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免疫介在性中枢神経疾患の病態メカニズムを解明

疾患活動性や再発リスクを反映する新規バイオマーカー「TNFRSF9」を発見

2027年7月27日
岐阜大学

免疫介在性中枢神経疾患の病態メカニズムを解明: 疾患活動性や再発リスクを反映する新規バイオマーカー「TNFRSF9」を発見

 

 

本研究のポイント

・ 自己免疫性グリア線維性酸性タンパク質アストロサイトパチー(autoimmune glial fibrillary acidic protein astrocytopathy: GFAP-A)(注1)は、脳や脊髄に炎症が起こる免疫介在性中枢神経疾患の一つですが、その病態機序は十分に解明されておらず、確立した治療法もありません。

・ 本研究では、GFAP-A患者の脳脊髄液中で、活性化T細胞やNK細胞に発現する共刺激受容体「TNFRSF9(Tumor Necrosis Factor Receptor Superfamily Member 9)(注2)」が、他の神経疾患と比較して有意に増加していることを明らかにしました。

・ 脳脊髄液中のTNFRSF9濃度は、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)(注3)およびアストロサイト障害マーカーであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)との相関が認められました。さらに、臨床像との比較検討により、疾患活動性や重症度、さらには再発リスクを反映する有望なバイオマーカーとなる可能性が示されました。

・ 本研究成果は、GFAP-Aの病態解明を進展させるだけではなく、新たな治療標的の探索や治療法の確立につながることが期待されます。

 

 

研究概要

 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野の木村暁夫臨床教授、下畑享良教授、竹腰顕助教、同研究科寄生虫学・感染学分野の前川洋一教授らの研究グループは、藤田医科大学、聖マリアンナ医科大学、新潟大学との共同研究により、GFAP-Aの病態解明と治療法確立につながる知見を発表しました。

 GFAP-Aは、脳や脊髄で炎症が生じる免疫介在性中枢神経疾患です。ステロイド治療が有効である一方、難治例や再発例が存在し、認知機能障害や歩行障害などの後遺症を伴う例も少なくありません。

 研究の結果、患者の脳脊髄液中でTNFRSF9が上昇し、疾患活動性や重症度、再発と関連していることが分かりました。TNFRSF9は、活性化T細胞・NK細胞に発現する共刺激受容体で、細胞表面型・分泌型が存在します。TNFRSF9が、GFAP-A患者の中枢神経内においてCD8陽性T細胞の活性化やサイトカイン産生と関連し、本疾患の病態に関与している可能性が推測されました。さらに、TNFRSF9は、新たなバイオマーカーおよび治療標的となる可能性が示され、今後の治療法開発への貢献が期待されます。

 本研究成果は、現地時間2026年7月17日にNeurology誌のオンライン版で発表されました。

 


 

研究背景

 自己免疫性GFAPアストロサイトパチー(GFAP-A)は、アストロサイトの中間径フィラメントを構成するグリア線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein: GFAP)に対する自己免疫機序を背景として発症する免疫介在性中枢神経疾患です。患者の脳脊髄液中では、一連の自己免疫応答に伴って産生されたGFAP抗体が検出され、診断マーカーとして用いられています。一方、その病態機序については、病理組織学的検討からGFAP抗原特異的細胞傷害性T細胞(注4)が重要な役割を担うことが示唆されているものの、詳細はいまだ十分に解明されておらず、標準的な治療法も確立されていません。現在、ステロイドを中心とした免疫療法が経験的に行われていますが、治療抵抗例も存在し、約10%の患者で再発が認められます。また、認知機能障害、排尿障害、歩行障害などの後遺症が残存することも少なくなく、有効な治療法の確立が求められています。そこで、本研究では、病態に関連する疾患活動性バイオマーカー候補を同定することを目的として研究を行いました。

 

 

