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精密設計した糖から一気にナノ構造体!

テンプレート剤フリーなナノ多孔質カーボン材料の合成法を開発

ポイント

・ 電極材料や触媒担体として有用なナノ多孔質カーボン材料を、化学修飾された糖のみから合成することに成功

・ 使い捨てである従来のテンプレート剤を使わず、省資源・省エネルギーな合成への可能性を提示

・ 糖の種類や化学修飾の様式によって、将来はニーズに合わせたナノ構造を設計・合成可能になると期待

 

 

概 要 

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)化学プロセス研究部門 久保 史織 主任研究員らは、ショ糖や果糖といった身近な糖を化学修飾することによるシンプルな工程で、ナノ多孔質カーボン材料やレイヤー状のナノ構造を有するカーボン材料が得られることを示しました。

 

ナノ多孔質カーボン材料は、二次電池の電極材料や触媒担体として、エネルギー課題解決に資する材料群としてその役割が注目されています。特に取り込む分子に応じて細孔の大きさや形状がそろった材料群の需要が高まっています。しかし、従来広く使われているテンプレート法は、テンプレート剤の使い捨て、さらに複雑な合成工程が課題であったほか、合成手法によっては、高温や強酸などのエネルギー消費型かつ過酷な化学プロセスに依存していました。

 

今回、産総研の研究グループは、化学修飾の施された糖分子のみからナノ構造を有するカーボン材料を合成するという新しい手法を確立しました。この手法は、単純でありながらも精密に狙った化学修飾によりアルキル鎖の導入された糖分子を原料として、水熱条件下で重縮合反応を進めるもので、従来のテンプレート剤や過酷な化学プロセスに依存しません。また、糖の種類を変えることで、球状の細孔形成のみならず、レイヤー状のナノスケールの構造体が得られることを見いだしました。

 

この成果は、これまでの“物理的な”細孔形成であるテンプレート法から、“化学的な”細孔形成への転換を図るものであり、今後、構築された手法をプラットフォームとすることでテンプレート法では実現できないナノ構造を持つ新たなナノ多孔質カーボン材料群の設計が期待されます。こうした材料をさまざまな化学反応の基材とすることで、電極材料や触媒担体材料などへの応用において従来得られなかった性能が実現する可能性があります。

 

なお、この研究成果の詳細は、2026年8月12日に「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

 

下線部は【用語解説】参照

 

※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。

正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260901/pr20260901.html )をご覧ください。

 

研究の社会的背景

ナノ多孔質カーボン材料はナノスケールの細孔を多数持ち、大きな比表面積を持つという特徴があります。この特徴により、電気を蓄えたり、物質を吸着したり、反応を促進したりする用途で広く注目されています。その代表的な例は蓄電デバイスの電極材料や燃料電池で、こうした応用研究における電荷貯蔵機構やさまざまなエネルギー反応の舞台となります。他にも、ナノ多孔質カーボン材料は空気を浄化する吸着剤や、各種化学反応を促進する触媒の担体としても重要な機能を持ちます。

 

私たちに身近な多孔質カーボン材料である活性炭においては、その孔(以下、細孔と呼ぶ)の大きさや形は均一ではありません。そのため、さまざまな大きさの分子を対象とする浄水や脱臭などの用途に向いています。一方、細孔の大きさや形状が均一であると、特定の大きさの分子を選択的に取り込めるため、特に蓄電デバイスの電極材料やガス分離剤、触媒担体への応用に有効です。近年、それらの用途に適する、均質な細孔を持つナノ多孔質カーボン材料の需要が高まっています。

 

均質な細孔を持つナノ多孔質カーボン材料の合成には、テンプレート法と呼ばれる方法が使われています。これは、カーボン材料の原料にテンプレート剤と呼ばれる特殊な無機材料や高分子材料を”鋳型”として混合して炭素化させ、後にそれを除去するものです。しかし、テンプレート剤となる物質は特殊な無機材料や高分子に限られているため、ナノ細孔の構造に対する制約が小さくありません。そのうえ、丹念に作製されたテンプレート剤も使い捨ての状態になっています。また、テンプレート剤の除去工程は、強酸や数百度の高温などの厳しい化学プロセスに依存します。

 

このような工程や制約を克服する、シンプルかつ反応条件が温和でありながら、ナノ細孔を用途に応じて思い通りに制御できる新たなナノ多孔質カーボン材料の合成技術が求められていました。

 

研究の経緯

産総研では、化学プロセスの省エネ化に向け、界面化学と化学工学を基盤とした機能性材料の研究開発を進めてきました。特に糖などのバイオマス由来分子の化学修飾による分子構造制御と界面形成技術に高度な基盤技術を有しています。さらに、これらの研究と深く関連しながら、糖を原料とした水熱合成によるカーボン材料の合成など、 グリーンな化学プロセスを活用した多孔質材料をはじめとする機能性材料合成に強みを持っています。

 

こうした基盤技術を背景に、原料である化学修飾された糖分子自身の力によってカーボン材料をナノ多孔化するという、これまで考えられてこなかったアイデアの実現に取り組みました。

 

なお、本研究はJSPS科研費 JP18K14307、JP20K05676、JP23K04900、JP18F18030の助成を受けたものです。

 

研究の内容

本研究では、ショ糖の水酸基の一つに、エステル結合を介して、アルキル鎖(ラウロイル基)のつながったショ糖モノラウリン酸エステルを原料として用いました(図1)。この原料分子においては、糖部分一つに対して、アルキル鎖がエステル結合を介して一つつながれており、すなわち糖部分が、化学種、化学結合および置換数の観点から精密に制御されて修飾されています。この原料を水に溶解させた後に、水熱条件下において化学反応を進行させると(以下、水熱反応と呼ぶ)、従来のテンプレート剤を用いることなく、ナノ多孔質カーボンが得られました(図2)。

