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強い総理ほど国会に気を遣う 【政眼鏡(せいがんきょう)-本田雅俊の政治コラム】

 2月の衆院選直後に召集された今国会は、7月17日に会期末を迎える。会期末が近づくと重要法案の処理方法でもめることは珍しくなく、今国会でも皇室典範改正案や国旗損壊処罰法案、副首都法案などを巡ってドタバタ劇が繰り広げられている。もっとも、会期の大幅延長は避け、早く「夏休み」に入りたい点では与野党はおおむね一致しているようだ。

 発足から9カ月近くがたつが、表面上、高市早苗政権の支持率に大きな陰りは見られない。発足以来最低になったとはいえ、共同通信社の6月の世論調査でもまだ55.8%の高水準にある。毛嫌いする者や期待外れで失望に転じた者もいるが、振りまかれる笑顔や醸し出される“頑張っている感”に好意を抱く層はまだまだ多いのが実情だ。「明るく振る舞っていること」(自民若手)も理由に挙げられるが、芸人ではないのだから、“とにかく明るい”だけでも困る。

 しかし、与野党の国対関係者には、高市首相の評判はすこぶる悪い。「国会のことは国会にお任せしている」と言いながら、非公式に横車を押し、自我を通そうとする姿勢には批判と不満が募る。予算の年度内成立も、維新の会と約束した衆院議員定数の削減も、“数の力”さえあれば通せると思っていた節がある。国会の委員会出席にも実に消極的だ。「彼女は国会運営の根本を分かっていない」(自民中堅)との指摘も異口同音にささやかれる。

 歴代首相の多くは、それまでのキャリアの中で幹事長や国対委員長、正副官房副長官などを経験し、国会運営の見えざる“掟”や合意形成の難しさを学んだ。その過程で国対族の仲間や野党に太いパイプができたりもした。さらに、円滑な法案審議のため、“その道のプロ”に全幅の信頼を寄せて国会対策を任せ、それに従う例も多かった。大島理森氏や森山裕氏などは国対委員長時代、まさに“現場の司令官”として首相官邸と野党の間を取り持った。

 武田信玄は「戦は六分勝ちが最上」との名言を残したが、与党の国会対策もそれに近いものが基本とされ、「一人勝ち」は厳に慎まれてきた。「昔は『政治は妥協の芸術』などといわれ、どうやって野党と折り合いをつけるかが政権にとっての肝だった」(党三役経験者)という。与野党の“なれ合い”にも映るが、政府提出法案の成立そのものではなく、国会における合意形成を最重視してきた結果だろう。

 与党が衆参いずれかの院で少数の場合はもちろんだが、両院で安定多数の議席を持っていても、政権にとって野党への配慮は重要だ。いや、安倍晋三政権にしても、小泉純一郎政権にしても、野党の言い分にできるだけ耳を傾け、また顔を立て、たとえ合意できなくても、「不同意の同意」までこぎ着ける努力をしたからこそ、長期政権になったといえなくもない。

 しかし、高市首相に国対経験はない。それどころか、言葉とは裏腹に、野党や参院、ひいては国会そのものへのリスペクトが足りないようだ。自分のおかげで与党が衆院で絶対安定多数の議席を持っているとの強い自負と自信があるのかもしれないし、委員会での質疑を「面倒くさい」「疲れる」「馬鹿馬鹿しい」と思うこともあるかもしれない。だが、わが国はあくまでも議院内閣制の国であるし、よくも悪くも、「民主政治とは手間暇の政治」(閣僚経験者)にほかならない。

 野党との十分な議論や調整、妥協を図ることなく、選挙で得られた“数”だけで全てを決められるのであれば、そもそも国会の存在は不要になる。「国民の代表機関」に提案理由を懇切丁寧に説明し、また疑問に答え、野党各党の主張もできるだけ採り入れて成案にしていくことこそ、政権の厳粛な責務であるし、歴代首相の多くも努めてきた。少なくとも首相の“主戦場”はジュエリーベストドレッサー賞の表彰式などではなく、国会の議場そのもののはずだ。

 政権の支持率はまだ高いものの、マグマがくすぶっていることは間違いない。石破茂前首相や村上誠一郎前総務相といった“生粋の党内野党”のみならず、先の衆院選で高市首相とのツーショット写真をポスターに使った議員の中にも、心が離れている者もいる。高市政権は長期政権になると予想する評論家もいるが、リスペクトを欠く国会対応を見る限り、どこかで大きく潮目が変わっても不思議ではない。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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