研究成果

 GFAP-A患者4例由来の脳脊髄液と、対照群として非炎症性神経疾患である正常圧水頭症患者4例由来の脳脊髄液を対象に、Proximity Extension Assay(注5)を用いたプロテオミクス解析(注6)を行い、本疾患で特異的に増加するタンパク質の探索を行いました。その結果、TNFRSF9が最も有望な疾患関連分子として同定されました(図1)。

 

 

 

図1.バイオマーカー候補タンパク質の同定を目的としたプロテオミクス解析結果。

TNFRSF9が同定された(矢印)

 

 脳脊髄液TNFRSF9の特異性を検証するため、ELISA解析を用いて、GFAP-A患者42例およびその他の神経疾患患者60例の脳脊髄液中TNFRSF9濃度を測定し、比較検討しました(図2)。その結果、GFAP-A患者では、その他の神経疾患患者と比較して脳脊髄液TNFRSF9濃度が有意に高値を示しました。

 

図2.各神経疾患別脳脊髄液TNFRSF9値の比較結果。

GFAP-A患者の治療前の脳脊髄液TNFRSF9値は、その他の神経疾患群と比較して有意に高値を示した。

 

 42例のGFAP-A患者を対象に、脳脊髄液TNFRSF9値と臨床データを比較検討しました。結果、脳脊髄液TNFRSF9値は、脳脊髄液中の細胞数(ρ[95%CI]= 0.323[0.02–0.57]、BH補正後 p = 0.045)、蛋白量(0.642[0.42–0.79]、p < 0.001)、アデノシンデアミナーゼ値(0.593[0.27–0.80]、p = 0.004)、および入院時のmodified Rankin Scaleスコア(0.443[0.15–0.66]、p = 0.008)と相関を示しました。

 さらに異なる臨床プロファイル間での脳脊髄液TNFRSF9値の比較解析を行いました。意識障害を有する患者では、意識障害のない患者と比較してTNFRSF9値が高値でした(Cohen’s d[95% CI]= 0.481[-0.20–1.16]、BH補正後 p = 0.005)。線状血管周囲造影病変を認めた患者は、認めなかった患者に比べてTNFRSF9値が高値でした(0.338[-0.28–0.96]、p = 0.0496)。さらに、再発を経験した患者では、再発のなかった患者に比べ、初回の脳脊髄液TNFRSF9値が高値でした(0.336[-0.60–1.28]、p = 0.047)。

 加えて、脳脊髄液TNFRSF9値と、すでにGFAP-A患者で上昇することが知られている炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)およびGFAPとの相関を解析しました。結果、TNFRSF9値は、脳脊髄液IL-6値(ρ[95%CI]= 0.378[0.08–0.61]、p = 0.014)、脳脊髄液TNF-α値(0.719[0.53–0.84]、p < 0.001)、および脳脊髄液GFAP値(0.485[0.21–0.69]、p = 0.001)と有意な相関を示しました(図3)。さらに、GFAP-A患者11例の脳脊髄液を用いて経時的にTNFRSF9値を測定したところ、いずれの症例においてもステロイド治療後にTNFRSF9値の低下を確認しました。

 

図3.GFAP-A患者における脳脊髄液TNFRSF9値と炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)およびアストロサイト障害マーカー(GFAP)との相関解析

GFAP-A患者の脳脊髄液TNFRSF9値は、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)およびGFAP値と有意な相関を認めた。

 

 

今後の展開

 本研究により、脳脊髄液TNFRSF9はGFAP-Aの疾患活動性、疾患重症度ならびに再発リスクを反映するバイオマーカーである可能性が示されました。また、病態形成に密接に関与する新たな治療標的として活用できる可能性があります。今後、同マーカーを活用したGFAP-Aの治療法の確立が期待されます。

 

 

研究者コメント

 今回の研究結果から、TNFRSF9がGFAP-Aの病態形成に関与している可能性が示唆されました。しかしながら、GFAP-AにおいてTNFRSF9の産生がどのような機序で促進され、病態形成に寄与しているのかについてはいまだ明らかではなく、今後さらなる検討が必要です。

 

 

