CDNってなに? 【岡嶋教授のデジタル指南】
アーティストのチケット発売日や新作ゲームの配信日に、サイトがなかなか開かなかったり、動画が止まってしまったりすることがあります。「なぜ、俺がアクセスしたときだけ…」。混んでるんだなと理解はしつつも、関係各所への殺意が高まる瞬間です。
企業側も殺意を向けられ続けるのには慣れていないので、なんとか対策しようとします。インターネットの混雑、渋滞回避をしたいときに、まず出てくるのがCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)です。
CDNを一言で表すなら、ウェブサイトや動画の複製を世界中に配置して、利用者の近くにあるサーバーからデータを届ける仕組みです。
ちょっと分かりにくいでしょうか。もし現実の世界に引きつけるならば、行列のできる壁サークルを想像してみてください。みんながみんなコミケに足を運んで彼女ら/彼らのコンテンツを購入できるわけではありません。それでなくてもコミケは激混みです。
それでも、薄い本を買えるチャンスはあります。同人ショップでの委託販売です。CDNも同じことをしています。この場合、コミケを本拠地とするなら、これをオリジンサーバーといいます。同人ショップはエッジサーバーです。各地に散った販売拠点です。
動画配信サイトを想定して、役割を箇条書きにしてみましょう。
・オリジンサーバー(本拠地): 元々のデータがある場所。世界に1カ所しかありません(厳密にいえば、東京本社、大阪本社体制みたいなのはあるけど……)。
・エッジサーバー(各販売拠点): 本拠地の動画データを預かって、世界のあちこちで販売する拠点です。
このやり方であれば、コミケにお客さんが押し寄せてパンクすることなく、世界の人々が手軽に並ばず薄い本を買えるかもしれません。これがCDNの基本的な考え方です。
たとえ話をやめて、もうちょっと具体的な話をしましょうか。CDNでインターネットでの配信が高速になる理由は、主に二つです。
①一時保存の活用
一時保存は一般的にキャッシュと呼ばれます。スマホの設定などでも見かけたことがあると思います。これが通信の文脈で使われる場合は、一度オリジンから受け取ったデータを、エッジサーバーが一時的に取っておくことを表します。
2人目以降の利用者には、オリジンに再度問い合わせることなく、エッジサーバーが手元に残してあるデータをさっと渡すだけです。このやり方により、オリジンサーバーの負担は軽くなり、利用者も待たされることがなくなります。
②物理的な距離の短縮
データ通信がいくら高速で、「インターネットは距離を無効化した」といったところで、やっぱりその速度には限界があります。電気通信は光に近い速度でデータをやり取りできますが、例えばアメリカにあるサーバーにデータを取りに行く場合、その速さをもってしても国内のサーバーにアクセスするよりは時間がかかります。
CDNは利用者の一番近くにあるサーバー(エッジサーバー)からデータを届けるので、この物理的な距離による遅延(レイテンシ)を劇的に減らすことができるわけです。
名称としてはあまり耳にしたことがなくても、私たちが普段使っているサービスの多くは、CDNなしでは成り立たなくなっています。
例えば、NetflixやYouTubeで高画質な動画が途切れずに再生されるのは、世界中に配置されたエッジサーバーに(よく視聴される動画を中心に)データが分散保存されているからです。新作ゲームの配信日に大容量データを数百万人が一斉にダウンロードできるのも、CDNが通信の負荷を分散しているおかげです。
年に一度のセールでアクセスが何十倍に膨れ上がっても、サイトがダウンせずに買い物ができるのも、CDNのおかげです。店舗が同じ規模のネットワークを用意するのは大変(無理)ですが、CDNだったら「そのときだけ借りる」もできますしね。
こうして普及したCDNは負荷分散だけでなく、別の役割も期待されるようになってきています。その最大のものは、セキュリティーです。悪意のある第三者が大量のアクセスを送りつけてサイトをまひさせるDDoS攻撃が有名ですが、近年のCDNはこの攻撃を広大なネットワーク全体で受け止めて被害を緩和する、強力な防壁として振る舞っています。
インターネットを支える技術は私たちの目に具体的な輪郭をとって映ることはありませんが、次に何かの動画を再生したときに、「どこかのエッジサーバーが頑張ってそうだ」と思い出してみてください。
【著者略歴】
岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/中央大学政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)、「機動戦士ガンダム ジオン軍事技術の系譜シリーズ」(KADOKAWA)。Eテレ スマホ講座講師など。
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