 

 

 

ショ糖モノラウリン酸エステルからナノ多孔質カーボンへ至る化学プロセスの一端を捉えるべく、水熱反応の途中で反応を停止し、中間体を分析しました。その結果、反応時間の経過に伴い、糖部分の重縮合が進行し、カーボン様の固体が徐々に形成される傾向が観測されました。さらに、反応時間の経過に伴い、はじめに糖部分につながっていたアルキル鎖が、エステル結合の分解により徐々に糖部分から脱離する様子が捉えられました。この結果から、ショ糖モノラウリン酸エステルからナノ多孔質カーボンへの過程として、水熱条件下において、i) ショ糖モノラウリン酸エステルの自己組織化、ii) ショ糖モノラウリン酸エステルの糖部分の重縮合、およびiii) ショ糖モノラウリン酸エステルのアルキル鎖の脱離がそれぞれ起こることが考えられます。すなわちこの結果は、糖が自己組織化した状態でカーボン固体が形成され、かつアルキル鎖の脱離によって細孔が生じ、その結果、ナノ多孔質カーボンが生成することを強く示唆しています。

 

このメカニズムによれば、出発分子の分子構造を変化させれば、自己組織化の挙動も変わり、最終的にカーボン固体のナノ構造の形態を制御することができるのではないかと発想しました。そこで本研究ではさらに、糖部分として二糖であるショ糖に対し、それに代わって単糖である果糖に注目しました。ここでは果糖を狙って化学修飾し、出発分子(果糖モノラウリン酸エステル)を自ら合成し、水熱反応に供しました。

 

その結果、果糖モノラウリン酸エステルを原料とした場合は、レイヤー状のナノ構造体が形成されることが分かりました。このように、糖一分子から、テンプレート剤を使わずに、糖の分子構造に応じて制御可能な、カーボン材料合成の基礎を築きました。

 

最後に、将来的な応用を見据えて、ショ糖モノラウリン酸エステルの出発水溶液の濃度を高くすることによりカーボン収量の増大を図りました。また、水熱反応後のカーボン生成物をさらに高温で焼成することにより電気伝導性の付与を図りました。このようにして得られたカーボン固体は、窒素吸着測定から1155 m2 g-1と1.00 cm3 g-1にのぼる高い比表面積細孔容積を示し(図3)、かつ約32 nmを分布の中心とした比較的均一な大きさの細孔を有しました。さらにラマン分光法などの各種分光分析から、芳香族性の向上が認められ、良好な電気伝導性を有することが示唆されました。

 

 

これらの結果は、糖に簡単な化学修飾を施すことで、糖自身の駆動力によってナノ多孔質カーボン材料が得られることを示すものです。これは、これまでのテンプレート法から脱却し、プログラミングされた原料分子から、ダイレクトにナノ多孔質カーボンの合成にたどりつく、新たなアイデアによる多孔質カーボン材料合成法を示すものです。さらに、糖分子の種類によって、得られるナノ構造が変化することも示され、こうした合成プラットフォームが、今後さらに拡充・強化され、電極材や触媒担体として高い機能を有するカーボン系材料の開発につながることが期待されます。

 

今後の予定

今後は、本成果に基づき、糖の化学修飾の様式と、得られるカーボン材料のナノ細孔の特徴の関係についての知見をより拡充していきます。そして特定の化学修飾の様式に焦点を当て、これまでにない形状のナノ細孔を持った新しいナノ多孔質カーボン材料の開発へとつなげることを目指します。さらに、カーボン固体収量の向上や、得られる材料の応用展開に向けた取り組みを推進します。

 

論文情報

掲載誌:Journal of the American Chemical Society

タイトル:Chemically Modified Sugars as Multifunctional Precursors for Direct, Template-Free Synthesis of Nanoporous Carbonaceous Materials

著者名:Shiori Kubo, Joshua Philip Barham, Norihito Hiyoshi

DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.5c16771

 

用語解説

ナノ多孔質カーボン材料

ナノスケールの多数の孔を持ったカーボン材料。1ナノメートルは、1ミリメートルの百万分の一。

 

テンプレート法

多孔質材料の合成において、あらかじめ決まった大きさや形をもつ固体材料や分子集合体を鋳型として使い、その周囲や内部に目的の材料を形成した後、鋳型を取り除くことで細孔を得る方法。

 

重縮合反応

分子自身または分子同士が水などの小さな分子を放出し、分子が互いに次々と化学結合し、小分子が取り除かれつつも、大きな分子を作る反応のこと。

 

水熱反応

水を溶媒とし、水の沸点(100 ℃)以上、密閉空間において進行する化学反応。

 

自己組織化

分子が化学相互作用などにより、自発的に互いに集合して、組織化された構造を形成する挙動。

 

窒素吸着測定

多孔質材料において、固体材料内に存在する細孔の容積や、固体材料の比表面積を調べる方法。多孔質材料の窒素吸着量を窒素の圧力を変えて測定して得られる窒素吸脱着等温線(例えば、図3)から、細孔の容積や比表面積の値が算出される。

 

比表面積

固体の単位質量あたりの表面積を表す。固体最外表面の面積と、細孔などの存在により固体内部に生じる表面(細孔の周りの表面)の面積からなる。

 

細孔容積

固体の単位質量あたりの細孔の容積を表す。多孔質材料において、多孔性の度合いを表す指標となる。

 

ラマン分光法

物質にレーザー光を照射し、照射光に対し散乱する光(ラマン散乱)の波長変化を測定することで、分子構造や化学結合を分析する手法。

 

 

プレスリリースURL

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260901/pr20260901.html

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