用語解説

(注1) 自己免疫性GFAPアストロサイトパチー(autoimmune GFAP astrocytopathy: GFAP-A)

近年新たに確立された免疫介在性中枢神経疾患であり、患者の脳脊髄液中において、アストロサイトに発現する中間径フィラメントの一つであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)に対する自己抗体(GFAP抗体)が検出されることにより診断されます。

本疾患の発症年齢の中央値は50代ですが、小児から高齢者まであらゆる年齢層に発症し、男性に多い特徴があります。一般的に髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎を呈しますが、臨床像は多彩であり、頭痛や発熱を初期症状として、その後、意識障害、振戦・ミオクローヌス・運動失調などの運動異常症、認知機能障害、排尿障害を比較的高頻度に認めます。視神経乳頭浮腫や呼吸障害をきたし人工呼吸器管理を必要とすることもあります。頭部造影MRIにて、側脳室周囲にみられる線状血管周囲造影病変、脊髄MRIにて、3椎体以上に及ぶ連続性の長大脊髄病変を合併することもあります。治療としてはステロイド療法が有効である一方、治療開始後6か月以降も日常生活に介助を要する患者が一定数存在し、再発率は10.5%とされ、認知機能障害、排尿障害、歩行障害を後遺症として残すことがあります。

 

(注2) TNFRSF9(別名:CD137または4-1BB)

腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーに属する分子であり、膜結合型および可溶型の両形態で存在します。主にT細胞(特にCD8陽性細胞傷害性Tリンパ球)やNK細胞に発現し、抗原提示細胞との相互作用や炎症環境下でその発現が誘導されることが知られています。TNFRSF9はリガンドとの結合によりT細胞の増殖、生存およびサイトカイン産生を促進し、免疫応答を増強する機能を有します。

 

(注3) 炎症性サイトカイン

免疫細胞(マクロファージ、T細胞、樹状細胞など)から分泌され、炎症反応を促進するシグナル伝達蛋白です。主な炎症性サイトカインとしてTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)、IL-1β(Interleukin-1β)、IL-6、IFN-γ(Interferon-γ)等が知られています。

 

(注4) 細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte: CTL)

主にCD8陽性T細胞から分化し、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞などの異常細胞を直接認識して排除する獲得免疫のエフェクター細胞です。キラーT細胞とも呼ばれます。標的細胞表面のMHCクラスI分子上の抗原ペプチドを認識し、活性化されるとグランザイムやパーフォリンを放出し、標的細胞を直接殺傷します。

 

(注5) Proximity Extension Assay

タンパク質を高感度かつ高特異的に測定するためのプロテオミクス解析技術です。標的タンパク質に対して認識部位の異なる 2種類の抗体を用います。それぞれの抗体には固有のDNAオリゴヌクレオチド(DNAタグ)が結合しています。2本のDNAタグ付き抗体が同じタンパク質に結合し、抗体同士が近接することでDNAタグがハイブリダイズします。DNAポリメラーゼによってDNAが伸長され、特異的なDNA配列が生成され、生成されたDNAをポリメラーゼ連鎖反応で増幅・定量し、DNA量から元のタンパク質量を推定する方法です。

 

(注6) プロテオミクス解析

生体内で発現するタンパク質を網羅的に解析し、疾患関連分子やバイオマーカー候補を探索する手法です。

 

 

論文情報

雑誌名:Neurology

論文タイトル:Involvement of TNFRSF9 in the Pathogenesis of Autoimmune Glial Fibrillary Acidic Protein Astrocytopathy

著者:Akio Kimura, Akira Takekoshi, Yoichi Maekawa, Keiko Tanaka, Yoshihisa Yamano, Kuniaki Saito, Masao Takemura, Yasuko Yamamoto, Takayoshi Shimohata

DOI: 10.1212/WNL.0000000000218306

 

 

研究支援

本研究は、以下の研究助成を受けて実施しました。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED: JP23ek0109680)

 

 

  • 研究イメージ図
  • 図1(右)
  • 図1(左)
  • 図2
  • 図3

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