensity on pre-irradiation dose for HED-N_1ppm (irradiation dose: 10 Gy) and HED-N_3ppb (irradiation dose: 100 Gy). (Journal of Materials Science: Materials in Electronics掲載)

 

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研究体制

本研究は、ヘテロエピタキシャルダイヤモンドを用いた放射線検出技術の高度化を目的とした産学連携研究として実施されました。

1.固体電離箱(HED-IC)の性能評価

 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 眞正 浄光 教授(研究代表者)

 Orbray株式会社(小山浩司・本部長)(金聖祐・執行役員兼事業統括本部長)

 東北大学大学院工学研究科(人見啓太朗・教授)(野上光博・助教)

 大阪大学(毎田修・助教)

 東北工業大学(小野寺敏幸・教授)

 QST 放射線医学研究所(古場裕介・主任研究員)

 上記機関が共同で、検出器設計、医療応用評価、線量特性解析を実施しました。

2.光刺激蛍光(OSL)特性の評価

 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 眞正 浄光 教授(研究代表者)

 Orbray株式会社(小山浩司・本部長)(金聖祐・執行役員兼事業統括本部長)

 東北大学大学院工学研究科(人見啓太朗・教授)

 金沢工業大学(岡田豪・准教授)

 上記機関が共同で、窒素濃度制御試料の評価および発光特性解析を実施しました。

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5.研究の意義と波及効果

 本研究の意義は、生体組織に近い物理特性を有するダイヤモンド材料において、小体積でありながら極めて高い感度を実現した点にあります。単位体積あたり最大約13,000倍の感度を示したことは、線量計の小型化と高感度化を同時に達成し得る材料基盤であることを示すものであり、従来の空気充填型電離箱が有してきた体積依存の制約を大きく緩和する可能性を示しました。

 医療分野においては、診断X線撮影やCT検査、IVR、さらには放射線治療に至るまで、線量測定の高精度化と小型化が求められています。本研究で実証された固体電離箱は、低電圧で安定動作し、小体積で高感度を示すことから、装置組込み型線量計や可搬型線量計、局所線量評価への応用が期待されます。また、大面積ヘテロエピタキシャルダイヤモンド基板との組み合わせにより、アレイ化や線量分布の可視化デバイスへの展開も視野に入ります。

 さらに、本研究では窒素濃度の違いが光刺激蛍光特性に大きく影響することを示しました。これは、材料中の不純物制御が放射線応答特性に関与することを示唆するものであり、固体電離箱型検出に加えて発光応答を利用した蓄積型線量評価への基礎的知見を提供します。同一材料基盤においてリアルタイム型検出と発光型検出の両側面を体系的に評価した点は、放射線検出材料の設計自由度を拡張する学術的意義を有しています。

 本成果は、ヘテロエピタキシャルダイヤモンドを多機能放射線検出材料として発展させる基盤研究として位置づけられ、医療放射線計測の高度化のみならず、今後の材料設計指針の確立にも貢献することが期待されます。

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掲載誌情報

1.固体電離箱に関する研究

掲載誌:Medical Physics

論文タイトル:First evaluation of a heteroepitaxial diamond ionization chamber operating at low voltage for diagnostic X-ray dosimetry

著者:Kiyomitsu Shinsho, Koji Koyama, Keitaro Hitomi, Mitsuhiro Nogami, Osamu Maida, Toshiyuki Onodera, Kanata Kikkawa, Shimma Hashimoto, Yuta Hirai, Yusuke Koba, Ako Haga, Daiki Maruyama, Seongwoo Kim

掲載日:2026年2月27日

https://aapm.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/mp.70363
DOI:10.1002/mp.70363

2.光刺激蛍光特性に関する研究

掲載誌:Journal of Materials Science: Materials in Electronics

論文タイトル:Optically stimulated luminescence characteristics of heteroepitaxial diamond with different nitrogen concentrations

著者:Kiyomitsu Shinsho, Go Okada, Koji Koyama, Keitaro Hitomi & Seongwoo Kim

掲載日:2026年1月28日

DOI:https://doi.org/10.1007/s10854-026-16690-6

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